うなぎと梅の相性は最高!? ピンチから生まれた奇跡のコラボ
禁断の組み合わせから、最高の組み合わせへ
日本一の梅生産量を誇る和歌山県で、新しい梅を使った商品が話題になっている。その商品を手掛けたのは、和歌山県田辺市で80年以上、うなぎ屋を運営している『太田うなぎ店』。
四代目の太田有哉さんが手掛けた「紀州南高梅ひつまぶし」は、今まで食べ合わせが悪いといわれてきたうなぎと梅干しをうまく組み合わせた商品で、和歌山県が県内の魅力的な商品を制定する「プレミア和歌山推奨品」の「審査委員特別賞」に選ばれるなど、多くの場で高い評価を受け、ヒット商品となっている。
紀州南高梅ひつまぶしは、かつお梅、こんぶ梅、しそ漬け梅の3種類の梅が使われているのが特徴。
まずは、秘伝のタレと「かつお梅」で仕上げたうなぎをごはんにのせて「かつお梅うなぎ丼」を楽しんだ後、うなぎの骨からとった特製だしで「うなぎ茶漬け」へ。そこに「昆布梅」を丸ごと乗っけて「昆布梅のうなぎ梅茶漬け」へ味変する。最後にペースト状の「しそ漬け梅」で自分の好みで酸っぱさを追い足せば、様々な角度から味の変化を楽しめるように工夫されている。
うなぎと梅の禁断の組み合わせに「味変」や「味の追い足し」など食べる楽しみを加えた「紀州南高梅ひつまぶし」は、今までうなぎを食べていなかった若者からも選ばれる最高の組み合わせになっているそう。
「うなぎの価格の高騰から、一時はうなぎ屋を離れようと思うこともあったが、コラボがきっかけで生まれたこの商品に励まされています」と話す太田さん。紀州南高梅ひつまぶしの開発の裏には、コラボを促す「田辺独自の気質」と、ピンチをチャンスに変えた太田さんの「課題を解決するための追求力」があった。
若者を意識した可愛らしいパッケージ
田辺人は飲みの場で何かが生まれる、味光路が繋いだ梅とうなぎ
太田さんが4代目を務める太田うなぎ店。うなぎが一般に食べられるようになった時代からうなぎ屋を運営していたが、昨今はうなぎの仕入れ価格の高騰に頭を悩ませてきた。
「うなぎの稚魚が取れなくなってしまったため、その価格は10年前の2.5倍にもなっています。値段が高騰した結果、お店の売上もあがらず、一時は家族会議を開き『うなぎ屋を離れよう』と話し合ったこともありました」と話す太田さん。
そんな自体を打開するためにとったのは、田辺市が主催する「たなべ未来創造塾」への参加だった。
たなべ未来創造塾とは、田辺市が2016年から始めたローカルイノベーターの育成塾。地域資源の活用と、地域課題を解決する新たなビジネスの創出を目指して運営されていて、これまでも多くのコラボビジネスが生みだされてきたため、太田さんも塾に参加することで、なにかきっかけを掴もうと考えた。
「もともとは、うなぎ屋以外のビジネスの種を見つけるために参加したんですけどね」と話す太田さん。同じたなべ未来創造塾に参加した梅農家と悩みを語り合うなかで、梅の味は変わらないのに、傷によって価値が下がってしまうことや、梅干しの若者離れが進んでいることを聞き「梅もうなぎと同じような課題を抱えているんだな」と梅への興味を高めていく。
たなべ未来創造塾では、コラボレーション(つながり・連携)を重視している
うなぎ屋を継ぐ前までは料理人として活動していた太田さん。脂ののったうなぎとさっぱりした梅の相性は抜群で、梅干しのクエン酸は消化を助ける作用があるため、食べ合わせは良いことを前から知っていた。
そこで「梅とうなぎのコラボ商品を作れないか?」そんなことをおぼろげに考えていたとき、たまたま入った飲み屋でことは動きだす。
田辺には「味光路」と呼ばれる200店舗以上もの飲食店が軒を並べる和歌山県随一の飲み屋街があり、太田さんもよく利用していた。
そんな味光路のお店に偶然居合わせたのが、田辺市でふるさと納税の担当をしていた鍋屋安則さんと梅農家さん。お酒を交わしながら「ふるさと納税の返礼品で良いものは無いか?」という話で盛り上がったことをきっかけに、その場に居合わせた梅農家さんと、うなぎのコラボ商品を作ることを決意。
「田辺の人はよくあるんですけども、飲みの場で何かが生まれるんです。田辺ならではの軽い発想からかも知れません」と笑って話す太田さん。
コラボの種を生んだ「たなべ未来創造塾」とコラボのきっかけを作った「味光路」。それに太田さんの軽やかな発想が組み合わさって、うなぎと梅のコラボ商品が生み出されたのだった。
左から太田さん、鍋屋さん、野久保太一郎さん
仲直りの秘訣は、悩みを持ち寄って価値に変えること
長年、相性が悪いと言われてきたうなぎと梅の商品なので、商品にストーリー性を加えたいと考えていた太田さん。思い浮かんだのが、太田さん自らが直面しているうなぎ屋の課題と、たなべ未来創造塾で聞いた梅農家の課題だった。
稚魚の高騰で原価が安定しない「うなぎ」と、形が崩れると売値が下がる「梅」。両者はそれぞれ特有の悩みを抱えつつ、どちらも若者離れが進んでいるという共通の課題を持っていた。
うなぎと梅のお互いの悩みをコラボ商品で解決できたら「仲直り」ができたと言えるストーリーになるのでは無いか? と考えた太田さん。「うなぎと梅の仲直りプロジェクト」と名付け開発を進めていった。ちなみに「仲直り」というテーマも味光路で飲んでいるときに思いついたのだとか。
そんななか、高騰するうなぎの量を抑えつつ、梅の形を気にせずに提供できる方法を考えて行き着いたのが「ひつまぶし」。
ひつまぶしであれば、うなぎの量を自由に調整でき、うなぎに合うように味付けされた規格外の梅をペースト状にして付ければ、何通りもの食べ方を楽しめる。まさにお互いの悩みを解決できる商品だった。
また、若者にも興味を持たれるようにパッケージも一工夫。たなべ未来創造塾がきっかけで出会ったデザイナーの竹林陽子さんへ依頼し、手が出にくい高級食材のイメージを和らげるため、ポップで可愛いデザインに仕上げた。
その結果、梅とうなぎが「仲直り」した商品としてメディアにも取り上げられ「紀州南高梅ひつまぶし」は多くの方に愛される商品となった。
規格外の梅をペースト状にして、好みで味変ができる
ひつまぶしによって実現した梅とうなぎの「仲直り」だが、太田さんの商品開発はそれだけに留まらない。
「紀州南高梅ひつまぶし」を販売して以降、うなぎに合った梅干しの味を追求するため、当初は加工業者にまかせていた梅干し加工も、太田さん自らが行うようになった。「うなぎ屋なのに、倉庫の大部分が、梅干しに占領されています」と笑って話す太田さん。味への探求心に火が付き、どんどんうなぎに合う梅干しの味を追い求めていった。
そんななか「もっと梅とうなぎを仲良くさせたい」。そう考えた太田さんは、梅農家の野久保太一郎さんに「梅の悩み」をヒアリング。(その時も味光路で話したのだとか)梅を作る過程で出る枝の処分が大変なことや、多くの肥料が必要なことなど、まだまだ梅には悩みがあることを知る。
そこで、うなぎと梅、お互いの「いらないもの」を掛け合わせて利益を生み出すことができれば、もっと距離が縮まるのでは無いか?と考えた太田さん。解決策として考えたのは「うなぎの燻製」だった。野久保さんに協力してもらい、梅の「いらないもの」である「伐採した梅の枝」を「燻製用のチップ」へ加工し、そのチップを使ってうなぎの燻製を作りだした。
うなぎの燻製の表面は梅の香りがほのかに漂うスモーキーな味わい。内側はレア感を残し、うなぎ本来の味が楽しめる商品になっていて、お酒にとても良く合うのだそう。
梅のチップを使った鮪の燻製
また、うなぎの「いらないもの」として、廃棄されていた「うなぎの骨」を「肥料」へ加工し、野久保さんの畑で梅を育てる際に肥料として使いはじめている。長年、仲が悪いと思われていたうなぎと梅だが、田辺では太田さんの活動によって、お互いの「悩み」や「いらないもの」を補い合う必要不可欠な存在になった。
「紀州南高梅ひつまぶし」を始め、うなぎと梅の仲直りした商品たちがきっかけで、お店のことを多くの方に知ってもらった結果、うなぎ価格の高騰が叫ばれる厳しい状況であっても、お店の売上は回復しているそう。
「今までうちは84年店舗を運営しているんですが、うなぎの高騰で一番の危機だったと思います。そんな時代だからこそ、逆転の発想で、できる商品を作りたい。商売人なので、常に課題とチャンスを探していますし、どうやったら、たくさんの人に知ってもらえるかを考えています」と話す太田さん。
「厳しい時代だからこそ今までとは違うこと。親父とは違うことをやらなければいけない」そんな信念を持っているそう。太田さんの課題を追求する姿勢が、梅とうなぎを結びつけ、お店の窮地を救った。
コラボを促す「田辺独自の気質」と、ピンチをチャンスに変えた太田さんの「課題を解決するための追求力」によってできた「紀州南高梅ひつまぶし」。ぜひ、進化を続けるうなぎと梅の仲直りストーリーを舌で味わってみて欲しい。
写真:永井 克(1枚目)
文:内田靖之
▽太田さんのインタビュー動画もぜひご覧ください!