台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蕭美玲《並行世界》」
台湾国際ドキュメンタリー映画祭TIDF2024で、個人的には最後の鑑賞作品となったのが、この《平行世界》である。
いわゆる映画祭でがっつり参加したことがあるのはTIDFと山形で、あとはドキュメンタリー作品だけ見て全体のスケジュールを把握しようとしたことがないのでよく知らないのだけれど、その2つの映画祭では、最終日に受賞作が一気に上映される。その最終日に本作を観る機会を得た。
フランス人夫の間に生まれた娘と母である台湾人監督が本作の主人公だ。アスペルガー症候群と診断された娘の幼少期に描いたイラストから映像は始まる。撮影に15年、編集に3年かけた、という本作は、その娘の成長の様子と家族の葛藤の物語だ。娘の美的センスと、お菓子づくりへの興味を伸ばすべく、娘の教育はフランスで行うことにした。だが、一方で、その決断は親子の平行する暮らしを生み出すことになる——
本作は、再見真實(TIDF VISIONARY AWARD)部門で、台灣影評人協會推薦獎(台湾映画評論家協会推薦賞)を受賞、さらに昨年10月に行われた山形国際ドキュメンタリー映画祭では日本映画監督協会賞を受賞している。
アスペルガー症候群は、最近では自閉症や高機能自閉症も含めた総称として自閉スペクトラム症、あるいはASDと呼ばれるようだ(参考リンク)。本作の主人公でもある娘は、対人コミュニケーションに課題を感じつつも、アートセンスが光り、何かを創作している時の集中力が凄まじい様子が映し出されている。
フランスに父、台湾に母がおり、普段は基本的に別居状態だが、夏休みになると台湾で母と過ごす。
2023年の統計によれば、台湾での婚姻者数12.5万人のうち、2.2万人は外国人との婚姻だという。また、そのうち67%が女性を占める。国籍別では、香港・マカオを含めた中国が最多で、ベトナム、アメリカ、マレーシアと続く(出典:台湾内政部統計処)。
筆者に子どもはないが、国際結婚に伴われた子どもたちの教育について取材を重ねていた時期があり、言語、文化、教育環境、国籍など、単純にはいかない事情を見聞きしてきた。
本作では、フランスと台湾という互いの世界を、さまざまにつなぎ、寄り添おうとする姿が描かれる。距離がかえって、越えよう、近づこう、とするのかもしれない。もどかしさに涙するのだけれど、あふれるような愛に包まれていて、涙はどこまでも温かな気がした。