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トーストを重ねる昼下がり
平凡でいて、それでも何かしら違う毎日がだらりと続いている。暑さに加えてむわっとした湿気を感じる日もあれば、思いの外カラリと過ごしやすい日もある。
暑い日が続いたかと思えば、雨でリセットされ、また季節を巻き戻したかのようにひんやりとする日もある。ジリジリとゆっくり季節が前に進んでいると思っていたら、踏切板で勢いをつけたかのように無慈悲にバン!と気温が跳ね上がる。もう潔く暑いでいいよ、夏を満喫しようよ。
そう覚悟を決めたのに、蒸し暑いと感じながら腹が冷えぬよう我慢して巻いた薄手の布団を朝方にはあってよかったとありがたがるのである。
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いつもどおり午前中の仕事を終え、父と母と昼食を取る。今日はピザトースト。4枚切りの食パンに市販のピザソースを塗り、玉ねぎ、ピーマン、ハム、チーズをのせただけのものだ。そんなシンプルさがどこまでもおいしい。
とはいえ、パン1枚では本当は物足りないのだ。我慢しているけれど、まだまだ食べたい。
でも、昨日は岩盤浴に行って、帰りに王将でノンアルコールビールとともに割とたらふく食べてしまった。結局、6月中に92kg台に減らすという目標は履行されず、5月末と同じ体重で7月に侵入することになるのだろう。
5kg走れるようになるという目標も達成されないのだろうか。せいぜい2kg走るのが関の山だが、もしかしたら辛くてもやめなければ5kg走れるのかもしれない。明日は強い意志を持って走ってみようか。
そんなこんなで今ひとつ腹が満たされないまま午後の仕事に入ったが、両親は少し出かけるという。
そうかそうか。家に誰もいなくなったら気持ちは大きくなる。ちょっと料理しよう。居候の身だが、その時だけは自分専用の厨を手に入れたかのように気持ちが穏やかに昂ってくるのだ。
何も材料を用意していなかったのだが、ランチに使われた4枚切りの食パンのあと1切れが余っている。これは無断で使っても怒られないだろう。
キッシュトーストを作ろう。
ピザトーストを食べたばかりだがそう決めた。
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すちゃっと食パンを取り出し、指で中心部をぐっぐっと押さえて、窪みを作る。マルチグリドルにオリーブオイルを引いて畑で採れたナスを焼き、あらかた焼けたらこれも畑で採れた万願寺とうがらしとハムを加えてざっと炒める。
卵1個に牛乳大さじ1、塩を少々加えてよくかき混ぜ、アパレイユを作る。アパレイユ。その響きを頭に思い浮かべるだけでフランスめいた気分になってくる。
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神戸に住んでいるときその名も「きっしゅや」で食べたキッシュがうまかった。密かに好物なのである。
アパレイユを食パンの窪みに流し入れ、具材を散らす。アルミホイルで蓋をしてトースターで焼き上げる。家庭菜園で育てているバジルを摘み、少しのせた。10分ほど焼いたら蓋を外し、あと2分ほど焦げ目をつけるために焼く。バジルはあとのせの方がよかったな。カラカラに焼けてしまった。それでもなおあのかおりは健在だった。
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ピザトーストとの差別化も兼ねて、フォークとナイフで上品にいただく。梅スパイス漬けのソーダ割りとともに。
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味付けはほぼしていない。アパレイユに加えた塩と炒めるときに使ったオリーブオイルだけだ。それがうまい。
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ガツンと食べたときとは違う持続的なしあわせを感じる。普段なかなか食べない特別な食べ物のようでいて、日常のささやかなしあわせを再確認させてくれるそんなトーストだった。2トースト目だということを意識する暇もなく、腹に消えていった。