次世代のデイサービスは、何を求められるのか。
次世代。。。とてつもない捉えどころのない言葉だ。世代は常に入れ替わる。次の世代はいつでもあたらしい。
ではデイサービスの「次世代」とは、何を指すのか。それはクライアントが新たな経験を送ってきたことが影響するのである。
団塊の世代とは何か
団塊を紐解くと、まさしく「かたまり」が本意となる。これは終戦後数年の間に焼け野原の日本に生まれた世代を指し、第一次ベビーブームと呼ばれた。彼らは戦争の過酷さを知らず、貧しいながらも親の世代が日本たった十年そこそこで立て直しているのを目の当たりにしている。ものがなかった時代から、ものが溢れるさまを目に焼き付け、体験してきた。この世代は、自らの子供の数も親の世代とは違う。社会は裕福になり、所得も上がり、子供の数も少なく、自由な時間や生活を得られたのだろう。さらに定年近くになってくるとバブルが終わり、社会経済が疲弊していくのも体感している。ゼロから、大きなプラス、さらにマイナスへと、アップダウンを先頭を切っていたのである。これだけ多彩な経験をしている世代はないだろう。ちなみに彼らの世代が子供を生んだ第2次ベビーブームは世の中が安定している時代に生まれ、徐々に経済が悪くなり、回復していない時代を生きている。かれらが次々世代になるのだろう。
ものがあふれると選べる?
たとえばワイシャツといえば昔は仕立て屋に依頼をした。それが紳士服屋が増え国内外合わせて多くのメーカーの商品を選べるようになる。しかも全員が中流であるため、買えない品物は少ない。払えるだけの資産があり、選べるだけの商品があると購買欲は衰えない。プロダクトを売るときに選択肢が多いと売れないと言われるのが定説だが、あり「過ぎる」選択肢は、オリジナリティを求めるかのごとく、自分らしいものを選択したくなる。この「突き抜けた」バリエーションをプロダクト(特にハード類)にて行うとメーカーへの負担が大きすぎるため、ビジネスモデルとしてはなかなかできないところである。
画一的なものを与えられることへの抵抗感はこの世代特有の根深い意識と考えられる。きっと親世代が制限された生活が送られてきた反発なのだろう。次世代(団塊の世代)には、この「自由度」が鍵になる。
デイサービスの基本提供内容
効率性を考え、全員が同時間に出入りし、画一的なサービスを提供し、施設側効率性を重視で時間を管理していく。そのようなスタイルが概ねの基盤になる。数年前に「自立型選択デーサービス」という分類の元、コンテンツは提供するけれどやりたいことを自分で決定するスタイルも一時はやった。しかし腑に落ちないものがあったのは事実である。結局内部循環にとどまっており、外部との連携業務がない。そこに管理型デイサービスとの決定的な差異を見出すことができなかった。
今回、伺ったのはMWS日高が運営するデイサービスだ。なにをもっていっても定員が桁違いである。有効定員上限400名だそうだ。現在は250名にとどめているがオペレーション次第ではそこまで大きくなれるということである。施設内はデイサービス空間の他に小さなカフェ(食事、飲み物が購入可能)が併設(内包)されており、シニアフィットネスと学習支援サービスもある。屋外(敷地内)には移動販売スーパーが毎日のように来る。これだけでも盛り沢山だがこの配置と運営方法が秀逸である。まずメガデイサービス(言い換えると地域交流センターだと思われる)は、サービスを提供しているのではない。あくまでも場所を提供していることに特化しているのである。よってどの事業も考えるのは「人の循環」である。誰もが年を取り老いていく。その人生の流れによりそうことで、あらゆる可能性ときっかけを散りばめていくのである。
シニアフィットネスに関しては、対象年齢55歳以上、同法人職員は無料で利用できる。大きさは、100m2程度。本格的な機器が並びに、スタッフが1〜2名ほど常駐する。一般的なフィットネスと言っても過言ではない。この事務がある場所は「デイサービスの2階」にある。この2階フロアにも1階同様のデイサービスが提供されており、よくいえば混在する形になる。55歳とはまさにこれから体調や状態いかんによってはデイサービスを利用する年齢層である。それが抵抗感なしにデイサービスに普段から関わることは選択肢の一つになるだろう。日中から夜間にかけて営業しており、夜間は主要部分には行き来できないように通路を制限し、2階のみへのアプローチとなる。日中は近隣の一般利用者、夜間は法人スタッフなどと常に10人程度が使っている状況である。
夕方からは2階のフィットネス横デイサービス部分が営業終了後には学習支援サービスとなり、近隣の小中高生が学習に来る。一ヶ月の利用料金が1500円と破格なのも驚きである。これはフィットネスの職員が兼務で管理し、自由度の高いサービスになっている。施設の空き時間を有効活用というビジネスではあるが、学習室にした狙いは別にある。未成年が利用するために保護者が契約などに来なくてはならない。その際に先程同様デイサービスを目にするわけである。そうすると中高生の祖父母はまさにデイサービス利用世代である。「このような場所ならばおじいちゃんが行ってくれないかな。」と思わせることも狙いの一つのようだ。さらに高校生の場合、県内の大学よりも東京に出てしまうことが多い。それより仕送りなどを考えると共働きにせざるを得ない。専業主婦だった母親が知っている場所で話しやすい施設とすれば、そのデイサービスになる。経営者はよく顔を出して子供たちの面倒を見ているようである。そこで親が「ここで働けないか?」と相談をもちかけるそうである。さらに子どもたちには看護師の良さを進め、看護師になったら帰っておいでと声をかけるという正の循環が出来上がっている。理論はあとから付け加えた部分もあると思うが、それが1例でもうまく回っていればやる価値はある。大きなリソースを割いていないわりには大きな成果とも言える。
カフェに関しては外部の住人との交流ということと、利用者がデイのカフェをわざわざ利用することもある。これは利用というと、デイサービスから抜け出しているように思われがちだが、そうではなくサービス利用中にカフェの自費サービスを注文するのである。このあたり時間との兼ね合いがあるがとてもうまくできている。利用者が食べたいものを自分のタイミングで得ることができる。まさに画一的なサービスとは違う自分の決断で決められるすばらしい方略である。デイでの食事は、朝入所時に必要であれば予約をする。予約しなかった場合の対処として方略は3つある。1つは上述のカフェで注文を行う。2つ目は自分でお弁当などを持参する。コンビニで買ってきても良い。3つ目は移動販売で購入することができる。
移動販売では、近隣大手スーパーを業務提携を行い、販売用車をビジネスモデルを提案し、購入して運営している。1台1500万円の購入費がかかり、運営費とすると1台あたり月額200万円の売上が損益分岐点になるようである。一日利用者200人とすると、月延べ人数4000人以上になる。見学の際も販売1時間でエコバック20個ほどの購入が見受けられた。現在では月売上250万を超えているとの言うのも驚きである。この数年で3台まで増やしているとのことである。さらに敷地内の販売であるため、利用に制限もなく利用者も自由に買い物ができる。さらに近隣住民も利用していいことから、交流のきっかけとなる。
これらなかなか見られないハード面の取り組みは枝葉のように広がり、すべてがデイの運営「集客」につながっており、孤立している事業がないのもこの事業の素晴らしいところである。社長はまだまだ何かを画策している表情をされていたので、新しい事業に期待をしている。
ソフトとハードの兼ね合い
こうなると、自由という名の放置に近いと思われるだろう。しかしそうではない。この施設の運営は医療法人が行っていることからエビデンスはとても重要視される。エビデンスがないものには資金も投入できない。デイサービスとしてのコンテンツは数百にも及び、毎日さまざまな取り組みが行われている。「デイトレセンター」という名前の通り、運動がメインなのは言うまでもない。その他にもカルチャー要素のものも数多く取り入れている。これらコンテンツは常に開発され提供され、結果検証がされ、というルーチンが確立している。運動系は専門職が担当し、カルチャー系は他職員が担当する。専門性が高いものは近隣企業に依頼をし格安で講師を依頼する。その代わりその店舗の顧客になるように促すことも一つの柱であるようだ。
近隣企業にとっても、わざわざマーケットを集めるよりも、そこで出店すれば確実な数にアプローチできるためまさにPoCにはベストな環境と言える。
それらデイサービスの活動においては、全てが記録されている。まさにDeepLearningの礎ができている。はじめのデータの構築が先を見通して作ってあることが功を奏して、とんでもない量のデータがストックされ、回帰式や予測式が導き出されるのである。なので、一般的な未来への推測があらかたできてしまう。(高齢者特有の細かい因子はさておき、指針は出せることになる)「あなたは、介護度が〇〇で、疾患が〇〇だと、〇〇運動と、〇〇運動と、〇〇活動をすると、〇〇ヶ月後には、〇〇くらいよくなるという結果がありますよ」と利用者には伝えるのである。そのうえで、「何を選ぶのか」は本人次第であるし、「どのくらいやるのか」も本人次第になる。しなくてはいけないのではなく、したほうがよいというアドバイスに留めるこのギリギリの助言が秀逸であろう。(多分外れ値としても対応できるはずなのでそれも面白いところです)こうしたエビデンスベースの介入をしながらあらゆるコンテンツを提供し、自分で自分なりのデイサービスを作り上げていくという、まさに「カオスデイサービス」といってよいだろう。前述の「選択自立型デイサービス」の違和感はこの点にあったことがわかる。コンテンツをいくら用意しても「自由度が狭い」のである。そして「スペースが狭い」と自由度は生まれにくい。それらを考えるに敷地面積を広く取るメガデイサービスは確かに「次世代型」と言えるかもしれない。
アナログも十分有効
これだけ近代化していると、アナログの出番がないのかと思いきやそうでもないのがこの施設の特徴である。患者情報はすべてサーバーにストックされ、サービス内容や実施記録、連絡帳印刷、実績送付まで自動で行われる。(これは最近の介護ソフトも導入しつつある)入浴に関する介護情報も簡易に確認でき、入浴介助者はそこだけを確認すれば良い。(記憶を頼りしないというのがもっとも労務量を削減できる)利用者がかけているネームプレートには徘徊予防用のタグが入っており、玄関から出ればアラートが鳴るなど様々なDXが内在している。やはり大事にしているのは細かな対応である。「良いサービスが人を集める」のではなく「人が集まる場所がいいサービスだ」と言い切る経営者もなかなかいない。新規受入利用者は大勢がいるコミュニティーに入る。まさに右も左も分からないだろう。慣れるまでは時間がかかる。その新規加入者を見極るためにネームプレートのネックストラップのカラーを一つだけ固定する。例えばピンクを新規利用者の色にして、それ以外は何色でも良いようにする。そうするとスタッフはピンクのネックストラップの利用者には積極的に声をかけに行くのである。そして相談員がその動向を確認しつつ、一定期間が終わればピンクから開放される。そうすると声をかけられなくはなるが、自分で自律的に動けるような状態になっているのである。こんな些細なテクニックも随所に見られ、北嶋社長は惜しげもなくレクチャーしてくださっていた。そうとう高額なコンサル料を支払わなければならないだろう。それくらいハードとソフトと、人材育成が見事にマッチしたデイサービスであったというのが最終的な感想である。
新たな取組はまだまだ続く
「この地域のインフラだと思っているんだよね」と言われて、ピンとこなかった自分がいた。確かに僻地であればバスも電車も、あらゆる交通網が弱い。交通弱者がこれからますます増えていくことは明白だ。デイサービスに内在する送迎車は定員が多ければ多いほど台数を抱えている。しかもフル稼働しているといえばそうでもない。そこまで乗車効率は上がらない。ではその空いている時間や、車席を「インフラ」として使うのはどうかというのが、新しい取り組み「福祉Mover」である。どこかのサービス名と似ているのも愛嬌である。サービスを広げるためにはどんな手段でもつかうという意気込みが名称にも現れている。デイサービス送迎車の稼働している時間帯に、スマホで予約を入れれば送迎車に無料で乗車してもらえるサービスである。運輸局には「白タク行為だ!」とけんもほろろだったようだが、観光庁では「観光事業の一つ」として認めてもらい、今年度は経産省の事業としても採択され一定の費用を受諾できることになった。そのPoCの規模も凄まじく自社サービスを含め200台の送迎車に本システムを導入し、効果検証を行うということである。「高齢者がスマホで予約できるか」がネックであるが、そこの抜かりはない。毎週のようにスマホ教室を実施し、利用者には「ITツールをなじませる」取り組みを随時している。何度も何度も同じ講座を受けることも可能である。そういった下支えがあることで事業者の負担も少なく、利用者も少し努力することで恩恵を受けることができ、最終的には地域の活性化につながるという壮大なビジョンには「メガデイサービスだからこそできる」強みだと感じた。
約2時間の長丁場であったが、根気よくお付き合いいただき、丁寧にお話をしていただいた。参加者全員がそれぞれおの思惑をもって参加したが、適切に優先順位を決められていた。さらに社長が笑顔を絶やさない。これは接客用の笑顔ではなく、ご自身が今を楽しんでいるのである。曲がりなりにも当社もデイサービスを運営しているとさまざまな苦悩に直面する。無理難題も管理法人から言われることもあるだろう。しかし「課題を解決すること」に喜びを感じているのは事実である。当方が突飛なアイディアを提案しても、その実装された自身の施設を思い描いて「それ、おもしろいね。ぜひやろうよ」といってくれる。そのような社長の懐の深さに甘えながら、さまざまなビジネスモデルと提案していきたいと思う。吸収できるものをしっかりと手に入れたい。