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レイヤーに棲まう
追手に見つかってかなり経つ。はたして家までやって来るのだろうか。
その前に。
私がそれまでの友人関係と縁を切って数年経つ。かつて私は硬式テニスをしていた。それが私のすべてといっていいくらい、時間とお金と頭も心も費やした。
福井市内で活動するサークルに参加していた。練習会やイベントのほか、各市町や県の大会に出場。さらに協会の仕事や大会運営の手伝いもしていた。国体が決まったので、それに向けた準備チームにも名を連ねた。審判員の資格もとり、国体前年に行われた全国都市対抗テニス大会の運営もした。
そしてその都市対抗の運営の現場でテニス界に嫌気が差し、テニスをやめた。選手としても裏方としても、そして観戦や応援からも手を引いた。
私のプライベーにおける人間関係は、ほぼすべてがテニス関係。テニス界から足を洗うと同時に、友だちとの連絡も断った。
翌年の国体に向け、友だちは不平等なシステムの中、下っ端として運営を手伝う。それを見捨てて足を洗った自分はもう友だちとは言えない気がした。それだけではなく、いろんな不平等があり、それを見てるのもいやだった。
テニス界と縁を切った直後、私は戸籍名を捨て、戸籍上の父を捨て、戸籍上の姉と縁を切った。実家を売り払い、引っ越し先を誰にも告げず、姿をくらました。結局、見つかったけれども。
福井、特に福井市内は狭い。道をあるけば、誰かに会う。店に入れば、知り合いの知り合いに会う。誰もがどこかでつながっている。
にもかかわらず、私は以前の知り合いとほぼ会っていない。
姿をくらました半年後、病院で仲よしと再会。でもそれもそれっきり。同じ地区内に一緒に練習したこともある人が住んでいて、お祭りで二度ほど顔を合わせた。あと、ふたり、すれ違ったり、見かけたり。
以上。
このどこへ行ってもつながりと出会う、狭い福井においてこれだけしか会っていない。奇跡だ。神様、ありがとう。
ではなく。
たぶん、昔の知り合いたちとは住む世界が異なるのだ。
だから、同じ地区というどうにもならない場合を除いて、誰にも出会わない。昔は行かなかった場所ばかりうろついているから。
属性によって、人は明らかにテリトリーが違う。エリアがかぶっていることもあるけれど、レイヤーが異なるためすれ違うことがない。今のつながりがある人たちとは、どこへ行っても出会うというのに。
だから安心してカフェ店員をしていられる。人気店ゆえ、大勢が訪れるが、昔の人たちが来る場所ではない。
いつもいくバーも人気のお店で、常に満員御礼。常連の中には、高校の同級生のお兄さんがいる。でもその人も、ほかの同級生も、テニス界の人たちもまったく来ない。お惣菜屋さんの出店をする場所も大丈夫。
今日、本を読んでいた駅前のカフェも、誰かに会ってもおかしくない場所だが、誰にも会わない。いや会ったけれど、それは今の知り合い。イベントに行っても、少し前は辺りを見回していたが、今はちっとも気にしない。
さて、偶然の再会は一向にないけれど、追手はどうだろう。家の住所は握られている。やって来れば確実に見つかる。
でもね。
実はその住所、私の家じゃないというのは内緒の話。
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