忘備録 ヒース・ジャロー・モートン(HJM)モデルとは

ヒース・ジャロー・モートン(HJM)モデルとは

ヒース・ジャロー・モートン(Heath-Jarrow-Morton, HJM)モデルは、利回り曲線(イールドカーブ)の動的変動をモデル化するための枠組み です。これは、すべての満期の金利(フォワードレート)のダイナミクスを直接記述する という特徴を持ち、他の短期金利モデル(VasicekモデルやCox-Ingersoll-Rossモデル)とは異なるアプローチを取ります。

1. HJMモデルの基本的な考え方

HJMモデルの主な目的は、フォワードレートの時間変化を記述する ことで、利回り曲線のダイナミクスをモデル化することです。これにより、金利の将来の変動を考慮したデリバティブの価格付けやリスク管理が可能になります。

HJMモデルでは、金利の変動を以下のように考えます:
1. フォワードレート  を基本変数とする
      •    は現在の時点
      •    は将来の時点
      •    は、 の時点で観測される  期限のフォワードレート
2. フォワードレートの変動を確率過程で表す
      •   HJMモデルでは、フォワードレートの変動(ドリフトやボラティリティ)を決定する要因を記述する。
3. 無裁定条件を満たすようにモデルを構築
      •   市場で裁定取引(リスクなしに利益を得る取引)が存在しないように、金利のドリフト項をボラティリティに基づいて決定する。

2. HJMモデルの特徴

(1) 短期金利モデルとの違い

従来の金利モデル(Vasicek, CIRなど)は短期金利  の動きを記述 するのに対し、HJMモデルは フォワードレート  の動きを直接記述 します。
そのため、HJMモデルでは、利回り曲線のあらゆるポイントの変化を明示的に扱うことができます。

(2) モデルの柔軟性

HJMモデルの大きな利点は、フォワードレートのボラティリティ構造を自由に設定できる ことです。
ボラティリティの設定次第で、VasicekモデルやCIRモデルを包含することも可能です。

(3) 無裁定条件

HJMモデルは、フォワードレートのドリフト(時間変化率)がボラティリティとリスクフリーレートの関係から決定されるという特性を持ち、これにより市場での無裁定条件を満たすように構築されています。

3. HJMモデルの応用

(1) 利回り曲線のシミュレーション

HJMモデルを用いることで、時間の経過に伴う利回り曲線の動的な変化をシミュレーション できます。これにより、将来の金利リスクを予測し、ポートフォリオ管理やリスクヘッジの意思決定に役立てることができます。

(2) 債券・金利デリバティブの価格付け

HJMモデルは、スワップ、キャップ、フロア、オプション付き債券 など、金利に関連するデリバティブの価格付けに利用されます。
特に、オプションの埋め込まれた債券(Callable Bonds)の評価に適しています。

(3) ストレステストとリスク管理

銀行や金融機関では、HJMモデルを用いてさまざまな金利シナリオを生成し、リスク管理のためのストレステストを実施 します。

4. HJMモデルの限界

(1) 計算負荷が高い

HJMモデルは、利回り曲線のすべてのポイントを考慮するため、計算量が増えやすくなります。
そのため、実務では簡略化したリスクニュートラル測度に基づくアプローチやショートカットモデルが使われることがあります。

(2) 実際の市場データとの適合

HJMモデルは理論的には強力ですが、市場のデータに適用する際には、適切なボラティリティ構造を設定する必要があります。
ボラティリティが不適切だと、モデルのパフォーマンスが低下する可能性があります。

5. まとめ

HJMモデルのポイント

✔ フォワードレートの動的モデル(短期金利ではなく、フォワードレートを直接記述)
✔ 無裁定条件を満たすように構築(裁定機会を排除するため、ドリフトがボラティリティに依存)
✔ 柔軟なボラティリティ構造を設定可能(市場に適応したパラメータ設定が可能)
✔ 金利デリバティブの価格付けやリスク管理に応用(スワップ、オプション付き債券、ストレステストなど)

HJMモデルは、理論的に無裁定条件を満たしながら金利のダイナミクスを記述する強力なツールですが、計算コストの高さやボラティリティ設定の難しさが課題となります。
そのため、実務では「リダクションモデル(簡略化モデル)」や「マーケットモデル(LIBORマーケットモデルなど)」と組み合わせて活用するケースが多いです。

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