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キノハノ ヲチタ
カキノキニ
オツキサマガ
ナリマシタ(實りましたの意)
(大正十一年十一月 六歳)
五歳八か月の田中千鳥がはじめて書いた詩「無題(カキノキ)」は、こんな詩です。ただ、彼女には「詩」という意識はなかったのかもしれません。「見たこと」「思ったこと」をそのまま言葉にして、行を変えながら書いただけだったのでしょう。
季節は秋、時刻はたそがれか も少し後でしょうか。東の空に望月かそれに近い丸い月が、葉を落とした柿の木の奥に昇り、それが柿の実のようにみえました‥‥目にした景色を見たままに‥‥「何の細工もない」素直で素朴な表現です。
詩の技法としては「暗喩(隠喩)」に分類されるのでしょうが、月を柿の実になぞらえた「みたて(見立て)」は、そんな分析分類以前に、初めて言葉を紡ぐよろこび・楽しさを初々しく伝えてくれます。
「うちの子が、バナナを持ってきてお月さまだと見せてくれました。うれしいやら ビックリするやら」少し前、子育て中のお母さんから聞いたエピソードです。
大正時代、日本海 浜辺の村に生きた幼女と、令和のデザイナーズマンションに育つ幼児、遠く離れながら、どこか近しいものを感じたものでした。時代は大きく変わりながら、子供たちの世界・人の世の感受はあまり変わっていないのかもしれません。そう思うとホッとします。[田中千鳥の詩文は すべて HP「田中千鳥の世界」で公開、読むことが出来ます。]