萩、紫福
山口県萩市紫福。ここは祖母の故郷だ。
初めて訪れたのは40年以上前で、その頃はまだ阿武郡だった。小学校1年くらいで祖母と初めての旅行だった。初めてと言うか、後にも先にも祖母と2人で旅行をしたのはこの時だけ。今だからわかるけど目的は祖母の墓参りだった。でも、その墓参りになぜ孫の自分を連れて行ったのか未だにわからない。祖母が亡くなった時も父とこの話になり、「あの時なんでお前を墓参りに連れて行ったのかなぁ」と呟いたくらいだから。しかも父は祖母の(父にとっては母の)実家の墓参りに連れて行ってもらったことがないそうで、家族の中で祖母の「実家」に触れたことがあるのは私だけで、「お前だけ連れて何でだろうね」で話は終わっていた。
今回はここに行ってみようと最初から目的を定め訪れた。これまで萩は何度か行ったことがあるが、街の中心部で、それは仕事だったり遊びだったりだった。
車で20分と言うのは市役所の職員さんから聞いた情報で、そんなに近かったんだと少し驚いた。しかもちょっとした観光地もある。
11号線をまっすぐ、途中で10号線へ。単純なルートだった。40年前もこの道を通ったのか新しい道かわからない。もし、この道だったらそれは感慨深いが、何せ記憶がない。実は当時バスに乗り遅れバス停で2時間くらい待たされた記憶しかない。あるのは自分でも恥ずかしいくらいジラを言い、周囲の大人からご機嫌を取っていただいた記憶しかない。
そのひとつに駄菓子屋のおばあちゃんから「ほれ」と蓑虫を渡された。お尻をこうしたら出てくるよとニコニコしながら。私はそれが気に入って。しばらくその蓑虫で遊んだが、ちょっと飽きて道に置いた隙いなくなってしまった。逃げたらしく散々探したが、道路の方に車に轢かれた「べちゃっ」と潰れた何かがあった。近づくとそれは探していた蓑虫だった。それを見た私はまた泣きはじめた。今でも蓑虫に悪いことをしたと言う気持ちは残っていて、それから生き物で遊ぶことはしなくなった。散々泣いて周囲を困らせた記憶だけが残り、バスに無事乗れた事も知らず、気づいたら祖母と山の中を歩いていた。断片的な記憶ってこんな感じなんだろうな、
しばらく山道を歩くと頂上のような場所に着いた。そこは開けていた。天気がよく遠く景色を見ていた。はしゃいでいた。あまりにはしゃぎ過ぎて、石の上トントン飛び越えていたら「それはお墓だよ」と怒られた。「そこはお墓だよ」と言われてお墓参りに行った記憶となった。
しばらく祖母はお墓掃除をしていた。当たり前だけど祖母は手際よく、どこで買ったのかお花を供えお線香をあげ、「拝むよ」と言われ、一緒に手を合わせた。
今、車で祖母との思い出の地へ向かっている。お墓参りした墓所まで辿り着けないだろうけど紫福は地名として今も残っているし、地図から地形や集落を観察するとこの付近が昔からの「紫福」だろう。推測したところに立派なお寺があった。