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いい学び舎とはなにか、そもそも編集は学べるのか

英会話スクール、話し方教室、プログラミング講座。——いま、世の中はたくさんの「学び」にあふれている。リスキリングなる取り組みもさかんで、国から助成金の出るプログラムもちらほら。ちなみに、わたしが所属しているカンパニーも3年前、次世代のライターを育てる「バトンズの学校」をひらいた。

いま自分に必要な学びはなにか。
どこに身を置き、だれを師とするか。

どのスクールを選ぶにしても、それなりのお金や時間を使う。慎重になる。一方、学ぶ場が多いからこそ「講座ホッパー」になりやすくもあり悩ましい。

じゃあ、大人にとっての「いい学び舎」とはどんな場所だろう?

もちろん、ほしい知識や技術が手に入るのは大前提。その道のプロの知を惜しみなくシェアしてもらい、高い視座に触れ、刺激を受ける。

ただ……わたしは、それだけじゃ足りないと思っている。打ち上げ花火に高揚しても明日からの日常は変わらない。

わたしが考える「よき学び舎」は、学びつづける人を育てる場、だ。開校期間にテンションを上げるだけでなく、その後の生き方も変える。そんな場に身を置けば、「よき学びだった」と言えるのではないだろうか?

身の程を知り、向上心に火をつける。
モチベーションとなる仲間ができる。
そして、努力の仕方の道しるべを立ててくれる。

そういう意味で、今夏に聴講した「ツドイの編集学校」はすばらしい学び舎だった。

* * *

「編集学校をひらこうと考えています。つきましてはライターとして講義をしていただけませんか?」

ツドイの代表・今井さんから打診を受けたのが4月。もっと大御所もいるだろうに、とおどろきながらもありがたい機会だと引き受けた。それに際して、ひとつお願いをした。「もし可能でしたら、すべての講義を聴講させてくれませんか?」。

というのも。

今井さんとは知り合って10年以上経つ。はじめてお仕事をしたのは2019年。街エッセイの依頼をいただいた。

それから今井さん、ツドイの編集者さんとは何度もタッグを組んできた(余談、何度か編集とライターの役割が逆になったこともあるけれど今井さんは「書ける編集者」でもある)。

JINS PARKでは編集長インタビュー、対談、連載などたくさんのコンテンツでご一緒した

ツドイさんからのお声がけは、いつもわくわくする。彼らが組成するチームは気持ちがいいし、言葉を尽くしてコミュニケーションを取ってくれるし、結果的にすてきなコンテンツになる。

そんな彼らがひらく学校ならすばらしい場になるだろうな、中堅キャリアのわたしもあらためて編集を学び直したいなと素直に思った。

ただ、一方で、「編集は実務を通さずに学べるんだろうか?」という思いもあった。出版社の編集部のように、編集長や先輩の姿勢、アイデア、赤入れから学ぶのがセオリーなのではないかなと。今井さんも「編集者は編集部が育ててきた」とnoteに書かれていたし、それが開講の意図みたいだけれど、いわゆる「講座」でそれがかなうのだろうかと。

疑っていたわけじゃないけれど、ツドイさんはなにをするんだろうとすごく興味があったのだ。

「もちろん、ぜひ」

図々しい申し出を快諾していただき、いざ参戦とあいなった。

* * *

全8回。ひと言、「よき学校」だった。

「編集とはなにか」の再定義。集めるべき情報の4分類。情報にあたるとき意識すること。企画=「絵に描いた餅」を具体にするチームづくり。仲間との出会い方、関係の育み方。そして、ぶっちゃけすぎなくらいなんでも答えてくれる質疑応答——。

たとえば「一文を短くしましょう」といった(どうでもいい)tipsはほぼ語られない。ただ「企画を立て、チームを結成し、つくったものを届ける」ために編集者はどうあるべきか/なにをすべきかを、経験談を交えて仔細に語る。日々の小さな選択から考え方まで、「編集者として生きるには?」という問いに対する暫定解を共有する。

小手先の「学んだ感」で満足させない。編集者になる種、を植えようとしているんだなと伝わってきた。

受講生の中には、文章コンテンツだけでなく地域や音声などを編集する方がいた。「編集を学んだことがない」「肩書きは『編集者』だけど自信がない」という方々もいた。みなさん、とてもいい顔つきで卒業されていった。

それは(すがすがしさはもちろん)「これからの自分」への期待もあったんじゃないだろうか。「こっちに進めば大丈夫」というコンパスを手渡されたから。かつての編集部が、若手編集者に手渡してきたように。

そして「卒業後」の自分を支えるひとつにコミュニティがあるわけだけど……この「場の完成度」にまた舌をまいた。一体感という言葉では陳腐になるけれど、40人1クラス、けっこうな人数なのにまるでひとつの編集部のよう。

そんな場をつくるための、オンライン上のコミュニケーションから講義、懇親会まで、ちょっとした工夫の膨大な積み重ね。これぞ知見、そして人柄(会社柄?)。社員の方々のホスピタリティや対応のきめ細かさに、うなった。そういうツドイさんの雰囲気に引き寄せられたのか、受講生もみんな気のいい人ばかりだったのだけど。

イベント「Podcast Weekend」の立ち上げ、『週刊少年ジャンプ』の催し、自社の古本市「ツドイ文庫」……常々コンテンツづくりと同じくらい「場づくり」の腕がすんごいなあと思っていたけれど、コミュニティもここまでつくりあげられるものなんだな。非受講者としてうらやましいくらいだった。

* * *

身の程を知り、向上心に火をつける。
モチベーションとなる仲間ができる。
そして、努力の仕方の道しるべを立ててくれる。

きっと、この学校に通った人たちは、これからも学びつづけるんじゃないかな。考えつづけ、動きつづけ、種を芽吹かせ花を咲かせる。ほんの少しだけ自分の経験や考えを手渡した人間としても、そんな姿を見るのが楽しみだ。

そしてわたしも、いちばん後ろでひっそり参加させてもらったいち編集者として種を育てていこうと思う。素直に、どん欲に。

* * *

余談も余談だけれど、最終日の懇親会でおしゃべりしていた受講生の方から「田中さんの印象がすごく変わりました! 思ってたよりずっとラフで……」と言われた。そう、スッと見られがちだけど極めてざっくばらんで雑な人間なんですよ。マイナンバーカードを紛失するくらい。素が見えたのもまた、すばらしい懇親会のおかげということで。

ツドイの編集学校、最新情報はこちらでアップされているようなので、ご興味ある方はぜひ! 京都校の〆切は今週金曜日だそう。

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