嘘でもいいから「自信がある」って言うんだよ。

私は一応、文章を書くことを生業としている人なのだけれど、「私はめちゃくちゃ文章を書くことが上手いぞ!」と自信を持っては言えない。「一応」って言っちゃうくらい。一つ自信を持って言えるのは、「文章を書くことが苦ではない」ということだろうか。こうやって、今も書いているわけですし。文章を書くということ自体は特に資格を有していなくてもできるので、自分で「私、書けますけど!」と言い張れば、みんなライターになれる。それが自信を持ちきれない理由なんだよね。
でも、お仕事をしていると「これいいね」とか「またお願いね」と言ってもらえることがあって、その反応をもらうことが自信につながっていくのは確かだ。自分を信じると書いて「自信」だけれど、自分を信じるためには、認めてくれる他者の存在が必要。自信満々になるためには、やっぱり経験を積まないといけない。

後輩ができて、文章をチェックする立場になったとき、私は「なんて難しいんだ」と驚愕した。あからさまな言葉の間違いだとか、起承転結が変だとか、辻褄が合ってないだとか、そういう“ルール”に当てはめられるものは、ある意味機械的に赤字を入れられる。けれど、ちょっとした言葉の言い回しなんかは、人それぞれ好き嫌いがあるものだ。例えば、後輩は「鳴り止まない雨」という表現を使っていたのだけれど、チェックした私は「降り止まない雨、では?」と思った。けれど、音を強調したいがためにあえてその言葉を使ったのかもしれない、雨音の強さを表したかったのかもしれない。そう思うと赤字を入れる手が鈍くなった。まぁ、書き手の感情よりも、読み手の受け取り方の方が大事なのは、言うまでもないのだけれど。

ある日、後輩が「自信ないんですけど……」と言って原稿を持ってきた。その言葉を聞いて、私は心の中で少し不機嫌になってしまった。「自分が自信を持てない原稿を、私に見てもらうの?」と思ったからだ。「自信ないんですけど」よりも「今自分ができるベストを尽くしました!自信あります!」と持ってきてくれた方が、気持ちがいい。だって、読む前から、私にとってその原稿は「自信のない原稿」になってしまったのだから。


嘘でも「自信がある」って言うんだよ。

上司に言われたことがある。そう言われた時は(そんなの嘘つきじゃん!怖いじゃん!)と思った。でも、自信があると言っていかなければ、自信がつかないのだ。今ならわかる気がする。上司と後輩から「自信」の持ち方のヒントをもらえたのは幸運だった。ちょっと不安だけれど、未来の自分に“自信の前借り”をして、「自信がある」と言うんだ。そうやって、経験の中で他者に認めてもらいながら、自信をホンモノにしていくんだ。「自信がない」と言った後輩にも、そうやって言ってあげられたらよかったな、と今になって思う。

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