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電子書籍の配信料率について

追記


最初に追記です。
少し余裕ができたので、
改めて落ち着いて書いたものを読む前に一言。
僕はこのテキストを業界の情報通みたいな顔をして
書いているわけでもなく、
これによってなんか商売に結び付けたり、
ポジションを取ろうとしてるわけでもありません。

本当にただ単に電子書籍の配信において、
過度に不公平な取引が行われていることを
多くの人に知ってもらい、
その不公正を少しでもなんとかしたいと
思ってのことです。
(間違っていたり、こちらが知らないことがあったら
正していきますので、どんどん指摘して欲しいです)

なので、どこの誰だかよく分からない人や、
業界の情報を発信しているつもり人のが、
出所のよく分からない、
検証したのどうかかも分からない、
ザクっとした何の背景も語らない「丸めたただの数字」を
noteに上げたり、お手軽にRTしたりするのは
本当にやめて欲しいのですよ。

その「丸めたただの数字」になる前の
リアルな数字=不公平な料率にこそ意味があり、
それは僕らにとっては(漫画家さんを含めて)本当に死活問題なんです。

最初に不公平に抑えられてしまった料率は
そう簡単に上がりません。
外部からのプレッシャーとかでもなきゃ。
だから言い続けるしかない。

企業、特に配信大手みたいに上場企業だったり、
その関連会社だっりする企業は
そう簡単に一度手に入れた優位性を
簡単に手放したりしないのは想像がつくと思います。
(ですので、これから取引を始める会社さんは
料率には徹底的にこだわった方がいいです)

配信サイトの方でも
何とかしたいと思っている方がいるのも知ってます。
でも内部から利益を手放すのは難しい。

ヒット作出したら、
交渉できるんじゃないの?思っているあなた、
甘いです。
そう簡単に上がりません。
交渉の可能性が出るヒット作なんて、
めったに出るもんでなし。
(実例ありますかね?)

そういう状況があるので、
ザクっとしたただの平均値みたいな数字や話しを
「普通これくらい」みたいに
流さないで欲しいのです。

せめて、どの辺から持って来た数字なのか、
エビデンスだけでも示してくださいと言いたいです。
その辺で聞いたきたのなら、
その辺はどの辺かくらいは明らかにできるでしょう。

ものすごーく勘ぐると、
あえてそういう数字を流している人が
いる気さえしてきます。

作家さん方が語られる数字は当然ながら真実だと思います。
ただ、あくまで作家さんが付き合っている会社さんの真実なので
大手とのみ仕事をされている方の話は真実ではあれ、
物事の一面にしかすぎません。
有名な作家さんの言葉は影響力が大きいですが
そういう面があります。

もし何らかの数字を出す方は、
それがご自身の体験に基づく話でないなら、
できるだけ多くの情報を集めて、
色々な角度から光を当てた話を出していただけることを望みます。

以上、追記でした。
最初に上げたテキストは朝まで寝ないで一気に書いたものなので
気になったところは改変しております。
ご容赦ください。

あー…こういうことを書くと
どこからか舌打ちが聞こえてきそうですが、
ここまで来たらまあしゃーないと割り切って
「だからお前は嫌われる」で行きますよ!
【追記:20240227】

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本題とは関係ないですが、
今日はちょっと嬉しいことがありまして。

風濤社さんをはじめとして多くの方のお力添えいただいて
WeComixが初めて発行した、にくまん子さんのコミックス
『泥の女通信完全版』が
ついにkindle女性マンガベストセラーの1位になりました!
青年誌でも10位、コミック全体でも18位です。
女性の2位が『凪のお暇』なので素晴らしい成績です。
読者の皆様方にも御礼申し上げます。

前説

では今日は、改めて料率の話をしようと思います。

出版関係者には言わずもがなの話ばかりですが
そこはご容赦ください。
(あとまとまりがないのもね…)

どうして仕事をおっぽってこんな面倒な事をしているかと言うと、
結構「いいね」とか「スキ」がついている料率についての話が、
それはちょっと…という感じなのが多いからです。

「ザクっとした数字」とか言っている人は本当に勘弁して欲しい。

どこから持って来た数字なのかソースも不明だし、
それを書いている人がどんな仕事をしているのか経歴もわかんない。
あとアプリと電子書籍をごっちゃにしているようなものもありましたね。

そういうあやふやな情報が真実のように出回るのは
ホントに勘弁して欲しいんです。

ちなみに私の話は一応、
複数の出版社での現場責任者としての経験
(複数の大手とも仕事をしています)と、
デジタルネイティブの出版社やアプリ配信会社の経営している
何人かの知人からの直接の話に基いています。
どこかでまた聞きしたり、ネットで集めた情報ではないです。

私が料率について書くのは別に単なる業界情報をやっているのではなく、
電子書籍の配信において、著しい不公正があることを広く知ってもらい
この状況を改善したいからなんですよ。

だからそういう目的もなく、ただ単に業界情報的に、
あやふやな内容を流布したり、現場もロクに知らず、
料率と売上に関して知った風な書き方をしたりするのは
本当にやめて欲しい。
せめてどこからの情報なのかということ、
発信者は誰なのかくらいはちゃんとして欲しいです。

例として妥当がどうかわかりませんが、
ザクっとした話が何で勘弁して欲しのか私なりに。

二つの自治体があって
女性の政治参加が課題になっていたとします。

自治体Aは議員の男女の割合が50%ずつ、
自治体Bは男性議員が100%で女性ゼロだとして、
平均で25%の女性議員がいるという
そんなザクっとした結論で話がすむと思いますか?

片方では男女同数が議員に選ばれていて
ある意味男女平等になっているのに、
もう一方では女性がゼロなんですよ。

勿論、何人立候補したのかとか、
そもそも男女の人口比率はどうなのかとかありますが、
いずれにせよ、女性がゼロの自治体で
女性議員の数を増やしたいと運動している人からすれば、
「(ザクっと平均して)25%女性議員がいるじゃないか!」
なんてて言われても意味ないし、承服しがたいでしょう。

電子書籍の料率の不公平さも同じ様な話で、
不公平や差別というのはザクっとした数字や
平均値からでは見えません。
それは偏在するものではないでしょうか。

少なくとも電子書籍に長年関わっていて、
大手の料率もある程度知っていて、
経営者クラスと情報交換をしている私からすると、
デジタルネイティブ系でザクっと45%ももらっている会社は
知っている限りではありません。

私が現場責任者をしていた大手の子会社でさえ
数億の年間売上の料率は30%台半ばでした。

ザクっと45%とか言っている方は
大手配信サイトでもサイトによっては25%とか
20%台の料率しか出してない事を知らないのでしょうか。
(アプリではないですよ)

もし知らないのなら、
電子書籍の料率について語る資格はありません。
お願いなので業界事情を知らない方、
そういう記事を信じないでください。

50%、45% 35%、30%、25%の料率の
複数のサイトと契約しているとしたら 
単純計算で平均料率37%です。

25%の料率の会社の販売金額に占める割合が多ければ、
当然数字はもっと下がります。(実際そうです)
当たり前の話ですが。

50%、45%の戻しで経営している配信会社もあるのに、
なんで合理的な説明もなく、
25%しか出せないと主張する会社があるんでしょうか。
不思議ですよね。

しかもその会社は大手には50%以上の料率を支払っています。
そういう不公平な状態が存在するんです。
こういう極端な不公平を平均では語れません。

私がどうして料率にこだわるのかと言えば、
もちろん自分の給料も高い方がいいということもありますが、
それよりも何よりも出版社の利益が
最終的には漫画家さんへのお戻しに反映されるからです。

漫画家さんあってのこの仕事です。
作家さんの生活が安定しなければ、いい作品はできません。
そうなれば、出版社もそれを取り巻く本屋や配信サイトも
利益が上がって行きません。

ですので、できるだけ作家さんに公平に多くをお戻ししたい、
全体が上手く回って欲しい、ただそれだけです。

でも料率、配信サイトからの戻しが低ければそれも叶いませんし、
料率の不平等が続けば、売れた作家さんは
条件のいい大手出版社に(今では配信サイトにも)取れらてしまいます。

もし自分が大手と同じかそれに近い料率をもらえるなら、
大手より多くの戻しを作家さんにお約束する自信があります。
ホントに。だって何にいくらかかってどれくらい残るのかが
わかってるから。

なので、中小の料率が大手の半分とか半分以下というのは
「さすがにやりすぎ」だとずっと思っています。

紙の出版でも大手が69%とか老舗の会社が70%ちょいとかの戻し、
中小は60~65%くらいでしょうか。
その差は大きくても10%に収まります。
(支払いサイト、分戻しなど、また別の問題もありますが、それはまた)

それに比べるとデジタルでの料率の格差は余りに極端に不公平で、
中小出版社はいくらヒットが出ても、
作家さんに大きなお戻しをする事も
自らが大きな利益を上げることもなかなかできません。

だって現金収入が1年で億単位で違うんですから…。

紙の出版における不平等について

ではまずはデジタルの話の前に紙の出版について
ちょっとだけ触れておきたいと思います。

なぜ紙の話をここであえてするかと言うと、
デジタルだけでなく紙の出版にも
大手と中小、新規立ち上げの会社との間には
取引の不公平というのが存在していて、
それを話しておいた方がよりデジタルの不公平さが大きいことが
わかりやすいと思ったからです。

(老舗の出版社には取次を支えてきた歴史があるだろ!
とかの野次はとりあえず横においておきます)

でですね、紙にも不公平な取引があるんですが、
デジタルはそれと比べるとまだマシに感じます。マシにね。
(とんでもない!と言う人も勿論いるとは思います)

私なんかがダラダラ書くより、
クラーケンさんの設立時のお話しがわかりやすいので
まずは読んでみてください。
(他にも検索すれば色々出てくると思います)

「しかし、噂通りの条件の悪さにあ然とし(老舗の大手は翌月払い→新規は6ヵ月後払い&30%保留、老舗の大手は掛け率69%→新規は実質62%など)、別の方法を模索することになりました。」

これはどういうことかと言うと、
大手は1000円の本を1万部納品すれば、
翌月には10,000部×1000円×0.69=690万が
すぐにもらえるいとうことです。
極端な話、まだ本が1冊も売れてなかったとしても。
清算は後回し。

それに対して、取引条件が悪い会社
(新規参入は100%、すでに営業している中小も)は、
仮に10,000部が1日で売れたとしても、
その支払いは6か月後(しかも30%保留、つまり支払われないで
取次にプールされちゃう。理由?もしもの時のためらしいですが…)
になるということです。

分かりますか? この不平等。
どう考えても資金繰りが厳しいわけですし、
そもそも扱いにえらい差がありますよね。

この条件の悪さのせいで、
最近の新しい小出版社は大手取次と取引せず、
新たに立ち上がってきている取引会社などを通じて
(トランスビューなどが有名です)直接書店と取引して、
支払い条件を改善するなど様々な方法を模索されています。
(直取引で買い取りになると書店の利益も増えます)

最近はこういった会社もあります。


具体的に簡単な数字でもう少し考えてみましょう。
(料率の格差は一旦無視します)

定価が1000円の本を1冊、1万部作るとしましょう。
印刷代が定価の15%かかるとして150万、
著者印税10%で100万の
計250万が最低の初期費用として必要です。

これが極端な話、大手の条件だと、
完売時の売上1,000万の69%の690万が
すぐに払い込まれますので、
初期費用の250万はそこから払えます。
しかも440万が精算まで手元に残ります。
まだ売れてもいないのにですよ。

少し前の記事ですが、情況は同じ様なものかと。

それに対して条件の悪い会社はお金が入るのが6か月後なので、
その250万は最初に自分で用意しておかなければなりません。
それとは別にお金が入るまでの生活費なども
算段しておかなくてはなりません。

1万部ならこの程度で済みますが、
10万部になったら初期費用は2500万です。
立ち上げたばかりの小さい会社にはちょっと厳しい数字です。

大手には6900万がすぐに支払われるので、
2500万はそこから即支払い可能です。
しかもまだ手元に4400万が精算の日まで残ります。

支払条件にここまで格差があれば、
大手取次と口座を開いて取引するのを止める会社が
増えるのも当然ですよね。

だってそんなにお金ないもンという若い人が
出版社を興してトライするというのは、
大手取次を通してだとかなり厳しい、
門前払いに近いというのが実情ですから。

6か月後にドカッとお金が入って来るのがわかってれば、
支払いを待ってもらうことも可能かもしれませんが、
ダメなら2500万ものお金を用意しないといけないわけですよ。

印刷代が払えなくなったりして、
資金繰りに行き詰まるなんてことも当然あり得ます。

それと10万刷ったはいいけど、
半分戻って来てしまって倒産なんて事態もあり得ます。
ベストセラー倒産というやつですね。


大手は出版点数が多いので、
返品分の数字を在庫や新たな本を入れるなどして
帳消ししたりもできします。
帳消しというより先延ばしかもですが。

余談ですが金利がいい時は最初に支払われたお金を
(上の例で行けば6900万ないし4400万)
販売の清算が終わるまでの間、
短期の債権などで回して利益を取るなんて光景も
見たことがあります。
金利が年5%もある時代なら人から預かった状態のお金で
大手は更に金利が稼げるという…
何だかなーですよね。

業界は違いますが、
ネットフリックスの大ヒット作「全裸監督」の制作会社が、
あれだけのヒットを飛ばしたのに倒産したのをご存じでしょうか。

理由は制作費の回収スパンが長くて、
それまで資金繰りが持たなかったからだそうです。

ちょっと驚きましたが、
資金繰りが悪いとあれだけのヒットを出しても倒産する、
そういうことです。つーかネットフリックス払ってやれよ。

・支払いサイトに大きな差がある。
・料率に10%程度の格差がある。

この2点が、出版社と取次(電子では配信サイト)の取引条件における
おっきな格差ということになるかと思います。
(あってますかね?違ってたら教えてください)

あとこれは余談ですが、最近出た
『漫画の未来』という共同通信の記者が書いた新書に

「出版社の取り分はおおよそ6割とされる。
500円の本が売れれば、300円が出版社の懐に入る」

などと書かれていますが、大嘘ですから。
その6割から印刷代や、人件費を払うんです。

フォローしておきますが、概要を知るには悪くない本かと個人的には。

それと、仮にその通りだとしても、
300円が入るのは売れた一冊当たりですよね。
仮に1万部刷って一冊しか売れなかったら
300円しか入んないんですよ?

つまり確実に6割儲かるかのように書かれてますが、
実際は完売しないとその数字は達成されません。
(ホントの実際は完売して3割くらいの利益かと。
もちろん10万とか100万部行けばまた話は違います。
一度の刷部数が多ければ多いほど印刷単価は下がりますので)

(少部数だと)仮に6割くらいの販売だとトントンになって
経費だけは出ますが利益は出ないですよ。

取りあえず大手さんは6割近く翌月にもらえはしますが
それって例外的なんで。

共同通信の記者でさえ、そんないい加減なことを書いてるし、
版元の光文社の編集もスルーしているんですから
出所のはっきりしない情報とか
あんまり鵜呑みにしない方がいいです。

では電子書籍はどうなのか?

さて紙の出版の話はこれくらいにしておいて
肝心の電子書籍に話を移しましょう。

まずはちょっと個人的な話にお付き合いください。

私はデジタルに関わったのは
編集者としては割と早い方だと思います。
マンガエロティクスの編集長などを経て、
太田出版を退社した2005、6年くらいに
次にやろうと思ったのが漫画の電子書籍でした。

手元に資金も無くて、
元手が無くても出来ることはないかと考えて
行きついたのが電子書籍でした。

まだ紙の漫画があまりデジタル化されていない上に、
電子化権の契約もほとんど進んでいなかったので
(当時の出版契約には電子書籍はほとんど入っていませんでした)、
お付き合いのあった作家さんの作品をまずはいくつかお預かりしました。

そこまでは割と順調だったのですが、
電子書籍配信サイトに取引の相談を持っていたところで
早くも挫折しました…。

なぜなら提示された料率がメチャクチャ低かったからです。

大手の数字は多少知っていたので、
同じか少し低いくらいもらえるかなと算段して
ノコノコ出かけて行ったのですが、
大手の半分以下の料率を提示されました。
どっへーです。

理由は、「大手は作品数が多いから」ということでした。
いや、作品数が少ない会社の料率なんて大勢に影響ないでしょ…と
思ったのですがけんもほろろという状況でした。

それにそんな低い料率では
そもそも作家さんに予定していたお戻しもできないので、
泣く泣く作家さんに頭を下げて、
もっと料率の良い会社で出した方がいいですと、
配信契約を破棄して作品をお戻ししました。

もし、料率がもっと良ければ、
せめて紙の料率に近い60%くらいの戻しをいただければ、
私のその後の編集人生もだいぶ変わっていただろうなと思います。

幸い、太田出版でマンガ・エロティクスの編集長を
やっていたキャリアに目を止めてもらい、
紙の出版社に採用していただけたので、
その後数年は紙の本で漫画を作っていました。

拾っていただいた出版社は、
かなり早い時期から他社に先駆けて
積極的に電子書籍を展開していました。
主な作品はTL(ティーンズラブ)でしたが、
それがかなりの利益を上げているのを目にしていたので
これからは絶対にデジタルだ(自宅が漫画喫茶化する)
…という確信めいたものを持ったのが2007,8年辺りでした。

ただその出版社は、紙の漫画の電子化の配信では
先行していたのですが、
そこから電子オリジナルの作品への移行が
あまりうまくいきませんでした。

理由はビジネスではよく言われる、
「イノベーションのジレンマ」というやつです。

紙の編集部がデジタル制作に拒否反応を示したために
(まあ初期の頃だったのと、今の仕事が増えることになるので
仕方ない面もあったんですが…)
電子オリジナル作品の制作が進まず、
そのうちに新しい電子オリジナルの作品を作る会社が台頭し始め、
作家さんの獲得、電子に合わせた作品内容など、
完全に波に乗り遅れました。(教科書通りですなあ)

次に拾っていただいた会社は
大手出版社の子会社だったのですが、
そこは大手の子会社にも関わらず、
なぜか独自で配信サイトと交渉して、
私がかつて苦汁をなめたような料率で
配信サイトと契約を結んでいたので驚きました。
なんでよ?

大手の関連会社であったため、
多少は話の通りが良いとは言え、
こんな料率とスキームでやっていけるかと心配でした。

実際、初期の頃はかなりの赤字で、
黒字化して利益が安定化するまでは、
5年以上かかったのではないでしょうか。
普通の会社なら下手したら潰れてますね。

その間、ガラケーはスマホに置き換わり、
スマホでの電子書籍の売上が右肩上がりで伸びてゆき、
上手くその流れに乗ったことなどもあり、
幸いにもかなりの成功を収めることができました。

でも料率はずっと低いままで、
自分が数字を見ていた時は
親会社の利益と比較するとため息がつきました。

自分が数字を見ていた4年間あまり(2018年くらいまで)で
利益はほぼ倍々ゲームで増えていましたが、
販売に対する平均料率は、30%台半ばでした。
大手が50以上もらっているのと比較して酷く低い数字です。

サイトによっては20%台の料率です。
ザクっと40%とか45%とか言っている人は
こういう数字の現実をどこまで知ってるんでしょうかね。

あと、
「漫画家の取り分が実質15%程度になることが多い」、
という記述も見ましたが、

そういう例は多くありません。(と思います)
60%(出版社の取り分)×25%(60からの作家の取り分)=15%という感じで
これは料率がかなり高い一部出版社の例ではないかと思います。

料率が平均すると35%(程度)の入金の出版社では、
作家さんの取り分は
入金の20%→35%×20%=7%(40%なら20%→8%)、
入金の15%→35%×15%=5.25%(40%なら15%→6%)
入金の10%→35%×15%=3.5%(40%なら10%→4%)
などどいう数字は、ごく普通に見かける数字です。

最近はまた少し変わっているかも知れませんが、
実質15%の印税(価格×DL数×15%)になるのは、
実は例としては少ないかと。

売れたらスライド式で料率が上がるような設定の
会社もあります。

しかし、いずれにせよ(中小デジタル版元では)
全ての作家さんにグロス(売り上げベース)で15%は出せません。(と思います)
なぜなら出版社の取り分が35%前後なので、
作家さんに15%払った場合の残り20%から
原稿料、人件費等々まで賄うのは、
赤字が起きることなども考えれば、
かなりの無理があるからです。

その代わり、売れたらドンと
料率を上げるように(して作家さんに理解をしていただく)
するしかありませんでした。

デジタル作品を一から作るのではなく、
紙からのデジタル化だけをやっているなら、
またちょっと話は別ですが。

もう大体のところを書いちゃいます。
(あくまでなんとなーく聞いた話としてですよ)

アプリはあえて気にしないで下さい。
というのは、中小はTL、BL、メンズの売上割合が大きいので、
エロが配信不可(やりようはありますが)が基本のアプリを入れても
あまり意味がないので。

大手料率 → 60%くらい(サイトによるバラつきはほぼないとか…)

デジタルネイティブ小出版社 → 35%前後から良くても40%くらい
(複数サイトの平均です。サイトによって料率25%だったり、35%だったり50%だったりします。低いサイトほど売り上げが高かったりする場合が往々にしてあります)

中堅の紙の出版社の料率は正直あまりよく知りません。
大手と差があったとしても、
許容できる範囲の差なのではと思います。
文句を聞かないので、
それなりに納得する数字なのではと。

大体こんな感じです。
(アプリのみ、アプリメインで勝負されている会社は
また別の収益構造だと思います)
これを60と35を足して二で割ってザクっと47.5とか言っても
意味ないのが分かるでしょ?
差別されている側からしたら、とんでもない話です。
その数字はどこの会社の実情も語ってないただの平均値です。

新條まゆさんのnote


それでは最後に新條まゆさんのnoteについて
ちょい思ったことを。

先に言っときますけど、
これ別に新條さんを批判するつもりゼロですからね。

むしろ新條さんが問題提起をされたことで
大手の出版社の体制や配信サイトとの関係性に問題があるのだ
ということが表に出ることになってすごく良かったと思ってます。

だって私みたいな無名な個人が何言っても、ほぼ黙殺なので。

でもちょっとだけ、そこは先生…
というところがあったので、
補完をさせていただきたいと思います。

まずは

「漫画家が出版社に搾取される時代が始まっている」

というフレーズです。

これ先生の体験談なのでもちろん間違いではないですが、
あくまで「新條さんと小学館との間の取引」の中で
起きた一つのケース、体験談としてとらえた方が
いいかなーとちょっと思いました。

少なくとも小出版社は料率がメチャ低いので
搾取のしようがないです、ハイ。
(搾取しているのは配信サイトだと思ってます)

大手だと搾取に近いんじゃねーの
と思われる場面は確かにあります。
実際、大手で仕事をされている方の数字を
見せていただいたりしたことがあります。
どでかい数字を。

メチャクチャ売れた後も同料率なので、
先生の取り分が1億になったら、
出版社の取り分は入金の75%つまり、3億。

連載が3年続けば、出版社の取り分9億ですよ? 
先生は3億で。

さすがに先生3億で出版社9億とかになって来ると、
そろそろ料率変更してくれてもいんじゃねー?と
そりゃ誰でも考えますよね。
(担当サラリーマンの生涯年収軽く超えてるでしょ)
でもまず料率変えてくれないんだな、これが。

しかもこれが、デジタルネイティブの作品ならまだしも、
一度紙の単行本でしっかり売れて利益上がった作品なら、
電子書籍は初期費用すでに回収してる状態なので、
ほぼ丸々っと利益ですからね。

新條さんのようにコミックスが売れた作家さんが
電子書籍化の際に搾取されていると感じるのも
無理ありません。

私のこのような文章に舌打ちを
する人がいるかもしれませんが、
そういうことではなくてですね、
より皆が幸せになれる
健全な取引に生かすようにしてもらいたいと思います。

続いて、

「漫画家が原稿に直接写植を打てるようになり
印刷をすることもなく、データを送るだけ。
では、出版社の役割はどう変わったのか…
編集部と出版社の役割を分けるとすれば
配信会社に配信を許諾して、漫画家から貰ったデータを
配信会社に横流しするだけ
ザックリですが、やることほとんどなくなったわけです。
この一見なにもしてない出版社の電子書籍での取り分はどうでしょう。」

というフレーズなのですが、
申し訳ありませんが、ここはちょっと異議を。
データを送るだけじゃないんです。
校正もしますし、書誌も書きます。

最近は減りましたが
書誌のフォーマットがバラバラと複数あって、
いくつも書誌を書かねばなりませんのです。
これが結構めんどくさい。

あと経理もありますし、宣伝営業活動もあります。
取次や配信サイトとも配信日はいつにするかとか、
バナーどうなるかとか結構打ち合わします。

それとですね、コミックスをデジタルにするだけなら
正直仕事は減りますが(なくなるわけではない)、
デジタルネイティブの会社では普通に編集部として、
企画を相談して、ネームをいただき…
という一般的な編集業務もしているので、
普通に仕事はたくさんあります。
その事も老婆心ながら一応付け加えておきます。

電子化のみをやっている場合の取り分に関しては
おっしゃる通り、もっと上げてもいいし、
上げることは可能だと思います。

続きまして、

「配信元は著作者じゃないので、そんなに取って
ません。
著作隣接権を持ってる出版社がすごい率を貰っています。
でもそれだけの仕事はしてないわけです。」

というフレーズですが、
まず、すごく取ってるのは大手出版社だけで、
中小は取ってません…。
むしろ配信サイトに搾り取られています。

あと出版社は著作隣接権は持ってないです。
現在では出版社は対象から除外されています。

これは恐らく、新條さんが小学館と交渉した時期は
出版社がまだ著作隣接権を主張していた時期なのだと
思います。

著作隣接権について、まだ争いがあったものを
あたかも認められた権利かのように、
法律的な知識のない作家さんに相手に
出版社側がそれを持ち出して押し通そうとしたというのが
実際の所だと思います。
まあ、卑怯なやり口と言われても仕方ないですよ、
小学館さん。

著作隣接権に関してははっきりしてなかったんですよ、
かつては。
現在では出版者は著作隣接権の保護の対象となっていません。

この辺りは赤松健さんの話や、https://kenakamatsu.jp/articles/20109

最近の著作権法の本とか他の法律の解説サイトを参照いただければ、
間違いないかと。
出版関係の団体のサイトは出版社寄りの事しか
書いてなかったりするのでダメです。

2014 年改正著作権法と 電子出版ビジネスの動向

次に…



「そうやって作家と直接取り引きするなら
うちからいっさい漫画を配信させないぞ」と…

というフレーズ。
これはさすがに酷い。やめてもらいたいですよね。
どこにでもこういう人いるんだな…。


それから、


「他の作家もこの率だから。この契約がひな形だから」
と印税率を変えません。
出版社が莫大に印税率を搾取してるという構図です。

というフレーズですが、
この印税率を変えてくれないというのは、
上にも書きましたが、作家さんから見たら納得できないのは
すごくわかります。当然です。

私もこっちが制作費全部出して作った漫画を出版する時に
料率交渉をしたことがあるんですが、
「ほかの作家さんに料率を上げたことが漏れるとマズいから
料率は上げられない」とかいう、全く意味不明の理由で
交渉を却下されたことがありました。
そんなの知ったこっちゃないですよね。
個別に条件が変えられない理由になりゃしない。

第一、こっちが最初の原稿料全部負担していて、
そっちは書籍を作った後、デジタル化するだけなのに、
どうして(原稿料をもらっている。私のように払っているでなく)
他の作家さんと同じ料率になるのか最後まで
理解が不能でしたので(私は全然利益が出ない)、
その会社とのお付き合いを止めました。

でも何度も言いますが、
中小は搾取できるほどの料率を戻してもらっておらず、
むしろ搾取されている側なんです。
その結果として作家さんの料率が低くなる悪循環に陥っています。

私は作家さん側の代理人として
作家さんの相談に乗っていたこともありますが、
作家さんから希望があれば、契約のおかしいところは徹底的にしつこく、
嫌がられてもダメもとで相手をつつきますね。
嫌なこと、やりにくいことは代理人にやらせればいいんですよ。
そのための代理人なので。

とまあ、とっくに夜が明けて朝になってしまったので
この辺で終わりにしておきます。

なんかダラダラとまとまりがない内容で、
頭の悪さが露呈してしまいましたが、ようは、

「大手出版社であれ大手配信サイトであれ、
あまりに不公平な取引は是正してください。
公正取引委員会は速やかに動いてください。
皆の幸せはその先にあります!」

ってことです。

以上です!

今日はコミティアだけど、
全く寝てない状態で果たして行けるのか…。

余談

グチャグチャと言ってますが、
何も対応策を練っていないわけではありません。

心ある会社さんとは、良い料率でお付き合いを
していただくこともできました。
それはこういう主張を理解していただけたからです。

また最初に書いたにくまん子さんの
『泥の女通信完全版』は
デジタルではKDPのみで販売を開始しました。

普通の出版社はこういうやり方は
あまりしないと思いますが
(そもそも料率が良いわけですし)
これもまた弱者の戦略として
実験的にやってみたものです。
結果、kindle女性マンガで強豪並居る中、
1位を獲得した(220240227現在も1位になってます)
まずは成功したと言っていいかと思います。

私の考えている究極の配信は
やはり今日行く予定のコミティアのように
自分で値付けをして、自分で売って、
売上は全部自分の手元に入るような、
配信サイトではない漫画サイトを作ることです。

漫画を売るのはそれぞれの作家さんのブログとかで、
サイトはリンク集くらいでいいとか。
そうやって分散すれば、サーバー代だってかからないし。

そこで編集の役割がどうなるかは分かりません。
同人誌に編集者がいないように、
編集者は消え去るかもしれません。

希望者には編集者を付けてもいいし、
そのサイト以外の配信サイトでも売りたいという人には
配信スキームを提供してもいい。

そんな、搾取構造の存在しない、
サイトを作れないかなとずっと夢見てます。

どこで儲けんのよ?って話ですが、
まあうまくいけば、
アドセンスとかくらいは入って来るだろうし、
広告も取れないかなーとか…。
失敗してもお金かけなきゃ大した痛手にはならないだろうし。

最初に有名な作家さん、人気の作家さんが参加してくれたら
上手く立ち上がる気もします。気もしますですが…。

あーもうダメだ…頭死んできたので
以上にします。

にくまん子さんの次は
夏前くらいに、
中村明日美子さんの短編集を
出しますのでそちらもよろしくお願いします。

それで利益上がったら
なんか新しいことを必ずやるつもりです。

ではひと眠りします!

校正はしてないのでごめんなさい。
また夜にでも校正しますんで…。

間違いや、異論があったら訂正入れますので
ご指摘くださいませ。

【追記:20240227】
少し足したり引いたりしてわかりやすくしました。
また誤字脱字を修正しました。
意図するところは全く変わっていません。

批判されていると感じている方々にも
色々と大変な所があるのは重々承知していますが、
難しいと言って終わりにしてしまえばそれまでです。
出版社側もあきらめたらそれまで、
私が20年にも渡ってブツブツ言い続けている状況は
黙っていたら改善などおぼつきません。

勝っても負けても
皆が出来るだけ公正な競争の下で
戦える日を夢見てやみません。


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