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テンカウント
もう、いいのよ。
彼のお母さんはそう、ぽつっと口にした。
彼の骨がこの墓石に入ったその日より、下瞼はたるみ、口元に深い皺が入って、痩せたその顔で、必死に笑みを作ろうとしている。でも、わたしの目には笑顔は見えなかった。
その日から仕事が終わると、高校時代に彼と一緒に乗っていた電車に乗り、数え切れない誰かが座ってくたびれた席に座り、窓に映る自分の顔と、闇に飲み込まれた景色を見ていた。
わたしは指折り数えて待っている。
君と初めて出会った日から、君がなにもいわずに去ったその日までの、すべての、思い出と呼ぶにはあまりに小さすぎるかけらたちをわたしのものにできる日を。
その日、やっと、きみに会いにいける。
Twitter内企画の毎月300字小説企画、先月は持病悪化のため、参加できませんでしたが、今回は参加させていただきます。
健康って大事。