【復刻インタビュー】私たちは空を飛べないからこそ歩ける、チーナが見つけた真のHAPPY
本記事は2014年8月にCINRA.STOREに掲載されたインタビューをCINRAおよびチーナの許可を得て復刻したものになります。なお、文中のリンクに関しては新たに作成しました。最新のインタビューと併せて、ぜひお楽しみください。
<若者よ空は飛べないね> これはチーナの最新ミニアルバム『DOCCI』の1曲目を飾る“シラバス”の一節。バイオリン、コントラバスを含む個性的な編成から奏でるオーケストラルポップで、多くのミュージシャンからも愛され、これまで2度のカナダツアーを行うなど海外での評価も高いチーナ。前作『GRANVILLE』では、弦楽器のバンドであることを存分に活かしたサウンドと、ボーカル&ピアノを務める椎名杏子の豊かな感情表現でリスナーを魅了したが、約2年ぶりの新作となる『DOCCI』の制作は、タイトルにも現れている通り「これからチーナの音楽はどっちにいくんだろう?」という疑問から始まった。「初期の頃はとにかく前を向いて歩いて行けば間違いないと思っていた」という椎名が、それを全否定するかのような冒頭の一節を生み出すに至った心境の変化とは、一体なんだったのだろうか。そして「目指していたものが違うかもしれないと思ったときに自由になれると感じた」と彼女が話した通り、冒頭の一節は決してネガティブな意味合いだけの言葉ではない。何事にもウソのつけないチーナのメンバーたち(柴は欠席)に、今作に至るまでの素直な気持ちを語ってもらった。
椎名は、感性が全然違うんですよね。そっちの方が僕は新鮮で面白かったんです。(リーダー)
―チーナはとても珍しい編成ですよね。もともとどういう経緯で結成したんですか?
椎名(Vo, Pf):最初は私がソロで弾き語りをやっていたんです。でも、お客さんが全然いなくて、一人ではダメだなと思って、サポートメンバーとしてバイオリンの柴とコントラバスのえっちゃん(林)、あと当時いたパーカッションに声をかけたんです。
―当時は、音大に通っていたそうですね?
椎名:そうなんです。私はピアノ、二人は弦の専攻で、クラシックをやっていて。特に私はバンドのこととか全然知らないところから始めたので、本当にいろんな人に迷惑をかけていたと思います。
林(Ba):ライブハウスに出してもらっても、どうやってリハを進めていいかわからないみたいな(笑)。
椎名:PAがなんのためにいるのかわからなかったし、イントロに入る前にドラムがカウントするのも知らなかったし、そもそもなんのためにライブをするのかも……。
リーダー(Gt, Syn):そこまでだったの!?
椎名:初めて自分でイベントを企画したときも、見に来てくれた人から「発表会みたいだったね」って言われて。バンドとして魅せるっていう感覚をつかむまでは苦労しましたね。
―そもそもなんでライブをしたいとか、ポップスをやりたいと思ったんですか?
椎名:大学では、めっちゃ一生懸命やってきたんですよ。それなのに、卒業が近くなると、急に先生たちが「これからはどこかの音楽教室で先生としてがんばってくれ」って、そういう道に進めたがるんです。その流される感じが嫌だったというか。やっぱり音楽はやりたかったし、クラシック専攻だったので基本的に人の曲をコピーしてきてたんですけど、自分で曲を作ってみたりとか、もっといろんな人と演奏してみたりとか、今まで知らなかったことをやってみようと思ったんです。
―バンドや歌手に憧れてとか、そういう感じじゃなかったんですね。でも、普通のバンドを知らなかったからこそ、こういう編成になったり、他と違うものができたっていうのはあると思うんです。
リーダー:僕はずっとバンドでやってきたんですけど、感性が全然違うんですよね。さっきもカウントする概念がないと言ってましたけど、「ワン、ツー、スリー、フォー」じゃなくて、(息を吸い込んで)「ふぅー」みたいな感じで曲を始めるんですよ。本当になにも知らない感じだったんですけど、そっちの方が僕は新鮮で面白かったんですよね。
―リーダーはどういう経緯で入ったんですか?
椎名:しばらくは最初に話した四人で活動していたんですけど、1回レコーディングしようってなったときのスタジオのエンジニアが、リーダーだったんです。
―そもそも、なんで後から入ったのに、呼び名が「リーダー」なんですか?
リーダー:そのときは深夜にレコーディングしていて、みんな寝だしたんですよ。だから、「このテイクがよかった」とか、僕が勝手に進めてやっていたら「リーダーみたい!」って話になって、そこからリーダーと呼ばれるようになったんです。その後に「ギター弾けるならライブ出てよ」って誘われて、1年くらいサポートをやってからメンバーになりました。
―HAPPYさんは、まだ入ったばかりですよね?
椎名:ドラムは何回か代わっていて、ここ何年かはサポートを入れて活動していたんですけど、去年初めて公募という形で募集したんです。それでHAPPYが入って、流通するCDでは今回から叩いてます。
―普通にホームページを見て応募したんですか?
HAPPY(Dr):そうですね。僕は地元が茨城で、『つくばロックフェス』っていうイベントでチーナを知ってファンになったんですけど、いつもチーナのライブを見ながら「ドラムの人が急に風邪引いて、誰かドラム叩ける人いませんか?」なんてことが起きないかなと思っていたんですよ(笑)。
―それまでは他のバンドで活動していたんですか?
HAPPY:経験はあったんですけど、しがない大学生で。卒業してから、しばらくフラフラしてたんです(笑)。ちょうど「これからなにしようかな……。」と思っていたときに募集があったので、フラフラしているところを拾ってもらったみたいな感じですね。
―そもそもなんで名前が「HAPPY」なんですか?
HAPPY:これも、元々はチーナファンだったことが関係してくるんですけど、初めてリハーサルに入ったときに、本当に楽しかったので、「チーナのみなさんと一緒にできてハッピーです」ってずっと言ってたんですよ。
椎名:「ハッピー」を連呼してたんですよ! この人本当に浮かれてるなと思って(笑)。
リーダー:それで僕が「ねぇ、ハッピーさぁ」って言ったら、「えー、ハッピーなんて名前いただいていいんでしょうか? 本当に嬉しいです!」って。気持ち悪いなと思って(笑)。
椎名:ぶっちゃけ、応募してくれた人のなかには、ビックリするくらい上手い人とか、いろんなバンドのサポートをやっている人もいたんです。でも、HAPPYはキャラで選んだというか、なんか拾ってしまったんですよね(笑)。
リーダー:でも、もともと募集をかけるときに、人としての部分で決めたいという話はしていたので、上手いかどうかにはあんまり重点を置いてなくて。
―でも、ファンとしてチーナを見ていたわけだから、チーナがどういう音を出すか知ってるわけですもんね。
HAPPY:そうですね!
椎名:すっごいドヤ顔したね(笑)。
最初は「オーケストラのサウンドを活かした音楽をやってるバンド」とか言ってもらっても、「うるせーな、ロックがやりたいんだ!」って思っていたんです。(椎名)
―チーナはオーケストラルポップと形容されることも多いですけど、どういう音楽を目指しているんですか?
椎名:それはどんどん変わってきていて。最初は「オーケストラのサウンドを活かした音楽」とか言ってもらっても、「うるせーな、ロックがやりたいんだ!」って思っていたんです。
―そうだったんですね(笑)。
椎名:ロックのことなんてなにも知らないくせに(笑)。でも、自分たちは弦楽器のバンドだよなっていうことを自覚し始めたのが前作の『GRANVILLE』というアルバムだったんです。今回の『DOCCI』はそれをもっと進化させて、今まで苦手だったこととかできなかったことにも挑戦したいなと思って作りました。
リーダー:『GRANVILLE』を作ったことで、バンドのカラーみたいなものが見えてきたんですよね。そのときに「和製Arcade Fire」と周りから言ってもらったりして、そこから次に向かうときに、そのベーシックありきで新しい展開を出したかったというか。
林:『GRANVILLE』を作り始めた頃から、お客さんがチーナのライブにハッピーなものを求めていて、私たちも自然と楽しいライブを意識しながらやってきたんです。ただ今回は、「このままハッピーなだけで突き進むのはどうなのかな?」「これからチーナの音楽はどっちにいくんだろう?」っていう想いで曲を作り始めて、それが『DOCCI』というタイトルにもつながっているんです。
椎名:他のバンドさんを見ていると、スタイルを確立していく人たちが多い気がして。アップテンポでコール&レスポンスをするバンドは、ずっとそういうスタイルを武器としてやっていってるし、暗いような曲でお客さんを掴んだバンドはそういう方向性の曲を多めにやっていくし……チーナはどうするべきなのか悩んだんです。お客さんが求めるのは楽しくて、みんなで歌えるようなものなんだろうなっていうのは、なんとなく見えていたんですけど、素直にそうはできなかったんですよね。
―今回は「わかりやすいオーケストラ感」みたいなものは、ちょっと減った感じがするんですけど、それは意識的なものだったんですか?
椎名:今まではバイオリンとボーカルがツートップみたいな気持ちがあったんですけど、今回は「バイオリンいらない」って言った曲は増えた気がしますね。柴も自分で「ここは私いらない」と言ったりしてたし。
リーダー:“テレビドラマ”は結構素直なJ-POPで、バラードだから、弦が前に出る曲にしたいっていうのはあったんですけど、他ではギターが目立っている曲もありますし、そういう意味ではオーケストラ感っていうのは前よりも減っているかもしれないです。
―あえてオーケストラ感を出さないでも、自然と「らしさ」が出るという意識もあったのかなと思ったんです。
林:そうですね。『GRANVILLE』のときは、やっぱりチーナの個性はアルコ(弓)だからバイオリンを活かそうとか、チーナっぽくするためにはという意識が楽器の使い方にも出ていたと思うんです。でも最近は、どうすれば曲全体の魅力を引き出せるかっていう方に重点を置いていますね。
正直なところ、これまで通りのチーナの方向性ではなく、いろんな試行錯誤をしてみたのは、「もしかして僕が足引っ張ってるせいかも?」と思って、眠れなくなっちゃったときもありました。(HAPPY)
―前作からの変化という意味では、ずっとファンとして聴いていたHAPPYさん的にはどうなんですか?
HAPPY:正直なところ、これまで通りのチーナの方向性でアルバムを作るのではなく、いろんな試行錯誤をしてみたのは、「もしかして僕が足引っ張ってるせいかも?」と思って、眠れなくなっちゃったときもありました。
椎名:そうだったんだ!?
HAPPY:上手い人はもっとたくさんいたと聞いていたし、そういう人がチーナに入っていたら……っていうのを思っちゃったんです。でも、楽しさとか、「やっぱりチーナの曲が好きだ」っていう気持ちをベースに叩いてたんですけど……どうですかね、いい方向に出てますかね?
―出てると思いますよ(笑)。
HAPPY:チーナが好きだっていう気持ちは人一倍あると思うんですけど、それこそ曲作りとか楽器の音のバランスとかの話になると、「お母さんのご飯はジャスティス」みたいな感じで。
―たとえがよくわかんないです(笑)。
HAPPY:僕は、メンバーのみなさんの提案を再現することを楽しんじゃう、っていうのが真っ先にあるんです。年下で、しかもあとから入ったし、どうしても弟みたいな感じになっちゃって、ひたすらみなさんの意見を拝聴してて、申し訳ないというか。
椎名:でも、意外に要のところで私はHAPPYに意見を聞いたりしてて。もともとリスナーとして聴いてくれてたっていうのもあるから、なにか不安になったときには「このまま進んで大丈夫かな?」とか聞いてましたね。それでHAPPYが「今までのチーナにはなかった曲でいいと思います」みたいに言ってくれて、「そっか、そうだよな」って思えました。
―意外と重要な役割を果たしているんですね。
椎名:今まではAメロBメロがきて、サビで一番盛り上がって、というのがセオリーで、それが一番いいと思っていたんですけど、HAPPYが「僕はずっとテンションが変わらない音楽も好きなので」みたいなことを言ったときがあって。私たちは、なんとなくセオリーに入ってしまっていたんですよね。HAPPYはお客さんに聴かせるっていうこと以前に、本当に楽しむために音楽をやっている印象もあって。やっぱりフレッシュだし、HAPPYが入ったことで刺激にもなってますね。
今まで目指していたものが違うかもしれないと思ったときに、ネガティブではなく、これでもっと自由になれるし、着実に進んでいけると感じました。(椎名)
―今回のアルバムは、1曲目の“シラバス”で<若者よ空は飛べないね>と歌っていたり、歌詞も印象的だったんですけど、どういう心境だったんですか?
椎名:どんどん大人になっていくと、積み重ねてきたいろんな感情もあるし、考え方も変わるじゃないですか。バンドの初期の頃は、とにかく前を向いて、真っ直ぐ歩いて行けば間違いないということを本気で思って歌っていたんですけど、実際は上手くいかないこともたくさんあるし、イメージしていたことが実現できなかったりする。それでも生きていかなきゃいけないと考えていくうちに、だんだん自分のなかの哲学みたいなものが変わってきて、それをちゃんと音楽として出したいなと思ったんです。
―すごい出てますよね。“シラバス”は、大学とかで使われる「シラバス」のことなんですか?
椎名:そうです。確か最初は「明るい未来計画」みたいなタイトルだったんですけど、それはそのまますぎるよねみたいな(笑)。
林:それで私が冗談で「“シラバス”でいいんじゃない?」って言ったら、「それがいい!」ってなって。
―椎名さんの哲学が変わって、曲ができたきっかけは?
椎名:『GRANVILLE』を作り終わって、これからどうしようかなっていうときに書いたんですけど、ちょうどまわりでバンドを辞める人が多くて。やっぱり30歳前後になるといろいろ考えるんですよね。今まで目指していたものが違うかもしれないと思ったときに、ネガティブではなく、これでもっと自由になれるし、着実に進んでいけるっていうことを感じたことがあって。私はこの曲を作ってから、すごく生きやすくなったんですよね。
―<君なら空も飛べる>みたいな曲はいっぱいあると思うんですけど、<空は飛べないね>っていう歌詞はちょっと衝撃で、グッときました。
椎名:空を飛べないのは当たり前だし、みんなわかっていると思うんですけど、どっかで「飛べるかもしれない」と思っちゃってたりするんですよね。私も「今なら空も飛べる!」みたいな気分のときもあるし、 “シラバス”は「本当に飛べないや」と思ったときに作ったんですけど、両方の気持ちがあっていいと思うんです。
―飛べる曲と飛べない曲、両方あってもいい?
椎名:そのときの気持ちで作っちゃうから、曲によって言ってることが全然違うときはあって。あとから気づいて「まずいかなあ」と思うこともあるんですけど、それでいいかなと思って。
―両方の気持ちがあることがリアルなわけですしね。自分の言ったことを覆すのは、簡単にできることじゃないですよ。面白かったのは、アルバム全体として目の前の現実感みたいなものがありつつ、最後の“コロファリオ”は自信に満ち溢れていて、すごくいい気持ちになって終われるんですよね。
椎名:曲順を決めるときも、全員一致で“コロファリオ”は最後しかないよねって。「これ聴いて、頑張ってください!」みたいな(笑)。
―「それでいいじゃん」みたいな肯定的な感じがありますよね。
椎名:“コロファリオ”って私が勝手に作った言葉なんです。本当に意味がないものを表したかったというか。たとえば音楽だったら、何日もスタジオにこもって曲を作ったのに、それを全部使わなかったりする。一見それは意味がないことに思うけど、実はすごく意味のあることで。音楽に限らず、日常的にもそういうことってあるよなと思ってて。とてもポジティブなんですけど、“コロファリオ”っていうのはからっぽのものとかむなしさとかも全部乗り越えて、「いいよ」「それでやっていこう」みたいな意味もあるんです。
―歌詞に<理由なき自信>ってありますけど、歌から漂う自信にあふれる感じはどこから来てるんですか?
椎名:理由なくすごい自信があるときってありますよね? 理由なくものすごい落ち込むときもあるし、理由なくこれからすべてが上手くいくんじゃないかなと思うときがあったり。
―そういえば僕、1週間くらい前に、なんか5年くらいしたら大金持ちになってる気がしたんですよ。そう思った瞬間にすごい元気になって。そういうことですかね?
椎名:そういうことです。本当にそうです。なにも理由はいらないんです。
チーナには「真っ当な音楽を作る」っていうコンセプトがあって。それが伝わっているに違いないと。(林)
―今回のアルバムには、交流のあるたくさんのアーティストがコメントを寄せていて、オフィシャルサイトでも紹介されてますけど、チーナはミュージシャンからもすごく愛されていますよね。どういう部分が愛される理由だと思いますか?
リーダー:ちょっと強気な発言に聞こえちゃうかもしれないですけど、あんまり普通じゃないからだと思います。曲も、歌も。「あー、いるよね、こういう感じのバンド」ってならない自信はあります。
林:チーナには「真っ当な音楽を作る」っていうコンセプトがあって。それが伝わっているに違いないと。
―「真っ当」というのは?
リーダー:常にウソはつきたくないと思ってます。そこで僕はメンバーに迷惑をかけるんですけど。嫌だと思うことは言っちゃうんですよ。
椎名:本当に言うんですよね、結構ねぇ……。
林:ほんと怖いんです、最近(笑)。
リーダー:でも、そこで妥協した音楽を出すのは違うと思っちゃうんですよね。
椎名:リーダーもわがままだし、他のみんなもわがままなんですよ。今回の『DOCCI』も、かなりのケンカを積み重ねて作ったので(笑)。
リーダー:そういう意味では、真っ当に音楽と向き合うことができてるのかなと思いますね。
チーナ
ピアノヴォーカル、ヴァイオリン、コントラバス、ギター兼マイクロコルグ、ドラムの5人から成る独特の個性を放つグループ。ポップス/クラシック/ロック/オーガニックといった要素を自由に操りオーケストラルな音が印象的で唯一無二の境地に達している。アコースティックな楽器編成だが枠にとらわれずダイナミックなサウンドから繊細な表現まで多様な演奏を得意とし、変幻自在かつ緻密な音楽性で独特な視点で捉えた歌詞やメロディーが特徴。ライブパフォーマンスもパワフルでハッピーでポップな「チーナ」の音楽世界を表現している。2012年7月に発売されたアルバム『GRANVILLE』に収録されている“アンドロイド”が、映画『まだ、人間』の主題歌に抜擢され、注目を集める。2013年5月にはmouse on the keys、きのこ帝国等とカナダツアーを行いチケットはソールドアウト。
http://www.chiina.net/