描かれる「劇場」
太田記念美術館の歌舞伎の劇場を解説している記事が面白かったので、劇場の描かれ方を自分の作品を踏まえ語りたくなりました。はじめましての方に自己紹介。私はインディーで演劇漫画を描いているものです。
太田記念美術館さんの解説もとても面白かったのですが、取り上げられた浮世絵も後世に語られるように当時の風俗や文化を「記録」として意識して描かれているように思います。
現在を目に焼けつけるように、いつか振り返れるように、知らない誰かにも賑やかだと伝わるように。実に生き生きと歌舞伎に携わる人々と当時の客層・営みを描いています。歌舞伎を描くというよりも「歌舞伎を取り巻く人間の生き様を余すところなく伝えよう」という強い意志を感じます。
漫画には数多くの演劇漫画が存在します。演劇漫画で描かれる劇場は興行的に大きいお芝居で、大ホールの登場回数が圧倒的です。次いで中ホールが多い印象です。大ホールで行われるキャッチーな公演ですから、記事に取り上げられた歌川豊国「中村座劇場図」の公演のように満員御礼の大成功の公演が多くなります。
(すかすかの座席ほど悲しいことはないですから、フィクションはやっぱり満員御礼が多いですね)
当然人気だしチケットが取り合いになるはず。私の漫画では中ホールでの公演に行くのですがチケットが限りがあり争いが起きるという描写があります。悲しいね。
「中村座劇場図」の解説記事の中には客席と客層を解説し、そのひとつに「桟敷席ーセレブ御用達の高級席」とあります。現代の歌舞伎やブロードウェイもこういう席ありますよね。お値段もこれぐらいかな。なかなか庶民にはツラいものが……
そういえば自漫画にも招待席の一角を描きました。
こういう席は二階席とかが多いよね。
(※この招待席は勝手な妄想でありもモデルになった劇場には全く関係ありません)
劇場を描くのはとても幸せです。どんな人が来ているのだろう?どんな服を選びどんな持ち物にこだわっているのだろう?と思いを馳せます。
争奪戦の激しいチケットはみんな時間を作って安くないチケットを買って来てくれているのだから、お客さんの一人一人にドラマがあるはずです。モブは大変で面倒くさくて描いても描いても終わらなくて泣きそうになりますが、名前のないお客さん一人一人の生き様や趣味を考えているとこの上なく幸せな気持ちになります。
翻ってあんまり人が入っていない小規模の劇場を描くのも楽しみです。服装もラフだったり、ふらっと来られて緩い雰囲気があります。しっかりした椅子や座席がなかったりもします。
私が描いている漫画は高校が舞台なので、劇場ではなく学校の講堂での公演風景になりますが小さいこだわりがたくさんあります。
↑あんまり描けていませんが実は席数に対してそんなに人が入っていません。ガラガラじゃないけどいっぱいじゃない。チケットがなくても入れちゃう、それはそれで大事な公演です。
こういうこだわりは読んでる人にはあまり関係がないので読み飛ばしてね!と思いますが、人がいてもいなくても演劇が行われる場所を描けることが楽しい~~のでみんな漫画でもっと劇場描くといいのに。
公演で生きているのは俳優やスタッフだけじゃない。お客さんや劇場という場を含めて、それを取り巻く風景がとても好きです。
太田記念絵美術館さんの記事を見ていたら以前古本市で購入し積んだままになっていたS・ティドワースの「劇場」を思い出し本を開きました。演劇は単体では語れず劇場と共にあり、また劇場も芝居という角度だけでは語れず、必ず来館してくれるお客さんと共にあると言うことがよく分かります。
そういえば私が手にしたこの本は罫線だらけです。
どなたかが勉強の為に使ったのかな?
持ち主の誰から残していったしおりと書き文字がたくさん。
エモいぜ……
歌川豊国「中村座劇場図」
太田記念美術館にて2020年11月14日~12月13日に開催の「ニッポンの浮世絵」展で展示だそうです。ちょうど今!!
私の漫画も良かったら読んでってね~