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落ちてゆく

 張り詰めた糸を緩めたくても緩められない。そもそもが伸縮性のまったくない、気をつけて引っ張らないと切れてしまうような糸。それをこの期間だけだからと、無理やりえいやっと引っ張っている。
 最初はいったん8月末に緩められるはずだった。シェアハウスのクラファンをリリースすれば、息をついて、息を整えて、次に向かえばいい。
 そう思っていたが、集団でなにかするときの常、スケジュールが組み変わり、息つぎのタイミングを失ってしまった。
 だからといって投げ出すわけにはいかない。糸を緩めるわけにもいかない。切れそうな糸をなだめながら、今日をやり切る。

 限界なんてとっくに超えている。超えたところに、チャンスが転がり込む。糸を緩ませて息をついていたならば、あっさり「大切な用事があるので」と断ったはず。
 でも、張り詰めた糸はいつの間にか私を支配し、休むことを許さない。「もっと、もっと」と追い詰める。

 それでもどうにか、ほんの少しの休けいが欲しくて、無理やり時間をつくって秘密基地へ向かった。ほんの一瞬、現実逃避したかった。なにもかも忘れたふりをして、なにもないふりをして、いつもと同じように飲んだくれよう。
 なのに、笑ってしまう。つくづく私は運がない。行き場を失った。
 息が苦しい。呼吸ができない。
 張り詰めた糸が落ちていく私をここにつなぎとめている。自分の重みで切れてしまいそう。いっそ切れてしまえば楽になれる。もうがんばりたくない。

 でも、あと3日だから。そしたら全部放り出していいから。あとのことは知らない。とにかく3日だけ、3日だけ。
 そう帰りのバスの中で、窓ガラスに映る自分に言い聞かせる。
 さあ、なにもなかったように、みんなのところへ顔を出そう。「限界超えて苦しいっ」って笑おう。
 でもおかげで今夜は泣かずに済みそうだ。



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