台湾ひとり研究室:映像編「中国歴史ドラマ『宮廷の諍い女』を中国語で観るときに押さえたい用語ー冷宮」
2011年に中国で放送され、日本でも好評を博している中国ドラマ『宮廷の諍い女』(原題:後宮 甄嬛傳/公式サイト)。描かれるのは、中国版大奥で繰り広げられる、女たちの壮絶な権力争いだ。愛憎、妬嫉、裏切り、失意などが凄まじい迫力で描かれる。《後宮 甄嬛傳》の名場面を何度も観ているうちに、気になる単語が出てきたので調べた。「龍」「後宮」「本宮」「自宮」に続き、冷宮を取り上げる。
冷宮はどこにある?
ドラマで肝を冷やしたのは、「打入冷宮」(冷宮送り)の瞬間である。物語の中では複数の貴妃たちが冷宮へと送られた。
最初に大きな騒ぎになったのは余答應の起こした事件だ。甄嬛に毒を盛ろうとしたことが発覚し、冷宮に送られる。ただ、宮廷に参内した貴妃たちでさえ、実際のところは送られた先がどんな場所なのか、よくわからなかったようだ。劇中の第 10 話で安陵容とその侍女、宝鵑がこんな会話を交わす。
紫禁城に参内した女性は終生、外出が許されない。出産の折でさえ、親のほうが紫禁城に来るほどだったことは、ドラマでも描かれている。いってみれば大きな冷宮みたいだともいえるけれど、当の冷宮は、乾清宮や長春宮とする説もあれば、留め置かれたその場所が冷宮という説もあるそう。明、清の史料には冷宮という記載がなく、建物名を書いた額もないため、正式な名称ではないと見られる。
なぜこんなことになるのか。まず「紫禁城の建物の総数は、宮殿、楼閣から門まで含めると 786 棟あった」(『宦官』中公新書)というのだから、その特定の難しさもさることながら、場所に困るような敷地ではないのもあるんだろうか。
一つ、冷宮の場所を特定した記述を見つけた。日本人作家・浅田次郎の書いた小説『珍妃の井戸』(講談社文庫)の中だった。
2 年間、冷宮に幽閉されていた珍妃という妃が、義和団事件後に井戸に投げ込まれて亡くなった。その死因を突き止めるため、ソールスベリー提督ほか列強からやってきた 4 人が、関係者一人ひとりに話を聞いて回る。その過程で太監が 4 人を連れて冷宮を訪れた。上のセリフは、その太監が語った冷宮の説明だ。
実際、珍妃の井戸と呼ばれる場所は、現在の故宮の北側にあるという。冷宮はどこにあったのか。そのことを調べれば調べるほど、なんだか切なくなる語なのだった。
勝手口から見た台湾の姿を、さまざまにお届けすべく活動しています。2023〜24年にかけては日本で刊行予定の翻訳作業が中心ですが、24年には同書の関連イベントを開催したいと考えています。応援団、サポーターとしてご協力いただけたらうれしいです。2023.8.15