台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-張照堂《紀念.陳達》《王船祭典》」
台湾国際ドキュメンタリー映画祭(TIDF)、2024年は5/10-5/19で開催されている。
2年に1度開かれる祭典のオープニング作品は、張照堂監督の《紀念.陳達》《王船祭典》だった。
張照堂監督は、スチールも映像も撮るカメラマンだ。今回、TIDFで「傑出貢獻獎 Outstanding contribution award」、つまりは卓越貢献賞を受賞した。ただ、TIDFプログラムディレクター・林木材さんによれば、何度か受賞を断られていたそう。ようやく受賞となった矢先の4/2、残念ながら81歳で帰らぬ人となった。
4月20日、映画祭のプレイベント「歲月.紀錄——張照堂:創作篇」が行われ、張監督の複数の作品が複数、上映された。
そのうち台湾のテレビアワード「金鐘獎」を1982年に受賞したTVドキュメンタリーシリーズ《映象之旅:礦之旅》が上映された。炭鉱事故で亡くなった鉱員の告別式に始まる本作は、ナレーションでは逞しき、美しき労働者を語りながらも、炭鉱の最前線まで同行してその労働の過酷さと、厳しい日常を描いた作品だった。撮影時期は80年代はじめとあって、政府の統制も厳しかった頃だ。ナレで称えつつも、映像できっちり現実を伝える。風刺の利いた映像だった。
そして開幕の《紀念.陳達》《王船祭典》だ。
陳達(1906-1981)は、台湾月琴の名手である。映像は、陳達の日常と演奏、近所の人たちの姿、そしてどこかでの受賞式の様子で構成されていた。1970年代の屏東の、彼の自宅らしき場所で撮影されたその映像には、土埃の舞うのどかな未舗装の一本道を、白いTシャツに半ズボン姿、そして肩に一本の月琴を抱えただけの陳達が歩いていた。ノーナレでインタビューの音声もないまま、音は全体で3曲ほどの彼の演奏が流れるだけ。観終わってなお、彼の声が耳にこだまするような1本だった。
同時上映された《王船祭典》は、それとは逆に現場の音は一切ない。こちらもノーナレ。バックには、英国のミュージシャン、マイク・オールドフィールドによる「Ommadawn」が流れている。
映像は、台南で開催されるお祭りを撮った作品だ。災難避け、悪霊祓いを祈念して、道教の神様である王爺を乗せた船を燃やす。その工程だけでなく、担ぎ手や祭りを見守る人々の様子も含めて撮影された映像も収められている。
撮影されたのは上と同じく1970年代。一般に王船祭典として知られるのは、屏東県のものだが、張監督が撮ったのは台南蘇厝だった。50年前の映像には、担い手たちの無鉄砲さだけでなく、どこか乱雑で無秩序な人々の姿が映し出されていた。
プレイベントで上映された「殺那間容顏」「父子藝術家」「都有他的時空」「再見・洪通」「美不勝收」含め、張監督が庶民の暮らしの記録にこだわった理由が、2024年の今だから、わかるような気がする。
諸行無常——だからこそ、人は今を大事にしなきゃいけないんだ。