ホラー系セリフ集1 1人用
短いシチュエーションボイス台本が3つ入ってます。そんなに怖くない、少し不思議くらいの話です。
「真夏の夜の不可思議」「カガミビト」「蜃気楼の向こうの友」
※ピカピカにも同じ台本を棚霧書生名義で投稿しています。中の人は同じなので安心してください。
「真夏の夜の不可思議」
真夏の、夕立が降って少しだけ涼しくなった夜にそれはよく起こる。
もしもし、うんオレ、まだ起きてるかなって思って……。
用はないよ、なんとなく電話かけたかっただけ。あっ、待ってまだ切らないで!
夜中なのはオレもわかってるけど……。もうちょっとだけ、話そうよ。
えっと……しばらく前に、一緒に観に行った映画あるじゃん? あれ良かったよな。
来月には続編が出るらしいぜ。……いや本当に続編出るんだって。あれから結構時間経って……あ、ごめん、オレの思い違いかも。まだ、お前と観に行ってから二か月も経ってないんだもんな、続編は早すぎるか。
ん? 近くの遊園地で好きなアニメとのタイアップがやるの? はーん、一人で行くのは恥ずかしいから、オレについてこいって言うんだろ。わかってるよ。14日の日曜でいいか? え、14日は日曜じゃない? そうだったな、悪い、カレンダーを今月のやつにしてなかったわ。
なぁ、オレとお前ってずっと友達だよな? ……そんなキモがるなよ! ったく、こっちは真剣に言って、はぁ、いや、こっちの話、お前は気にしなくていいよ。
うん、うん……、もう切っちまうの? ああ、遅くまで付き合ってくれてサンキュ。じゃあ、また。
はぁ……。
ああ、ああああ、ああああああああああ!
なぁにが、じゃあまた、だよ!
クッソ、ホントに信じらんねぇ。あいつがもう死んでるなんて……。
相変わらず電話の履歴は残らねえし、録音もできねえし、オレの妄想じゃないとも言い切れないのがマジで腹立つ。
オレは怪談とか怖い話は別に好きじゃねえのに。あいつにからかわれてる気がしてなんねえ。
ま、嫌じゃないけど。ただ、あいつと遊びの約束しても毎回すっぽかされるのだけはムカつくんだよなぁ……。
「カガミビト」
鏡には私の姿が映る。
私ってこんな見た目なのね。
これは学校で聞いた話なんだけど、鏡の前に立つと自分の姿が映るでしょ、そのとき映ってるのって本当は鏡の中に住んでいるカガミビトって生物なんだって。
カガミビトはね、人間の姿を真似するのが得意なの。これといって悪さはしないらしいよ。でもね、ときどき鏡の中が退屈になってこっちの世界に出てきてしまうことがあるんだって。
ドッペルゲンガーって聞いたことない?
自分とすごく似てるそっくりさん。お化けかもしれない、なんて言われることがあるでしょ。
あれって本当は、自分の姿をしたカガミビトがたまたま出歩いてるところを見ちゃっただけのことが多いんだって。
私の姿をしたカガミビトが出てきて、私と区別がつかなくなっても安心して。私はあなたの名前を呼べるからね。
だってね、鏡にいくら喋りかけたって、声は返ってきやしないでしょう?
それはカガミビトがお話できないからなの。
だからね、安心してね、あなたの名前を呼ぶのが私だから。
「蜃気楼の向こうの友」
うだるような暑い夏の日。
太陽に暖められたコンクリートの上に蜃気楼(しんきろう)が揺蕩(たゆた)っていた。
黒い服は暑さを吸収しやすいとどこかで聞いた。スーツは堅苦しくこの外気の中で活動するにはほとほと向いていない服装だった。
本当に歩くのすら嫌になってくる。
暗澹(あんたん)とした気持ちになりかけたそのとき、横断歩道の向こう側に古い友人の姿を見つける。
私は、あっ……、と小さく声を漏らして向こう側にいる彼に手を振った。
するとどうだろうか彼もこちらに気がついて手を挙げてくれるではないか。
私は彼の名を大声で叫びたかった。しかし、感動にのどが詰まってしまい少しも声は出ない。
ああ、友よ友よ、私の大切な友よ。現世(うつしよ)はとても暑くて苦しい。君が渡ってしまった幽世(かくりよ)はどうだろうか、案外涼しくて過ごしやすい場所であるのだろうか。
君の葬儀の帰りにこんな幻を見るなんて、私は存外君のことを嫌いではなかったようだ。今さら気づくなんて馬鹿だよな。馬鹿と言ってくれ。もう一度、君と愚かな口喧嘩がしたいのだ。ああ、友よ。