台湾ひとり研究室:本屋編「新刊告知祭り:産地取材編」
書籍『「神農生活」のある暮らし』では、神農生活が仕入れている商品の紹介というだけでなく、その品物の産地取材にもお邪魔しました。南投、台南、澎湖、台北、新竹には違うエリアに3か所で、計7か所。それぞれに台湾らしさいっぱいの品を生み出す場所でした。
どんなものの取材に行ったかは、本書をご覧いただくとして、改めてその産地取材について触れておきたいと思います。
取材が始まった当初、産地取材として予定されていたのは5か所でした。神農生活のスタッフの方にお話を伺ううちに、(もっと行けるといいなあ)と思いました。ページ割や予算にもかかわる話ですので、おいそれと増やせないのではないかと考えていたわたしの予想とは裏腹に、行く場所が増えたことは、結果的に本にとってよかったと思っています。
なぜか。
どんな品物にも、作り手がいる。大量生産大量消費大量廃棄の世の中に生きているわたしたちは、えてしてものを買う際にそのことを見失いがちです。ものの量が豊かさの象徴となった頃から、作り手の顔が見えなくなっていたのではないかと、昭和生まれのわたしなぞは思うわけです。
断捨離やシンプルライフ、ミニマリストがいわれるようになり、この10年ほどでものとの付き合い方は随分と変化しました。ここからさらに、買い物のあり方はもう一段、変わっていくのだろうと思います。
それは、作り手を知る、という段階です。知ると、買い方がガラリと変わる。それを象徴していたのは、産地取材に同行した神農生活のスタッフさんの一言でした。
「産地で直接お話を聞いた商品に、より愛着が湧いてきました」
気づけば、産地取材の帰りは、カメラマンさんもわたしも、決まって誰もが山のように買い物をしていました。それは、気を遣って買ったわけでも、勧められて仕方なく買ったわけでもありません。おのずと「買って帰ろう」と思っていました。
取材の過程で、ものづくりに対する姿勢なり、向き合い方なりを伺い、苦労や楽しみをお裾分けしてもらったのが大きな要因です。ものには作り手がいて、その作り手の語りは、どんな商品紹介よりも味わい深く、「手にする意味」をもたらしてくれると思ったのでした。
どんな品物にも、棚に並んだものを見ただけではわからない物語があって、それを知ることで大きく心が揺さぶられ、「こういうものなら、置いておこう」と思うことができる。
そう考えると、全商品の取材に行けたらよかったのかもしれませんけども。
もうひとつ。品物そのものもですが、移動の間にも、それまで見たことなかった風景に出会いました。いちばん印象的だったのはこれ↓。
南投での取材の帰りに、この写真を撮るためだけに、スタッフさんたちとわいわい言いながら引き返しました。これ、ドラコンフルーツの畑です。夜はライトを当ててるんですって。アロエが波打った中に、蛍が群生してるみたいな、なんだか幻想的な風景でした。
普段、台北にいると、台湾のこういう風景を見る機会はありません。写真や映像など、二次情報として見るのではなく、やっぱり自分の目で見ると受ける印象や受け取る情報量は格段に違います。台湾という現場に暮らすライターとして、改めて現場に足を運ぶ大切さを痛感したのでした。
くどいようですが、本書には、台湾の観光スポットは出てきません。でも、作り手の思いや人柄、姿勢はたっぷり詰めたつもりです。少しでも、そのあたりが伝わればいいなと思っています。