愛される人
なおさんはみんなに愛されている。
私の知る、なおさんを知る人は誰もがなおさんを好いている。
私も、人生で一番ってくらい、なおさんが好き。
昨夜、なおさんがうちに来て、一緒にごはんを食べた。
なおさんは重度のネコアレルギー。
ネコが好きで、うちのネコたちを触りに来たり、ただおしゃべりしに来たり、共通の友人含め一緒にごはん食べようと来たり、そのたびに鼻はズルズル、目はかゆかゆになっている。
このあいだも、持ち帰りを買いに行って、用意ができるまで駐車場にいたネコと触れ合って、ごはん食べながら泣いていた。
なのに、うちに来た。
そして、案の定、ズーズビズーのかゆかゆになった。
なおさんは人に寄り添う。
「大丈夫?」とか「なにかしようか?」なんて言わずに、ただそこにいる。
「大丈夫?」と言う人も「大丈夫?」と言われたい人にも欺瞞を感じる私には、なにも言わずにそこにいるなおさんの誠実さが好ましい。
言葉がなくても一緒にいるだけで十分。
なおさんは人の感情がわかる。
私も人の感情がわかる。そこに至る言葉や顔色、わずかな表情やしぐさ、声のトーン、そして今ままで積み上げてきた人間観察で得たデータから読みとる。
なおさんは、ただ感じとる。その人の心も、その人自身も見透かす。
そうして、弱さやほころびを感じた人に寄り添う。
誰かを悪く言うことも、怒りをぶちまけることもせず、自分の調子が悪いときはそっと自室にこもって人前には姿を現さない。
和を好み、和を作り出そうとする。
人との出会いを大切に、縁を絶やさない。
葛藤を人に見せることはせず、いつだって穏やかな空気をまとってそこにいる。
そんななおさんだから、一緒にいると心が安まる。
だから一緒にいたいと、人はなおさんのところに集まる。
私のコップに溜まった濁った水に、なおさんの透明なしずくがぽたりぽたりと落ちて濁りが薄くなっていく。
なおさんは人に求めない。
演技をしたり、脆さを露呈したり、「そばにいて」と言ったりして、自分の望みを叶えるように仕向けたりしない。
みんななおさんを好きだから、「さみしい」と一言つぶやけば誰でも抱きしめてくれるだろうに。なおさんから温かさを分けてもらった人は多いのだから、今度は返してもらえばいいのに。
決して見返りを求めない。自分がなにかして”あげた”と思ってないから。
弱った人のそばにいると、ただそれだけで消耗する。
なのに、なおさんは寄り添うことをやめない。
人に透明なしずくを与えて、なおさんの水源は枯れたりしないのだろうか。干からびてしまわないのだろうか。
なおさんは透明なゲルのような人。
人を見透かして、柔らかく受け止めて、包み込んでくれる人。
ありがとう、なおさん。