No Cats, No Life
昨夜、ネコをなでていた。
4匹いるうち、そのネコは私が拾ったもではない唯一のネコ。
ネコの名前はちーたん。ほぼほぼ、私は「ちーた」と、「ん」を省略して呼んでいるが、正式名は「ちーたん」だ。
現在過去含め、うちのコの名前は以下のとおり。
ちゃー(こ):母が命名。茶トラだったから
コラ:引き取り手を探すつもりで名無しだったとき「こら」と注意していたことと、スペイン語でしっぽが cola だったから(しっぽが特徴的)
ツキ:満月の夜に庭に現れた(捨てられてた)から
ケン・モリ:健康の森、略して健森で拾ったから
にーにー:「にーにー」と鳴いていたから
ゴン:拾ったときは無言を貫いていたから(今はおしゃべり)
あきらかに、「ちーたん」は私が名付けたのではないとわかる。
「ちーたん」と名付けたのは、というか拾ったのは、私の叔母だ。ネコおあばさんとしてたくさんの野良ネコを世話し、自身も何匹か飼っていた。その叔母の最後の一匹がちーたん。
「あやちゃんと暮らしてたら、あんたももっとなでてもらえて、もっとブラッシングしてもらえて、もっと甘えられて、よかったのにねぇ。
でもさ、あんた、あやちゃんのことを覚えてるんか? たったひと月くらいしか一緒に暮らさんかったけれども。あれから10…何年経ったんやろか。
あらー、思い出そうとしても思い出せん。私、病院行ったんやろか。お葬式の記憶はあるけど、病院に駆けつけた記憶がないわ。
お母ちゃまのときは、英人から電話があって駆けつけたんやった。でも、なんであやちゃん、英人に先に電話したんかな。あ、お母ちゃんに連絡せなと思ったでか。でも、この場合、私のが先やろ。
あやちゃんって、ほんと、いろいろ残念なんだよなぁ」
ちーたんをなでているうち、昔の記憶がよみがえった。
叔母(あやちゃん)は、ちーたんを家に入れた頃にすい臓がんの宣告を受けた。看護師だった叔母は、自分の寿命が短いことを知り、ちーたんを私に託した。なぜなら、ちーたんとコラは仲よしだったから。
私に預けてから、叔母は一度もちーたんと会うことなく死んだ。思いを残したくなかったのだろう。
叔母が闘病中、私はお見舞いというか、世話しにというか、しょっちゅう叔母を訪ねた。入院中も、家で療養中も、一週間で2~3回は行っていた。
叔母は、死んだ母の妹で、世話好きで、母が入院中、つきそいをしてくれた。つきそいさんも雇ってはいたのだが、いよいよとなり、私と叔母が交代で泊まっていた。
医師も私も「もう今夜か明日か」と思った日、叔母が
「今夜は私が泊まる」
と言い出した。私もいたかったけれど、
「まだ大丈夫、明日は頼むわ」
と譲らない。
「なんかあったら電話するから」
仕方なく家に帰り、寝た。3時頃、叔父(英人)から電話があり、
「もうあかんて連絡きた。間に合わんかもしれんけど」
と言われた。
病院に着くと、母はもう死んでいたけれど、叔母が私が着くまではと医師に頼み、心臓マッサージが行われていた。
「あのー、もういいですよ」
死んでしまった人になにをしようと生き返るわけがない。生き返る状態にないこともわかっていた。
これからなにをどうすればいいのか、スケジュールを立てなくては。
そんなことを冷静に考える私の前で、叔母はぼろぼろと涙をこぼしながら
「まだ手、温かいよ。温かいの。ゆうこ姉ちゃん、あきちゃん来たよ」
と言いながら、母の手をずっとさすっていた。
つきそいさんにお礼を言い、支払いのことなど話していると、
「長年してるで、もうまずいと思って叔母さんに言ったんやけど、聞いてくれんくて。モニターが鳴り出して、先生たちが来たら、今度は気が動転してなにもできんくなってんて。
ごめんの、間に合わなくて」
ああ、あやちゃんらしい。自分がしっかりしていると思い込んでいるけれど、大抵冷静に対処できず、とっちらかってしまう。こんなときまで、自分らしさを発揮するとは。
姉の命が消えることにびびり、なにをどうすればいいのか混乱して、優先順位を付け間違え、あたふたしている様子が目に浮かぶ。ちょっと笑ってしまった。
そんな叔母だが、自分の死に対しては冷静だった。
ひとりではなにもできない夫に少しずつ家事をおしえ、大好きだった花々は大切にしてくれそうな人たちに譲り、自分の身の回りを片付け、ちーたんを私に託した。
今思い出しても、いつもの叔母とは全然違う。あんなに計画立てて実行できる人ではなかったのに。覚悟を決めると、人は変わるのだろうか。
冷静ではなかったのは、私なのかもしれない。母のときのことは事細かに覚えているのに、叔母の最期が思い出せない。
母も叔母も、50代後半で死んだ。
私が彼女たちの年齢になるまで、あと7~8年。
母の時代は告知はできず、なんの後始末もできなかった。叔母は残された時間を有効に使い、きれいにして跡を濁さなかった。
私は、私はどうするんだろうか。そのときが来たら、どうすればいいんだろうか。
まずは、残りの7~8年を大切にしよう。
約2500日。長いようで、きっとあっという間だ。
嫌な日もあるだろうけれど、なんてことない幸せがたくさんある日々にしたい。
ネコをなでながら、そんなことを考えた。