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鏡面の波

夢の中で私が唯一描いた漫画がある。
ギャグ要素もあるが、私の深いところを描いた漫画でもある。

夢の中で私はある日、大好きな人(以後、女神と称することにする)のいる領域に入ることが出来て、最初はすごく嬉しかった。
その領域には、女神を含めおよそ、8人くらいの人がいて皆楽しそうにしていた。豪奢な建築に住み、煌びやかな和装をしていた。そして皆どこか影があった。

女神は私が沢山話そうとすると、どんどん奥の方に行ってしまう。奥に行けば行くほど水(恐らく川)があって暗く寒くなっていく。だから女神は毎回「今回はその辺にしてくれないか?冷たいのだ」と言って会話を切りあげた。川底には何か紙のようなものが沈んでいた。

ある日、とある人物(以後、Aと称することにする)に小声で「女神には近づきすぎない方がいいわよ」と言われた。どうやらAと女神の間には過去に何かあるようだったが、その場では何も言及しないことにした。

女神はいつも奥の小さな神殿のような所で、何か書物をしていた。長い長い巻物にひたすら何かを綴っていた。そこが何なのか、何を綴っているのか、私たちが普段過ごす場所からは伺い知れなかった。

またある日、私は女神にたわいも無い話をし続けていた。そうしたら女神が私の手を引き「こっちへ来い」と言った。
女神の神殿までの道はとてもとても長かった。女神は私の手を引きながら、ものすごい速さで、周りの光景が見えないくらい、ぐるぐるとひゅんひゅんと駆け抜けていく。私は何故かいつも楽しそうに通り喋りながら、それでも(すごい速さだぁ……)と衝撃を受けながら女神に手を引かれていく。

気がつくと、女神の神殿に辿り着いていた。
部屋の内部は四畳も無い。障子で囲まれている。暗く、光は絵ガラスで出来た照明が一つ、机や床には書きかけの書物等が散らばっていた。
女神はそこで私を抱きしめて言った。
「悲しいのだ」
と。
書物をよく見ると、女神の内心やこれまで起こった出来事など、おそらく女神の“生”についてが綴られていた。女神の部屋は川の最終地点であり、川底の書物にも女神の悲しみが沢山書き表されていた。

女神は泣いていた。

私は女神がより愛おしくなってたまらなかった。女神をぎゅっと抱きしめ、「大丈夫です、私がここにいますよ」と言った。女神は泣きながら笑顔を浮かべた。

私は様々な雑多な書物を書いてきたが、唯一線画までしっかりと描いた漫画がある。面白さもあるが私の深い心情までを描いたものである。拙い作品あり人に見せることは幾分恥ずかしさもあったが、私の大事なものになってしまい捨てられずにいた。私の一部だった。


私たちが普段過ごしている領域では、それぞれの書物が何者かによって川に流されることが時々あった。書物を流されたものは泣いていた。私は慰めながら、何故だろう、と思っていた。

ある日。

私の書物が無くなった。

どこを探しても無い、無い。

無い。


そして最後に辿り着いた場所。それは

川には沢山の書物が沈んでいた。遥か昔の書物までも、領域が出来た時から今の今まで書き起こされてきた書物が沢山沈んでいる。
まさか、と思った。

あったのだ。私の書物が。

最初はどうでもいい事が書かれた書物を一片見つけただけだった。
周辺を探すと、ぱらぱらと私の書物が落ちていた。
私の目は書物を辿りながら歩き、走っていた。
書物の内容はどんどん重要になっていく。
目を血走らせながら無我夢中で私は私の書物たちを拾っていった。
そしてようやく、あの大事な書物を見つけた。

“あった!あったよ!”

その時の私は、もう泣きそうな苦しいような気持ちでいっぱいだった。

目線を上げると、そこには女神がいた。

神殿で女神はニヒルに微笑んでいた。


女神はずっとずっとこんな気持ちだったのか
ずっと一人で抱え込んできたんだ

そう思った。
おかしな話だろう。領域で過ごす者たちの大事な書物は、女神の手によって意図的に川に流され、勝手に読まれていたのだ。自分の大事な、人に簡単に見せたくないものを覗き込まれていたのだ。女神に怒らないわけがない。
でも私は女神の気持ちが痛いほどにわかった。
きっと、女神は今まで自分の大切なものを他人に沢山盗まれてきたのだと思う。

真相はわからない。夢だから。
でもあの領域に住んでいた者たちのはきっと全員私の一部だったのだと思う。
私が私を知るために、私に知らせてくれるために、この夢を見せてくれたのだと思う。

なんと解釈すれば良いのか、寝起きの頭ではまだよくわからない。とりあえずメモ程度に、と書いてみている次第だ。


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少しわかったよ。何が嬉しかったのか。
神様が人間的な部分を見せてくれたのが嬉しかったんだ。

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田中
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