『もっとも令和のアーティスト』──Milco・ロングインタビュー
Milco(ミルコ)という男がいる。2017年「安心安全サイコパス」というキラーチューンをひっさげて池袋の路上に降り立った彼は、その個性的な楽曲とパフォーマンスにより強烈なインパクトを残し、瞬く間に活動の場を広げた。男でありながら女性アイドル現場に出没するかと思えば、メンズ地下アイドルとしてメンドル現場にも出演。さらにはTV番組『村上マヨネーズのツッコませて頂きます!』にストリートミュージシャンとして3回登場。そしてTwitterでもポケモンなどアニメの吹き替え動画を投稿し(本業以上に)バズったりと、神出鬼没かつ多彩な活動をみせる。一体彼はどのような人間なのだろうか。そこで彼がいつも路上ライブをやっているポイントの池袋東口五差路にある某喫茶店でのインタビューを申し込んだ。……だが当日Milcoが約束の時間にまさかの50分遅刻(爆)。ある意味彼らしいスタートから、Milcoのこれまでの活動について聞いてみた。いったい彼はこの時代に何を穿つのか──!!
【池袋での好調なスタートと新宿での挫折】
Milco:遅れてすみません!!!!
──いったい何やってんすか!(笑) 遅刻するのは自分の路上だけにしてくださいよ!(Milcoの路上ライブはいつも告知より遅れて始まるのがデフォ)
Milco:本当にすみません! ここの会計は僕が持つんで……。
──別にいいですよ!(笑)。ではある意味いつも通りのスタートということで、さっそく始めましょう。Milcoの活動を振り返っていきたいと思います。最初は2017年の11月ぐらいに池袋にて路上を始めたんでしたっけ。
Milco:はい。さっきもちょっと通って思ったんですけど、やっぱ懐かしいなって。最近、全然来てなかったんで。
──あえてこの場所(※Milcoが路上ライブやっている場所前の喫茶店)を選んだんですけど。
Milco:最初、路上初めての頃をちょっと思い出しました。今もそうなんですけど、行くときめっちゃ緊張するんですよ。それをさっきエスカレーター(※駅地下通路から地上へ出る出口)を上る時に思い出して。あのエスカレーター上るときがいちばん緊張するんです。エスカレーターを上りきったらもう見えるんですよ、自分がいつも路上ライブやってる場所が。そこでまず先客っていうか、けっこう競争率が高い場所ですから、人がいるかどうか分かっちゃうんです。そこもドキドキしてて、色んなこと考えるんですよね。
池袋にほとんど路上以外の用事で来たことないんで。路上でなくてもドキドキするっていう。「闘わなきゃな」っていう感情、精神状態になるっていうか、それを思い出しました。
最初はここの近くの交差点のおしゃれなカフェの前でやり始めたんです。っていうか、どこでやったらいいか分かんなかったんですよ。場所探したんですけど、やっぱいいところはみんな他の路上の人たちが使ってて、俺やるとこねえなって思ってたら、ちょうどそこの交差点に2メートルぐらいのスペースがあって、本当は路上やるようなところじゃないんですけど、そこでいいやって、最初はそんな感じで小さいところから始めてみたいな。
でも二回目ぐらいの時に、人がもう止まってくれて。その時はピンクのやつ(※Milco初期衣装であるマイペース魂のTシャツ)も着てなくて、黄色いシャツを着てやってて。そこでカメラが来たんですよ。すげえしっかりしたカメラが急に僕のことを撮り始めて。
──それはTVカメラってことですか?
Milco:そうなんですよ。TVっぽい感じのが来てなんだろうと思ったら「ZIP!です」って。
──おお!
Milco:池袋特集ちょうど来週やるんで、そこで映像使っていいかみたいな。使っていいですよってサインしたんですよ。それで「路上初めて二回目でTVだ!」って思ってドキドキして待ってたんですけど、本編使われてなかった(笑)
──さすがに使われなかった(笑)
Milco:まだまだ考えが甘かったなって。そんな感じで、二回目ぐらいで人が集まってたんですよね。それでなかなか良いスタートだったというか。それで、三浦くんという男の子がいて、三浦くんはもう路上長いんですけど、三浦くんは止まってくれて「絶対バズる」って推してくれたっていう。だから最初はけっこう「やってやんぞ」って気持ちでやってましたね。
──では最初は好調なスタートを切った訳ですね。
Milco:好調でしたね。でも本当のことをいうと、池袋の前に新宿で一回やってるんですよ。ですけど、鳴かず飛ばずっていうか全然ダメだったんです。おまわりさんすぐ来るし。新宿のバスタの前ってすごい広くて、みんな路上やってるんですけど、もう「路上禁止」って看板立ってるぐらい厳しくて。家から一時間ぐらいかけて新宿に着いて、曲やったら一曲目で止められたりして。その時一人で来るのが億劫で友達に一緒に来てもらったりしてたんですけど、それで一分とかで止められちゃうのがまたすげえ悔しかったていうか。
──それはツライですね。
Milco:そうなんですよ。なんだよって。まあ俺が悪いんですけど。だからその時にボソッと呟いたのが「有名になるって難しいんだな」って、つい呟いちゃって。
──最初の挫折が(笑)
Milco:有名になるって厳しいんだなって思って。新宿の時の話って全然してないんですよ。ちょっと自分の中で黒歴史っていうか。それからあんま新宿に良い印象はないです(笑)。
新宿行って楽しかったことって、正直あんまりなくて。その時の路上の挫折もあるんですけど、肌に合う合わないじゃないんですけど、好きな街・好きじゃない街ってのがちょっとあって、それで言うと池袋と渋谷は僕と肌が合うんですよ。渋谷の路上もすごい手応えがあるし。ただ新宿はトラウマっていうかダメだった。
でも最近、新宿で僕のことを見て、その時のカリスマで元気を貰いましたって方からリプが来て。それって一番最初に僕のことをフォローしてくれた女の人っぽくて、その方からリプが3年越しぐらいに来てて、ちょっとなんかグッとくるものがありましたね。僕は絶望してたけど、僕の知らないところでは僕に元気を貰ってたと言ってくれる人がいて、あの時辛かったけど、やっぱりやってよかったなと思いましたね、新宿で。
──良い話ですね。
Milco:でもその時の新宿でダメだった頃の話って隠しがちなんですよ。あんま話したくなくて。だから基本的には知り合って間もないような人には「池袋で路上やってて」っていうふうに簡略化しちゃうというか。新宿でダメでって話全然してなかったんで。一番最初でいうと新宿だったんですね。軌道に乗ったのが池袋でしたけど。
──新宿で一度始めて挫折し、池袋に移ってきてそこで良いスタートを切れたと。
Milco:良いスタートを切りましたね。でも新宿で心折れてから、三、四か月くらい空いてるんですよ。夏かなんかに新宿行って全然ダメで、何したらいいか分かんなくなっちゃって。それで三か月何もしてなかったんですけど、自分の誕生日直前に「俺、このままじゃダメだ」って思って。なんかやんなきゃって。
その時、たまたま友達と映画を観に来てたんですよ、池袋に。その時にそこの交差点で待ってたら、ものすごいのびやかに歌ってる男の人と女の人がいて。結構良いスピーカーとマイク使って歌もうまくて。自分と照らし合わせてこの人たちスゲー自由にやってるなと思って。俺、映画観に来たのにもう映画のこと考えてなくて、それ見てから。俺もやりてえなってなって。ああやって自分を表現するってことができて本当に心からうらやましくて。自分は新宿で制限ある中でやっちゃってたから。だからそれを見てハッとして、池袋に来るようになりました。
──その二人の路上ライブを見たことが、池袋に来るきっかけになったと。
Milco:ちなみにその後、その二人と一回会うことできたんですよ。その二人が僕が路上やってたところでやりたくて、終わるの待ってたみたいで。「一口サイズのポケモンパン面白いですね」って男の人が言ってくれて。その時は荷物片づけるのに一生懸命で、後で電車乗って考えたら「あの時歌ってた二人だ」って気付いて。その時お礼言えば良かったなって思いました。その二人が歌ってる姿を見て池袋に来てるところあったんで。いつかお礼言いたいなっていうのはあります。今の僕があるのはあなたたちのおかげですって伝えたいですね。路上はそんな感じでした。
【路上からフェスボルタへ出演】
──そんな風に池袋で路上を始めて、次がフェスボルタですか。
フェスボルタ・・・ジョン・ヒロボルタ氏が主催する電話一本で誰でも出れるフェス。既存の枠に収まらない多彩なアーティストたちが出演する。
Milco:そうですね。元々僕がなんで路上始めたかっていうと、バンドが上手くいかなくて。バンド活動って基本的にリスクがあるというか、お金がかかるんです。スタジオ代とは別に「ノルマ」っていって、例えば一組三万円で出演できますみたいな。まず三万円でチケット30枚渡されて、メンバー三人だったら一人10枚捌ききれれば戻ってくるけど…という感じで、当然僕陰キャだし友達とかもいないし、バンドのメンバーも友達いないから捌けないんですよ。おかしいだろって僕はずっと思ってて、ノルマってものに対して。それがあったから路上やり始めたみたいなところあったんですよ。お金かかんないし。スピーカーだったら三万円の物を買ってしまえばそれだけでできるんで。
それで路上を始めてから、Twitterでフェスボルタの存在を知ったんですけど「演者も見る側も三千円で出れる」っていうのが格安だなと。三千円で警察も来なくて雨も降っても大丈夫なところでやらしてくれるんだったら出たいと思ったんです。
──路上からしたら天国のような場所でライブができると。
Milco:そうなんですよ。僕はその時にはもう路上でも人がちょっとざわつくというか、そんな状況だったんで試してみたいなってのがありました。だからこれはもう行くしかないと思い、夜中に出演希望の電話をかけました。ヒロボルタさんの個人の電話番号が乗ってて、ドキドキしながら電話かけて、それで「OKです」って言われて。
──それでフェスボルタに出演する訳ですね。
Milco:その時は僕もギラついてるというか。出演者一覧を見ても曲者揃いで。だから負けたくないなっていうのがあって。本当に誰とも仲良くすることもなく自分のことだけやろうって気持ちでした。
自分の出番の前が眉村ちあきさんだったんですよ。当時会場で口きいたのが眉村さんだけでした。眉村さんが僕の出番の前で。眉村さんは聞いたところによるとその後LOFT9でライブがあるっていう、出会ったタイミングから過密スケジュールだった。もう半分売れてる、ブレイクしかかってるみたいな。
眉村ちあき・・・弾き語りトラックメーカーアイドル。旺盛な創作欲と自由奔放かつ生命力に溢れるライブが特徴的。TV番組『ゴッドタン』出演を機に一気にブレイク。
でも俺あんま眉村さんのこと知らなくて。その時眉村さんが「これ使いますか?」ってライブで使っていたビブラスラップっていう楽器、カーって鳴る楽器があって、それを使いますかって言ってくれて「使います!」って借りてステージやったんです。そしたら眉村さんが次の現場行くっぽい感じで機材持って客席にいて。それで一曲やって使い終わったんでステージからそれを返してって感じで。それが眉村さんとのファーストコンタクトでしたね。
──最初からスゴイ出会いですね。
Milco:そうなんですよ。あの時のフェスボルタってたぶん眉村さんが目玉だったっていうか。眉村さんが巻き込んでるような、台風の目というか。
ただあの時の僕のライブは良くなかったなっていうのはありますね。ライブハウスでやったんですけど、やっぱライブハウスって音が大きいじゃないですか。僕の曲ってどっちかというと音楽というよりも、半分僕のワードが大事なんですよ、音楽半分僕のワード半分。でもライブハウスってその比率が違くて、音楽7割・歌詞3割みたいなところがあって、だからそれが僕の中ではちょっとやりづらいんですよ。そういう比率だからってのは僕もバンドやってたから分かるんですよ。僕はどっちかというと音楽よりも歌詞とかワードの方を重要視してるので、正直言うと音をもっと下げてもらいたいってのがあって。音響とかすごいいいけど、路上と比べてやりづらさはあるなと思いましたね。
──路上とライブハウスにはギャップというか、同じやり方は通用しないと。
Milco:そうなんですよ。やっぱちょっと違くて。あと天井も何回かジャンプしてぶつかって。自分のタッパとか路上だと考えないじゃないですか。天空だから(笑)。ライブハウスは天空じゃなくて有限だから。そんな感じでフェスボルタは僕の中では「屋根あるところでできたぞ」というのと「眉村さんと会ったぞ」っていうので終わったんですよ。
【フェスボルタから地下界隈、そしてアポカリ事件】
Milco:そのあとフェスボルタのスタッフさん二人から連絡があって。フェスボルタの枠で色んな人たちを色んなイベントに送り出すというのをやっていて、それで『アイドル三十六房』っていう渋谷タワレコの地下でやってるイベントにフェスボルタのコンピレーションCDを出すから、Milcoもプロモーションで行きなよって話があって、俺の曲入ってないのに(笑)、行ったんですよ。
『南波一海のアイドル三十六房』・・・音楽ライターの南波一海氏と、タワーレコード代表取締役社長・嶺脇育夫氏が「お店に置いてあるCD(アイドル)は紹介しない!」をモットーにアイドル曲を発掘し、紹介する配信番組。
それでタワレコに行ったら、酒井少年さんがコンピレーション全部総指揮でまとめてて売っていて、それを盛り上げるフェスボルタ組で来ててって感じで。その時眉村さんもいて、早くも二回目眉村さんと会えたんです。眉村さんと再会した時には前回からもう一か月ぐらい過ぎてて、眉村さんが凄いって話をそのフェスボルタのスタッフさんから聞いてたんですよ。俺より若いのに音楽で活躍してて凄いなと思ってて。「眉村さんこないだありがとうございます」って言って、初めてちゃんと声かけて話したのがその時なんですよ。前回のビブラスラップではお疲れ様ですとしか言ってないので。
それから次第にフェスボルタで遠征するって話があって、名古屋ですね。それが初めての遠征で、名古屋行って。酒井少年さんやそこにも眉村さんがいて、あとデイジーさん。フェスボルタの顔と呼ばれる人たちがいて。チームフェスボルタですね。それで一泊もしてないのかな。弾丸で。ゼロ泊。車中泊。夜に車に乗って朝帰ってくるみたいな。そのままバイトだったんで、さすがに身体がもうバッキバキの状態でバイト行って、ハードすぎてヤバかったですね。
名古屋のヴィレッジヴァンガードはすごいやりやすかったていうか、やっぱよくて。インストアライブで。でも……俺ライブやらせてもらってるんですけど、そのコンピに曲入ってないんすよ(笑)。入ってないのにライブやってるっていう。
──さも当然みたいにいる(笑)
Milco:当然のようにいて(笑)。だからそこでコンピCD買った人に「Milcoの曲入ってねえじゃん!」って言われて。「じゃあMilcoのCD買っときゃよかった!」って(笑)
で、フェスボルタのスタッフさんのおかげで、地下の界隈の人たちとちょっと仲良くなり始めて。フェスボルタの人がメンズアイドルの社長に話つけてくれて、新木場でイベントあるからって出たのがボーイズネオンだったんですね。(※名古屋遠征より前の時期)
さらにフェスボルタの人が『APOKALIPPPS(アポカリップス)』ていうぱいぱいでか美さんのいるグループの運営さんに話してくれて「Milco、面白いから新宿LOFT乱入しなよ」って言われて、それが同じ日だったんですよ。新木場コースト出たその後に新宿LOFT乱入するっていう。ほんの少し前まで路上やってたのに急に新木場コーストでやらせてもらって、さらに新宿LOFTまで出ていいのかってちょっとワクワクして。
──初ボーイズネオンはどうでした?
Milco:新木場コーストは初めて女の子のお客さんの前でやって、そこで結構上々だったんですよ。実際やってみて良かった。僕も変に構えてたけど、構えなくて良かったなって。そこで先輩のメンズアイドルの人たちに会って、フォロワー一万人いる男の子からフォローされたりとか「すごいよかったです」って言ってくれて、すげえなあって。
──初のメンズアイドルイベントは成功したと。
Milco:成功したんですよ。それで調子付いてて、その夜LOFTへ行って。で形式としてはそのアポカリップスの最後のエンディングに眉村さんが絡むみたいな、あの時の眉村さんは結構破天荒なキャラだったんで、その眉村さんのことを面白く思ったアポカリの運営さんが「眉村さんMilco呼んであげてよ」って。眉村さんが呼んだってかたちでアポカリの最後のトークの時間に絡みに行くって。最後眉村さんが慣れない台本で「あー友達がいる」みたいな。
──棒読みみたいな感じ(笑)
Milco:棒読みみたいな感じで。後で遠征行ったりしてるけど、まだその時点では出会って二、三回目ぐらいで。でも眉村さんと友達って体にして、ステージに俺が上がって、「安心安全サイコパスのCD持ってきたんで!」ってやって。女の子だけのイベントで急に男がステージに乱入してきてサイコパスやってシーンって(苦笑)。今でもどうしたらいいか分からない。あんなにシーンとした安心安全サイコパスは見たことない。もう空気としてヤバかったんですよ。男のお客さんしかいないから。ここ俺のやるべき場所じゃねえなって。運営さんからは「あんま良くなかったな。俺はMilco絶対受けると思ってたんだけどな」って、俺も普通に受けると思ってたんだけど、意外と難しいなって。
それぐらいの感じで手応えなくて。ショックは受けてたんですけど、そんなに大ごとにはなってないだろうと思いながら家帰ってみたら、若干Twitterが荒れてて(笑)
──あの時は結構荒れてましたね。
Milco:やれ眉村が悪いだの、アポカリの運営が悪いだの、色んなのが行き交ってて。それででか美さんに謝罪のリプをして。眉村さんからもDM来て「あまり気にしないでください」って。でも本当は眉村さんが一番傷ついてたっぽいんですよ。私の呼び込みが悪かったからだって。眉村さん優しいし、あとエンターテイナーとしてもやっぱ完璧主義者なところがあるじゃないですか、だからプライドも俺のせいで傷つけちゃったなって。そんな感じでLOFTデビューはちょっと苦い感じでしたね。
それで地下の方で悪名も轟きつつも、お世話になり始めるっていう感じですかね。
【固定ファンが付かない”賑やかし”】
──そこから結構いろんなアイドル界隈に進出していく訳ですね。他にも仮面女子さんと一緒になったり。
Milco:仮面女子さんとは、そのアポカリの事件のちょっと後ぐらいでしたね。(仮面女子で)一番上のグループの『アリス十番』っていう女の子たちなんですけど、路上ライブで曲やってて仮面女子のお面付けた女の子たちが乱入してきて、俺と同じ動きをし始めたんですね、で、この時仮面女子だと思わないじゃないですか。仮面女子のファンだと思って。俺なんかその時眠かったんで疲れちゃって、「もう一曲もう一曲!」て言われて、本物の仮面女子が俺にもう一曲って言ってくれてんのに、俺眠くて「もう一曲だけね!」てちょっと半ギレで(笑)。しかもちょっとタメ口みたいな。で一曲やって、さらに「もう一曲もう一曲!」てなって「本当にこれで最後ね!」みたいな感じでやってたんですよ。後でTwitterを見たら何十万人とフォロワーがいる人たちからフォローされてて、本物だったっていう。そのあと仮面女子さんの生誕イベントに呼んでくれて、秋葉原P.A.R.M.Sのステージに上げてくれて安心安全サイコパスやらせてくれたんですよ。
──その時点で路上デビューしてから半年ぐらいなのにP.A.R.M.Sにまで立つとは凄いです。
Milco:新木場、LOFT、P.A.R.M.Sはそこで制しましたね(笑)
──最初の勢いがとにかく凄かったですね。そこから八月に武道館アイドル博があって、路上ツアー、Milcoの生い立ち、そしてLOFTフェスのチケット100枚手売りに、年末には福岡遠征と続いて。こうしてみると調子良さそうですね。
Milco:そうですね、なんか階段上ってる感じしますね。でも、どうだったのかな、本当に考える暇もない感じでやってたからよかったのかなって思ってて。
──最初は呼ばれたライブに手当たり次第出演するみたいな感じですか。
Milco:そうですね。呼ばれたら行くみたいな。楽屋なくてもいいし。でも僕からしたらそれでよかったんですよ。ノルマ払わなくていいですから。今までさんざん苦しめられたノルマ無しにライブ出させてもらうってのは「嘘かこれ?」ってぐらい本当にありがたくて。当時は本当にノルマ無しで屋根のあるところに出してもらえるのが信じられない気持ちでした。
でもその時にずっと課題というか、界隈のアイドルさんや同業者、スタッフさんにはよくしてもらったんですけど「ファンが付かない」っていうのは、ちょっとやっぱ懸念はしてましたね。
──見て面白がってはもらえるけど……みたいなポジションということですか。
Milco:一推しにはならないっていうか、固定のお客さんが付かないなみたいな。優しい方はチェキ撮ってくれたりとかするんですけど、ただ……名は売れてるけど、実際ワンマンやるとなったら、やっぱ来ないだろうなってのはあったんですよ。
──固定のお客さんが付かないというところに悩みがあったわけですね。
Milco:そうなんですよ。周りのスタッフさんが僕の事を気に入ってくれてたからLOFTでイベントもやらせてもらったんですけど、僕だけじゃお客さんを呼べないし、女性アイドルさんを呼んでそのファンの方にも来てもらう方法を取らないと、イベントもプラスにならない。そういったところもジレンマがあるっていうか申し訳ないし、そこの部分がネックというのはずっとあったんです。でもかといってメンズアイドルの現場に行って女性の人気がつくかっていうと、それもまた違う話なんですよ。
──メンドル現場はメンドル現場でメインストリームにハマってるわけでないですよね。
Milco:そうなんですよ。あれはメインストリームが受けるコンテンツだから、僕は賑やかしとしては100点だったと自分で思ってるんですけど、賑やかしは結局賑やかしというか。僕も女の子になったらそうだと思うんですけど、賑やかしの方にはわざわざ行かないというか。
──Milcoという存在は結局のところ女性アイドル界隈でもメンドル界隈でも「賑やかし」の立ち位置であると。
Milco:そうなんですよね。路上とライブハウスの違いとして「絶対数の中でお客さんを喜ばせる」のがライブハウス、「不特定多数、数値がどうなるか分からないところでやる」のが路上なんです。分かりやすく言うと。路上ライブやると手応えとして「お客さんが止まってくれる」というのもそうなんですけど、終わった後にTwitter観るとフォロワーが二十人増えてたり、目視で確認できるんですよ。当初それをモチベにやってたんですが、ライブハウスでお世話になってうれしかった反面、お客さんが増えないし、目に見えてフォロワーがばっと増えるわけでもなくて、モチベを保ち続けるのが難しくなったというのがありましたね。
あと「ファンがつかない」ということ以外にも一つ心残りというか、音楽を作ってもそのMVを制作する時間が無くなってしまったんです。ライブが結構毎日毎日入ってたんで。MVが作れず自分のYouTubeの更新が止まっちゃう感じになって、そこもジレンマというか。そういうちょっとモヤっとしたのが重なって、うーん、活動としてこれってプラスになってるのかなって、だんだんライブハウスじゃないんじゃないかって考え始めるようになったんです。
──話を聞いてると、目に見える成果が返ってこないというのは、今の地下女性アイドル現場でも共通する悩みと言えるかもしれませんね。一部の熱狂的なファンは毎回来てくれるけど、そこの絶対からは大きく増えないというか、界隈を超えてブレイクしない現実があるというか。
Milco:本当にそれです。そういうのもあってライブハウスは難しいっていうのがあって。だからそういう中でLOFTフェスのチケット100枚手売りをやらせてもらって、いろんな人に名前を知ってもらうきっかけになって、それはとてもありがたかったですね。
LOFTフェス・・・『LOFT MUSIC & CULTURE FESTIVAL』。LOFT PROJECTが主催するイベント。2018年、MilcoはLOFTフェス出演の条件としてLOFT9店長からチケット100枚を手売りするというノルマを提示され、見事クリアーを果たし、出演権を獲得した。
──ちなみにどういう流れでその100枚手売りをすることになったんですか。
Milco:元々当時僕の周りに男の人が二人ついてくれてて、それがフェスボルタのスタッフさんとアポカリの運営さん(※現在は運営を離れてるとのこと)で、二人が僕に協力してくれてて、LOFTに「Milcoに手売りやらせてあげてくださいよ」みたいに話をつけてくれて。
ただ僕、本当に自信なくて、自分のチケットもまともに捌けないから。でも眉村さんがそのイベントのアンバサダーに就いてて、そのサポートみたいな感じで「眉村さんいるし、いいかな」って。チケット売る時も自分が出るからとかじゃなくて「いちばん話題の眉村さんとZOC出ますよ!」みたいに、とにかく看板を武器に名前を出してチケットを売っていって。眉村さんのライブに行って、チケットの手売りやらせてもらっていいか頼んだり。皆優しくて買ってくれて。だからチケット売れなくなったらどうしようってのはなかったんですよね。ほとんど毎日出てるっていうか。
──なんだかんだで予定よりも早く売り切りましたよね。
Milco:そうですね。思ったより早く売り切れたんですよね。やっぱり眉村さんやZOCさんてスゴイんだなって、僕でも買おうかなってラインナップだったし、LOFTフェスがそもそも凄いんですけど。それで電波少年的な企画をやらせてもらってよかったですよ。
──それでLOFTフェスが終わって福岡遠征ですね。周りから見ると、ノッてるっていうか。
Milco:自分でもノッてる感じありましたね。
【福岡遠征で見えた路上の「フラット」さ】
Milco:それで、その年明けにLOFTでイベントやらしてもらうんですけど……あ、遠征の話をした方がいいですかね。
──ぜひお願いします。
Milco:それで遠征なんですけど、もともと眉村さんを福岡に呼んだ界隈のグループの方たちがいて「交通費全部出します」って言ってくれて「マジで!そんないいのか!?」って思って、それで福岡行かせてもらったんです。それで迎えに来てもらって、ライブハウスに連れて行ってもらって。
長崎のミルクセーキさんってアイドルが来てたんですけど、そのミルクセーキさんもすごい面白くてライブ中にカステラ作る曲があって、みんなでカステラ作ろうってやって「なんかおもろ!」ってなって。Niimoさん(※大分のローカルアイドル)っていうすごいかわいいアイドルさんもいて、福岡に集まってた皆さんがめっちゃ面白かったんですよ。女の子も個性的っていうかすごい面白くて。俺もいざライブをやったら、だれも皆俺のこと知らないはずなのに、めっちゃ盛り上がってくれて、むしろ東京のライブハウスよりノリ良いんじゃないかって思っちゃうくらい、ちょっとすげえホーム感があるっていうか、今まで体験したことのないようなあったかさがあって。
僕って東京でやってる時って戦闘モードっていうか、言い方が悪いというか中二っぽくなるんですけど「やってやる」って気持ちでしかやってなくて。基本的に女性アイドル現場でライブやる時、お客さん男性だけだったんですよ。さっき話した眉村さんとアポカリさんの時のトラブルもあったから、心のどこかで……これは本当申し訳ないんですけど……どこかで勝負……崖の切っ先に立たされているというか……常にそういう気持ちで立つところがあって、絶対こいつら笑わしてやるって、ギラっという気持ちがあって。絶対俺の事知らないだろうけど、女の子見に来てその口に俺は合わないかもしれないけど、俺は絶対お前のこと笑わせてやるみたいな。男として「ぶん殴る」ぐらいの気持ちでライブやってて、ちょっとそういう気持ちだったんですよ。
でも福岡で初めてライブやって盛り上がってくれてその必要はなかったというか、俺の考えすぎだったのかなって思うぐらい、東京での殴るぐらいの勢いでやんなきゃいけないっていう戦闘的な感じでもないっていうか、楽しいものは楽しいって受け入れてくれる感じがすごい温かったんです。だから、いつもの自分を奮い立たせなきゃいけないエネルギーを、気負いなくパフォーマンスの方に回せたというか。「Milco良い」ってみんなもすごい言ってくれて、二日間とも反応が良かった。CDも記念に買ってくれて。ホーム的な感じで、福岡の人たちは本当優しくて、すごい良かったんですよ。夜ご飯も一緒に鍋行きましょうって、モツ鍋を奢ってくれて、すごい夢のようだったんですよ。上手く言葉に表現できなくて申し訳ないんですけど。
──福岡遠征はMilcoの中でも凄い良い思い出だったんだなって感じます。
Milco:そうなんですよ。嫌な思いをしてない……そんな嫌な思いを東京でしてるのかっていわれたらアレですけど、でもどこかでマイナスの面を抱えてライブをやってた身からすると、それを気兼ねする必要がないというのは本当に大きかったというか。
さっきの男のファンの話に戻っちゃうんですけど、(女性アイドルメインの現場でライブをやる側として)客席が男ってのはアーティストとしてマイナスなんですよ。俺もたぶんお客さん側にいて、ステージに女の子観に来たのに男が上がったら「何だ?」ってマイナスから入るんですよ。絶対ゼロからじゃない。フラットじゃないんです。スタートがまずマイナスなんです。それをゼロに戻せるか、1にできるかってところで、もう不利なんです。ほんと言葉を選ばず言うと。その不利な状況でずっとやってきたから、それを抱えないで男の人も女の人も盛り上がってくれたのが、本当にデカかったていうか、俺が本当にやりたかったのはこれだよな。だからその時、福岡のスタッフさんに「めちゃくちゃ路上ライブに近いです」とはっきり言っちゃってて。公平に見てくれるっていうか、すごい路上ライブに近くて。それでそのあと病んじゃってるていうブログを書いちゃったんですよ
──どういう内容のものだったんですか?
Milco:年末でその時にあまりにも東京と受け入れ具合が違いすぎて、ブログ書いちゃったんです。「やっぱりライブハウスでやるのは難しい、俺は路上でやっていきたい」みたいなことを、ライブハウスでお世話になっておきながら。東京のライブハウスに対する不満じゃないけど、どこか自分の中で抱えていた、一年間我慢してた心のタガが外れてしまった。それを我慢できるのがたぶん僕としての売りだったんだと思うんです。それが看板だったんですけど、自分でそれを下ろすような真似を東京でやってしまった。そんなことをお世話になってるLOFTの人たちが目につくところでわざと書いてしまったんですけど、でもあれが僕の中での本心だったところはあります。
でも今思えば、そのマイナスからのスタートで俺は良かったんです。全然。今思えばその我慢できるのが自分だったし、なんであんなこと書いてしまったんだろうってのはあるんですけど、でも自分に嘘はつきたくないから、それが本当のところです。
ただマイナスからのスタートから始めたことに対して恨んでるというのはないです。なんか俺はそれで男として強くなれたところはあるし、何倍にも俺の売りというかそれでもやっぱりやってやるって気持ちがあったし、ギラついてたんで。今でもギラついてますけど、その時は東京と福岡のライブでのギャップがあってあのブログを書いてしまったというのがあって。「路上ライブに近い」っていうのは、あの時は何て言ったらいいか分からなかったけど、路上も福岡も「フラット」だったんですね。
──なるほど、フラット。
Milco:ゼロからスタートできるっていうところがありがたかったですね。マイナスじゃなく。だから福岡遠征って良い思い出しかないなって思ってたんですけど、今考えたら自分の中でターニングポイントだったなっていうか、一年間やってきた中でハッとさせられたっていうか。
──ある意味その年の決算みたいなところですね。路上から出て、ライブハウスに出るようになって、でもそこのギャップで何か違うなっていうのに改めて気付かせてもらった……路上がどういうものだったかというのを再発見させてくれたのが福岡遠征だった。
Milco:本当にそうなんですよ。僕の中で福岡のひとたちは凄いよくしていただいて、頭上がらないっていうか。たぶんこれどこにも話してないんですけど、今話して自分の中でも整理ついたところあって。福岡遠征ってすごい楽しかったけどなんでだろうと思ったら。
【LOFTから身を引くという決断】
Milco:それでライブハウスでやるのどうしようかなってちょっと年末ぐらいに悩んで、でも年明けに新宿LOFTさんで僕のイベントが決まってたんですよ。「milfest japan 2019」ですね。それが決まってて、結構名だたる人たちにオファー出したんですけど、やっぱ赤になっちゃってみたいな。結果的に。
──その時期から目に見えて調子を崩し始めましたよね。
Milco:そうなんですよ。ちょっとコトっとなっちゃって。それがあったからそのあと新宿LOFTの店長に謝りに行ってるんですよね。あんなブログ書いちゃってすみません。よくしてもらってるのにあれは横暴でしたて言って。店長は優しくてすぐ許してくれて「Milcoまたイベントやってこうよ」って言ってくれて「ありがとうございます」って思ったんですけど、その時頭にふっとまた思い浮かんだのが「俺ファンいないんだよな……」って。
僕がイベントやるイコール僕がファン呼ぶ、お客さんを入れなきゃいけないというのが仕事になるわけじゃないですか。僕はその時仕事って盛り上げるのが仕事だと思ってしまってる部分があって、お客さんを入れるのが仕事だって認識がもうなかったんですよ。「呼べない」って自分の中で悲しいけど思っちゃってるところがあって。それは界隈的に女性アイドルさんの現場周辺にいたからってのもあったんですけど。自分の中の手応えよりも、おんぶにだっこ的にちょっとうまい感じで入ってズルくライブやってるって感覚の方が大きかったというか、だから周りの頑張ってる女の子たちとも、僕はちょっと違ったっていうか。
たとえばるなほしちゃんがワンマンやったじゃないですか。比べると僕は意味合いがちょっと違ったなと。本当にファンをつけてワンマンをやってるるなほしちゃんに比べて、僕はやっぱスタンスとしてズルくどっかの隙間に入ってライブやってなんか有名にさせてもらってっていう。ズルくやってきちゃった弊害がそこで出ちゃってるといったらアレなんですけど……ファンが少ないってのがあって。だからLOFTフェス終わった後もちょろちょろGWぐらいまで深夜イベントをやらせてもらってたんですけど、それがやっぱりいっぱいいっぱいになっちゃって。GWが決め手だったかな。
──ネイキッドロフトでの11日連続深夜イベントですね。
11日連続深夜イベ・・・2019年ゴールデンウィークに11日間連続で行われたMilco主催の深夜イベント。毎夜異なる企画とゲストで、4/30の平成から令和の切り替わりにかけては「令和最速ライブ」も行う。このイベントが終わった少し後にMilcoは楽曲製作に専念することを理由に一時的に活動休止する。
Milco:ありがたいことにやらせてもらったんですけど、そこで完全に心が折れちゃったていうか。
──確かにお客さんを呼んでるわけでなかったですもんね。厳しい言い方ですけども。
Milco:やり切れて本当良かったなって思うんですけど、ただ一日二日ぐらいは無企画な回もあったぐらいで、けっこう僕の中でボロボロだったていうか。本当はLOFTもワンマンをさせたいって言ってくれてて。店長も気に入ってくれて、それで新イベントやって、店長と共同でワンマンやろうよって話だったんですけど、やっぱりワンマンできる自信もなくて、それで店長に断りの電話入れちゃって、ちょっとやっぱ新イベントきつくてって。そこが自分の中での、大きな後悔じゃないですけど、もっと違う言い方あったかなって。三週間前ぐらいだったかな……ちょっとブッキング無理ですって、ドタキャンみたいな感じで、だから俺穴開けちゃったんですよ。
それでLOFTにそういうことしちゃったんで、ケジメじゃないけどLOFTから身を引こうと思っちゃったんですよ。ロックカフェロフトなんかには店長さんに良くしてもらってるのもあって、たまに出たりもするんですけど、まだ新宿LOFTには行けてないっていうか。
でも正直いうとその時のこと後悔してて。もっとLOFTと……柳沢さんていう店長がすごいよくしてくれたんで、柳沢さんのこと裏切りたくなかったなって正直あって、でもしょうがなかった部分も自分ではあるなって。
──難しいですね。周囲の評価はあるのに、実際の人気はまだそれに追いついている訳でないという状況というか……。
Milco:そうなんですよ。僕の中で。それでファンも比例して増えてったら僕も病まなかったと思うんですけど、板挟みになってしまったというか、イベントやらせてもらってありがたいけど……自分が気い使いなのもあるんですけど、気使っちゃたんですよ。だから11日連続深夜イベも(お客さんを)呼べる人にブッキングしようと思っても深夜イベだからブッキングしづらくて、普通の地下アイドルさんとか出てくれないんですよ、時間帯が時間帯なんで。出てくれたのは墓嵐や、モリイちゃんたちとか、g.a.gさん。イベントはすごいよかったんですけど、一回やったら深夜出てくれる人あんまいないなあ、あと呼びたい人もいないなあって。
【路上はYouTubeの宣伝だった】
Milco:そんな感じの中で、MVも作れてないって状況もあって。元々YouTubeをやりたかったんです。もともとYouTubeの宣伝で路上やってたんですよ。
──え!? 実はYouTubeがメインで、路上はその宣伝だったんですか!?
Milco:そうなんですよ。YouTubeで『カリスマ takes you high』のMVを挙げて2000回再生したのって一年後とかなんですよ。でもカリスマ挙げた直後は、やっぱすげえいいのに再生数が無いのが悲しくて。で、路上ライブ始めたんですよ。宣伝のために。
──それはちょっと初めて聞きました。
Milco:そうなんですよ。だから自分の中で優先するものというか、こうなりたいっていう図式を捨てちゃってたんですよ。周りにも大人がついてくれてたんで、とりあえずその人たちが喜んでくれる方に行こうみたいにしてて。
──YouTubeがやりたいとは常に語ってましたが、YouTudeが先にあって路上がその宣伝というのは思ってませんでした。
Milco:ですよね。で、最初は看板も立てずにYouTube見てくださいみたいな。検索しやすいように「エムアイエルシーオー、Milcoです!」「YouTube見てください!」みたいなこと言ってたら、「口頭じゃ無理!」って言われて(笑)
──口頭じゃ無理(笑)
Milco:大学生の男の子と女の子がいて、口頭じゃ無理だから看板作りなよって言われて。で、看板を作ったんですよ。それで今思えばYouTubeのチャンネル書けばよかったのに、Twitterの方が検索しやすいからってTwitterのアカウントを書いちゃってて。
──すでにそこでちょっとおかしなことに。
Milco:それでおかしくなっちゃんたんですよ。そこでTwitter中心になっちゃって。で、YouTubeよりTwitterの方が情報発信しやすいじゃないですか。そこでまず(YouTubeに対する)第一のおろそかが始まってて。
──実は最初の段階からズレが始まっていたと。
Milco:でも元々路上やり始めたのって、YouTubeを有名にするっていうことの他にも、ライブハウスに呼んでもらえるかもしれないというのがあったんですよ。面白いってなったら誰かブッキングしてくれるだろうって。その二つが目的だったんで、一つは叶ったんですよ。屋根あるところでノルマ払わずに呼んでくれるかもしれないっていう。それは果たせたんですよ。ただそっち(ライブハウス)ばっかりになって、それで途中で「ん?」ってなってしまって。
それと、これ、(現場に来て応援してくれるファンに対して)すごい残酷なこと言っちゃうんですけど……俺、生身の人間に生で受けるコンテンツじゃないんです。インターネットを介して受けるコンテンツなんですよ。
でも生の方(の活動)を優先しちゃってたんですよ。これですごいアドリブ力も着いたんですけど、本当は自分の中ではMVみたいに作りこんだものを見てもらいたい人間なんです。しかもそっちの方のコンテンツが受ける自信があるんです。動画の編集も好きですし。
──みる松さんもすごい凝ってるし。クソコラとか謎コラとかも好きで作ってるのかなとよく思います。
Milco:そうなんですよ。鋭いですね。ああいうのが好きなんですよ。
──言葉は悪いですけど、ライブをそっちのけで作ってるような(笑)
Milco:ははは! むちゃくちゃ的を得てますね。何やってんだこいつって(笑)。もうもともとが陰キャなんで。なんだこいつっていうのをやっぱやりたかったんですね。
でも周りの人たちが求めるのは「生のMilcoを売ってあげたい」という感じで。そこと僕とのジレンマだったんです。僕はインターネットで有名になりたいけど、周りの皆はライブハウスでちゃんとミュージシャンとして成り上がっていくMilcoを見たいという関係者の方たちがいて。
そこで決定打になっちゃったのがポケモンだったんですけど。でもポケモンが僕の中でちょっとズレちゃったなってポイントでもあるんですけど、あの時の自分には自分の夢を一個かなえてくれたコンテンツだったていうか、インターネットで有名になりたいって夢をまさに一回済ませてくれたっていうか。
で、その時はっとして、俺がやりたかったのってこういうのだったなあって。今度はそれで満足してライブハウスとちょっと離れることになるんですけど、そうなるとそうなったでまたズレてきたんですよね。「インターネットでやりたかったことって音楽だったよね」って。吹き替えで流行っちゃったじゃないですか。バズるのは気持ちよかったんですよ。ただ自分の性分とか目的とか、自分のやりたかったことをないがしろにしてまでバズろうってなっちゃってて。MV作る時間ができたはずなのに、考え方がTwitter脳になっちゃったというか。「Twitterで有名になればいっか、しかも音楽じゃなくてもいっか」ってなってしまって、自分の中でパズルのピースが崩れ去ったというか、とっちらかっちゃったんです、やりたいことが。
でも吹き替えとかやっても満たされないというか。しかも本当に好きなことじゃないからバズんなかったら意味ないなとも思っちゃって、自分が作った作品ではあるけど、バズんなかったら意味が無いって変な割り切りもできてしまって、それも空しいんです。バズんなかったらゼロなんで僕の中で。アニメの吹き替えに関しては。
でも音楽は違うんですよ。バズんなかったとしてもライブで見せれるし、自分の中では財産としてやっぱ自分の一番好きなものだから。一番やりたいことだったから。しかもCDにもなるし配信できるし、ちょっとやっぱ遠回りしちゃったんですよね、そこらへんから。
──話を聞いて、なんかすごい自分の中で腑に落ちたというか、パズルのピースが合わさったというか。YouTubeの宣伝のために路上を初めて、ライブハウスに出るようになって、周囲から評価を得たけれど、それで求められるものと自分のやりたいことがズレてきて、それを戻すんだけど、またズレて……みたいな。
Milco:そうなんですよね。人間として僕はやっぱ器用じゃないんだなって、振り回されてる感はありますね。
──もうちょっと突っ込んで言うと、今初期ほどトントン拍子でないというかストップしてる印象があって。けっこう悩んでるのかなって。
Milco:ああ、でもたぶん一番聴きたかったところってそこだと思うんですよね。今完全にストップしちゃってるじゃないですか。僕もそれはやっぱ当事者というか本人だから分かってるんですけども。
今もう一回YouTubeをやろうとしてるんですけど、やっぱMVからやろうと思ってて。MVを自分で編集しているんですけど、作っている間はインターネット上でどう立ち回ったらいいか分からなくなるというか、特にTwitterで呟くことがなくて(笑)。MV作ってますよぐらいしか呟くことなくて。ああ、単にMV作ってますでいいのかな(笑)
──まあ作ってますよ程度でいいんじゃないですか(笑)
Milco:そうですよね。だからせめて、言葉にして思ったんですけど、近況報告ぐらいはしとくべきだなって(笑)
──すごい当たり前のことを(笑)
Milco:当たり前な話なんですけど、ちょっとひきこもっちゃったっていうか、製作で。でも俺は今話しててもそうなんですけど、自分に嘘ついてないんですよ。正直いうと。MV作ってて、業界の評価もまったくないけど、武道館も諦めてないし、自分の中で嘘はついてないつもりなんですよ。まだ俺のことを信じてくれてる人がいるんで、その人たちを裏切らないためにも、もっとちゃんとやってこうかって思ってます。
今はなんか割と冷静に物を見れてると思うんで、ちゃんとYouTubeやってて、9月からしっかりやるんで、僕はもう本当にこれが自分の人生最後だと思ってやります。
──最後(笑) (妙にシリアスな感じに思わず笑ってしまう)
Milco:いや、本当に最後なんで(はっきりと断言する)
──覚悟を決めて。二度は無い人生。
Milco:そう二度は無い人生。去年死ぬほど歌ったはずなのに、自分が二度あると思ってたっていう。
でも去年LOFTが終わってから、本当に何もしてないっていうか、丸々一年ぐらい活動してないんですよ、俺の中では。ライブにはちょくちょく出てるけど、俺の中では何も革命は起こってないっていうか。
ああでも一個あったか。8Kスポーツのやつもあったり、年始も「はかまダンスwith me」やってるか。で、元カノパラダイスもMV出してるか。じゃあ別に活動してないわけじゃないな。してます(笑)。ただコンスタントにやれてなくて、あのとき死に物狂いで「バイト終わりだけど、疲れてねえし、疲れてるけど疲れてないし、路上行くか」って気持ちに比べたら今は弱くなっているっていうのがあって。
──単発単発で、大きな流れを作るまでにはなってないですよね。
Milco:だからちょっと今度は自分自身で流れを作んなきゃなってのはありますね。9月からの僕には期待しといてほしいなって思います。ここで話した内容とズレないようバチっと決めたいと思いますね。
【「路上アーティスト」は手段の一つ】
Milco:YouTubeをやっていきたいって動画をちょっと前にあげたんですけど、モヤっとしたと思うんですよ。コロナだから急に舵切ったんじゃねえのって。思ったと思うんですよ。思ったと思うんですけど、俺、最近思ったのが自分の昔のMVを見てこの時めっちゃイキイキしてたなって、他人の評価すら恐れずにすげえイキイキしてたなって。
──活動当初からカッチリしたMVを用意しているのが印象的だったんですが、元々それが一番やりたかったことだったんだなと今日の話を聞いて腑に落ちました。
Milco:そう、あれがやりたくて。僕YouTubeでいちばんよく観るのがMVだったんですよ。邦楽でも洋楽でも。僕が路上始めたときってバンドでワンオク以外大したのがなくて、それで正直俺が作った方がいいんじゃないかって、思っちゃったていうか、俺がやんなきゃダメなんじゃないかって。
──アーティストとしてはある意味正しい出発点ですね。
Milco:そういうのがあって、撮ったみたいな。それは今でも思ってるんですけど。だから後はもう徹底的に活動したいところで活動してみんなにちゃんとお礼言いたいなって。やっぱりなあなあにしちゃってて。そこはみんなに謝りたいけど、成功してちゃんと謝りたいですね。
──これからの活動を通してそれを伝えていきましょう。
Milco:YouTuberではないんですけど、芸人でも、歌手でも、もう肩書はなんでもいいんで、天下獲りに行きます。
──じゃあある意味「路上アーティスト」でもない訳ですね。
Milco:そうですね。路上アーティストって言われると「ん?」ってなる。「路上」ってつけないといけないのかって思っちゃう。普通のアーティストでいいだろって。
──確かに「路上」はあくまでもただの出発点にすぎないっていう。
Milco:そうそう、宣伝用なんです。言ってしまえばバニラ高収入のトラックと一緒というか。だから路上アーティストでもないんです、僕は。究極言えばYouTube見てほしくてやってた人間ですから。最後路上で死ぬみたいなこともないし「俺は死ぬまで路上アーティストだ」っていうのもないですし。普通に俺は俺というか、路上アーティストにこだわりはないです。
──あくまで手段の一つに過ぎないと。
Milco:手段の一つです。本当に。あと賢くやろうしても無理なものは無理なんで自分は自分のセンスを信じようと思います。俺はあくまでワンマンアーミーというか、やっぱ一人でやるべきだなって思います 元々複数人が無理で一人でやってるところあって、バンド無理で、ノルマとかバンド外の悩みもあったけど、やっぱ人と歩調合せるのが難しいんですよ僕って。だから自分は自分のセンスでやっていこうってのが2020年です。原点に返る。やりたかったことに戻ろうって。
【Milcoの意外な音楽ルーツ!?】
──そろそろ時間ですね(Milcoが遅刻したためインタビューの時間が削られてしまい……)。まとめに入る前にひとつだけ質問をいいでしょうか。楽曲制作など影響を受けたクリエイターについて聞かせてください。
Milco:はい。いつもワンオクっていって逃げちゃってたんで、そこを正直にお話しすると、実は『group_inou』という音楽の影響をめちゃくちゃ受けていて。カンの良い人は気付いてるんですけど、俺はこの人たちの音楽を聴いて一人でやろうと思って。初期は特に影響を受けてますね。『安心安全サイコパス』も『group_inou』の影響を受けてて。最近だと海外のEDMが影響が大きいです。
だから音楽的にはワンオクは好きなんですけど、ズルいこと言うと、実は全然違う音楽の影響を受けてやってるんです。音楽始めた時から「ワンオクロックを倒すためにワンオクと同じ音楽性じゃダメだ」と思ってて。そこでワンオクの後ろを追いかけるんじゃなくて、ワンオクのことを待ち伏せしてワンオクロックが走ってきたところを横からタックルしに行かなきゃ俺はもう勝てねえって。後ろから走っても、絶対追いつけないから、横からタックルしに行くしかないって思って、ワンオクの音楽性をやめたんです、自分の中で。
そこでワンオク以外に好きなジャンルだったのがテクノやラップ、EDMで、しかもこっちの方がバンドじゃなくて、打ち込みだから一人でも“映える”んですよ。それは水曜日のカンパネラが証明したじゃないですか、岡崎体育くんも一人でやってて、それで俺も一人でやり始めました。
最近はEDMでマシュメロっていうDJが凄い好きで、これ聴いてもらえれば僕の好きな感じが分かります。他にも『BUDOKAN BUDOKAN』はニッキー・ミナージュってラッパーの『スーパーベース』って曲がその時世界で一番好きで、それの影響を受けてますね。
──どんどん隠れた音楽のルーツが明らかに。てっきりワンオクという答えだとばかり思っていたので、どれも意外でした。
Milco:わりとガッツリ洋楽の影響があります。ワンオクにいちばん近い音楽って海外の音楽だなっていうので、その匂いだけはさせておきたいんですよね。
【もっとも令和のアーティスト】
──では、最後の質問を。『Milco』とは一言でいうと何者なのか。
Milco:そうですね……言葉を選んでいいですか……『令和』だと思います。
──令和、ですか。
Milco:俺はわりと自分の事を温和的というか、売れるためには柔軟になれるという人間だと思ってて。令和になって『平成2』って歌ってますけど平成にそんなにこだわりないんですよ。面白いと思って歌ってるだけで。で自分のことを「もっとも令和っぽいアーティストだな」って個人的に思ってるんです。これからの時代、コロナになって変わってしまってるけど、ここに対応して最後に売れる、残るのは俺だって思ってます。だから「この時代の名前が白ひげだ」じゃないですけど、この時代の名前が俺で、俺は別に間違ってない、それをこれから証明します。ちょっとキモい感じになっちゃったんですけど、これが本心です。
──最後にめちゃくちゃ良い言葉が聞けました。
Milco:コロナで大変だけど、今の時代に対応してがんばるんで期待していてください。
──もっとも令和のアーティスト、Milcoのこれからの活躍に期待しています! 本日はありがとうございました!!
ではとりあえず、今年の目標はYouTubeに力を入れるということと、あと仕事に遅刻しないということで。
Milco:本当にすみません(笑)
2020年8月30日
インタビュー:タイガー田中
池袋東口五差路の喫茶店にて
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