小学校があまり好きじゃなかった
小学校5・6年生のとき担任だった川西先生(仮名)は、ちょっと変わった人というか、情熱のベクトルがあさっての方向に勢いよく向いている人だった。
今ではNGなこともあると思うけど、30年くらい前のことなので読み流してほしい。
今もこの文化があるのか知らないが、私たちが子どものころ終わりの会でよくあった「今日○○くんが××してきて嫌でした」という報告。これに対する○○くんの答えは「△△さんごめんなさいもうこれからしません」一択である。
しかし川西先生はその小学生の暗黙のルールを破り、「○○くんはなんでそんなことをしたん?」「△△さんはどういう気持ちやったと思う?」「みんなで考えよう」みたいな、先生言うところの"話し合い"を始める。
でも小学生が終わりの会で報告されるようなちょっとしたいたずらをするのに理由などない。たいていはその子のことがちょっと好きとか、おもしろいと思って、とか、そんなところだ。
理由がないのだからなぜかと聞かれても答えられない。1分で終わるはずのそのコーナーに1時間くらい費やしてしまうために終わりの会が長引き、親から子どもの帰りが遅いとクレームが来ることもあったようだ。
ある日、なぜだったかクラス全員が黒板の前で地べたに座り、算数の授業をしていた。新しい問題が出て、私は黒板に書いてある三角形を指で床に書いて考えていた。
すると突然、先生から「田中!何をしてるんや!立っとれ!」と怒られたのだ。
え、なんで?
私は理不尽な怒られに対する困惑と恥ずかしさで頭が真っ白になり、うまく反論できないまま、でも自分は何も悪いことはしていないから絶対に立ちたくなくて座ったままでいた。すると先生は一向に立とうとしない私を見て「…無視します」と言い、授業を再開したのだ。
いまだに思い出しては「いや、床に三角形を書いて考えてたんです」となぜ言えなかったんだ、とモヤモヤして変な声を発してしまう。
ありますよね。恥ずかしい思い出を思い出して変な声を出したり謎の言葉を言ったりしてかき消そうとすること。
え、みんなありますよね?
ない人がいたら会ってみたい。
また別の日には、「友達と遊ぶこと」という宿題が出た。
まずこの宿題がちょっともう何言ってるかわからない。家の事情があったり、いじめられている子もいるかもしれないのに、ちょっとデリカシーのない宿題である。
私はその日、クラスの女の子と遊ぶ約束をしたのだが、今と違って携帯もない、かといって家に電話するのはハードルが高い。約束の仕方が悪かったのか、もう忘れてしまったけど、結局その日はその子と遊べなかった。
次の日学校で昨日友達と遊んだかの確認があった。遊ばなかった子はみんなの前でその理由を聞かれた。
私も聞かれたが、答えられるような理由がなかったのでモゴモゴしていると、結局「宿題をやってこなかった者」として後ろに立たされた。
記憶はおぼろげだけど、確か私と遊ぶ約束をした女の子はちゃんと宿題をやってきていたと思う。つまり他の誰かと遊んだとういうこと。
先生はそこに突っ込んだんだろうか。覚えてないけど、小学生だって人間関係はデリケートなんである。
人間関係が大変で言えば、このクラスでは女子の間でシカトが流行っていた時期があり、それも先生が介入してきて話し合いに発展したけど、結論から言えば何も変わらなかった。なんなら新しい火種を生んだだけだった。
長くなるのでそれはまた別の機会に。
川西先生に関する記憶は他にもいくつかあるけど、できればお空に返したいものばかりだ。
たぶん楽しいこととか感謝すべきこともあったと思うんだけど、忘れたい記憶のせいで忘れてしまった。
と思ったけど、書いていてひとつ思い出した。
なんか私が体調を崩したことがあって、タクシーで先生が送ってくれたんだったか。細かいところは覚えてないけど、先生が心配そうに一緒にタクシーに乗って、「寝ててええよ」と膝枕してくれた記憶がある。
熱血先生な自分に酔っていた感は若干あるが、悪い人ではなかったんだろう。
いいことだけ覚えておいて、あとの記憶には蓋をしておこう。その方が今後穏やかに生きていけそうだから。