モーリシャスでの貨物船座礁にともなう油流出事故
概要
長鋪汽船株式会社から商船三井が傭船し運行する,ばら積み貨物船WAKASHIOが7月26日(日本時間)にモーリシャス島の東,南緯20度26分17.2秒/東経57度44分40.7秒で座礁した.
救出作業中の8月6日に損傷した船体からの燃料油の流出が確認された.
[参考情報]
- モーリシャス共和国政府からの状況報告 [2020-08-07]
- 商船三井からのプレスリリース [2020-08-07]
- 長鋪汽船からのプレスリリース [2020-08-08]
座礁現場の概要
座礁現場がどのような場所か,という情報があまり伝わってこないので,どのような立ち位置の海域なのか,ということについてまとめます.
まずはじめに,モーリシャス共和国は,インド洋の西部,マダガスカルの東に位置する島嶼国家です(上図).今回の座礁が発生したのは,首都かつ最大都市があり,同国最大の面積を持つモーリシャス島の東側でした(下図; 座礁した位置を赤いX印で示しています).モーリシャス島は火山島で,島を囲うように(海中の)山麓に発達したサンゴ礁のすぐ沖は急激に水深が深くなっています.
ちなみにモーリシャス島から北に弧状に伸びる水深の浅い海域はマスカレン海台,南側に広がる深い領域はマダガスカル海盆とよびます (Tomczak et al. 2003).
モーリシャス周辺の海洋環境
インド洋の表層の海流は,アジアモンスーンの影響で,季節によって大きく変動します.季節にかかわらず黒潮・親潮・対馬暖流が大きな影響力をもつ北西太平洋とは大きく様相が異なります(詳しくは例えば Tomczak et al. 2003 の Chapter 11 を参照).その中においても,年間を通して赤道反流 (Equatorial Current) とよばれる西向きの流れが押し寄せてきて,モーリシャス島周辺を通り過ぎて,マダガスカル島にぶつかった後に,南極方向に向かって流れる,という位置にあるのが,今回の海域です.北西太平洋でいうところのフィリピンに似た海域ですね.マダガスカル島にぶつかったのちに南極に向かう流れ(黒潮に相当)は東マダガスカル海流 (East Madagascar Current; EMC) と呼ばれています.一部はいったん北に向かってマダガスカル島の裏(アフリカ大陸との間)を通ってモザンビーク海流 (Mozambique Current) と呼ばれます.
上の図は HYCOM で推定されたモーリシャス周辺の海面水温分布です(2020年08月14日).東マダガスカル海流,モザンビーク海流がどちらも明瞭にみられます.北西太平洋と同様に,赤道反流は流れが不安定で,大気での低気圧・高気圧に相当する中規模渦とよばれる渦がたくさん現れています(メモ付きの下図を参照).
現場に関連する環境の推移
2020年08月12日
GCOM-C が現場海域をバッチリ捉えた画像を取得しました.やはり水平解像度が250mだと,カラー画像からは油の流出は判別しにくそうです.
比較対象として,2020年07月01日の画像を示します(GCOM-C が250m解像度でモーリシャス島付近を鮮明に=雲がない状態でとらえた8月6日以前の最新の画像).詳細な比較が必要ですが,一見するとあまり変わりがないように見えます.
このあたり,SAR(合成開口レーダー)や高解像度可視の観測結果が出てきています.
2020年08月08日
米国の宇宙技術企業 Maxar Technologies が衛星によって取得した座礁地点の高解像度画像には,流出した油が北西方向にモーリシャス島に向かって広がっている様子が撮影されています(8月7日時点).
8月8日6時30分すぎ(世界標準時; 現地時刻10時30分過ぎ)に日本の地球観測衛星しきさい(GCOM-C)がモーリシャス上空を通過したので,その際に取得した観測データを可視化してみました.しきさいは可視光の波長帯では250mの空間解像度を持っています.WAKASHIOの全長は299.5mなので,1ピクセルちょっと,上記の衛星画像には比較すると圧倒的に粗いですが,その分波長方向には分解能が高く,さまざまな情報を引き出すことができるセンサーとなっています.
下図は,赤にバンド7,緑にバンド5,青にバンド3を割り当てて作成したカラー画像です.残念ながら衛星通過時にちょうど座礁海域は雲に覆われていました…しきさいの観測データは引き続きフォローしていきます.
更新履歴
- 2020-08-15: GCOM-Cによる8月12日の観測画像,周辺の海洋環境場,その他の情報を追記
- 2020-08-10: GCOM-Cによる8月8日の観測画像を追記