さりげない親切をさりげなく受け取ることって美しい

朝から雲行きがあやしく、午後になると雨が降り始めた。
スーパーに買い物に行かなきゃならんのに雨は嫌だな。どうして降り始める前に行かなかったんだと軽く自分を呪う。

傘をささずに往復10分歩くのはためらわれる、そんな程度の小雨。 ビニール傘をさして家を出た。

横断歩道で信号待ち。
手押しの台車をおす宅配屋のお姉さんが僕の隣に立つ。
おそらく近くに停めた車からダッシュで台車をおして荷物を配ってきたところなんだろう。傘は持っていない。
小雨とは言え、雨粒が彼女の日焼けした腕や頬を濡らす。

ふっと、彼女の横に立ったのは妙齢のご婦人。
自分がさしていた傘をさりげなく宅配姉さんの方に寄せて、二人は相合い傘のような格好になる。
傘をおすそ分けされてることに気づいた宅配姉さんが会釈する。
妙齢のご婦人は軽くうなずいただけであとは前を向いている。
「雨の中なのに大変ねー」とか世間話するでもなく、すっと前を向いて車の流れを眺めている。

僕には、柔らかい膜が二人のまわりを覆っているように見えた。

信号が青に変わると、宅配姉さんはもう一度会釈して、台車をゴロゴロいわせながら走り去って行った。
ご婦人は宅配姉さんのためにかたむけていた傘をすっと元に戻して、姿勢よく横断歩道を渡って行った。

いいもん見たなーと思ってぼーっと突っ立っていたら、信号がまた赤になってしまった。

おしまい

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