うめ子
5月11日に放送されたBS12「カセットテープ・ミュージック」#88「マキタカラオケ教室2」。衝撃的な内容で、放送後わずか3日で10回近くリピートしている。
アイドリング!!!というBSフジ限定アイドルOGの河村唯(通称うめ子)の心が、「才能が渋滞している」芸人・マキタスポーツの手によりズタボロに破壊され、そして再生する様がわずか30分(1時間番組の後半)で描かれたドキュメンタリー。奇跡の時間だった。
テレビ東京のカラオケ番組で絢香『三日月』を歌ったといううめ子を、マキタが「歌詞を全く解釈せずに技術で表現しただけ」と切り捨て、「演じろ」「思い込め」「ストーリーを共有しろ」と追い込み、『三日月』をうめ子にしかできないものとして歌わせたのである。
私が大好きなアイドルグループ・でんぱ組.incが2013年に発売した自己紹介ソング『W.W.D.』。この曲を引っさげて行った全国6ヶ所のツアーでは、メンバー6人がそれぞれの会場で、自分の過去を吐露する20分ほどのコーナーがあった。自分はなぜ理想の自分になれなかったのかを自らで振り返り、それでも自分の未来にかけて進むんだという決意表明。20代前半のうら若き女性たち(最年少は17歳!)に心のかさぶたを自分の手で剥がさせるような荒療治を6者6様で提示し、その後で『W.W.D.』を歌い踊ったのである。6人のアイドルは心から白い血を流しながら涙とともに歌い、それを見たファンは6人を人間として愛する。この『W.W.D.』が「でんぱ組.inc」の存在を決定づけ、その後も形を変えながら2021年の今も続くブランドになった。
今回、マキタスポーツがうめ子に施した荒療治は完全に『W.W.D.』と同じ。うめ子に「今の自分の果たせなかった夢と捨てられない夢」を吐露させ、その「自分」と「三日月」の歌詞をシンクロさせ、ただのカラオケで「うめ子」を表現させたのである。
現代人はストーリーの共有でしか感動することはできない。冷血で愚鈍な老人であっても、「苦労人」「パンケーキ好き」をいうストーリーを付与するだけで高感度が上がる。美空ひばりも、小林旭とか罪を犯した弟とか養子とか、ストーリーを共有するだけで、愛すべき歌手になる。天才・平手友梨奈の捨てられ解明を余儀なくされたというだけで、櫻坂46は他の坂道グループより愛おしくなる。
このうめ子ドキュメンタリーは、見事だった。もちろん、この「ストーリー」を活かせるかどうかは、うめ子のセンスと努力次第である。
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