声劇台本「すてきな赤い人」ジャンル:ホラー 2人用台本(1:1:0)
原案:じんもふ
脚色、文章:棚霧書生
登場人物
タカヒロ 男。配信活動をしている。配信と私生活でキャラが違う
アンズ 女。タカヒロの大学の先輩、卒業済みの社会人、世話焼き気質
赤い人 (アンズと兼役)
後輩 (アンズと兼役)
アパート、タカヒロの部屋
タカヒロ:はーい、みんなこんばんは~、たかぴろです。しばらく配信できてなくてごめんね~
タカヒロ:やーっと引っ越し終わりましたよ、ネット回線、大丈夫そうかな?
タカヒロ:とりあえず今日は様子見ってことで、ちょっと雑談するだけにしますね
タカヒロ:どこに引っ越したか場所、教えてって? はは、言うわけないじゃないですか
タカヒロ:あっ、でも、このアパートについてちょっとだけ話せることがありますね。なんだと思います〜?
タカヒロ:そう、正解! 事故物件なんですよ、ここ〜。と言っても、俺が住んでる部屋がじゃないですよ
タカヒロ:お隣で自殺があったらしいんですよね。まあ、詳細は知りませんけど。今どき自殺なんて珍しくもないですから、そんな気にすることでもないかなぁ~ってね。家賃激安だったんで、ここに決めちゃいました
タカヒロ:ええ、今の発言って不謹慎ですか? 呪われてしまえ……って怖いこと言わないでくださいよぉ。だいたい俺が呪われたら……えっ? 今なんか、音しませんでしたか?
タカヒロ:ちょっ……! 呪い確定演出で草とか言わないで! そんなんないから!
タカヒロ:ええ、隣は無人のはずですよ……。不動産屋さんが自殺が出てから空室のままだって言ってましたから。リスナーのみんなぁ、恐怖をあおる的確なコメントをしないでくれる?
タカヒロ:心折れそう。……ホラー耐性あんまりないんですよ。そんな部屋に引っ越すなよってコメきてますけどぉ……だってぇ、家賃がホントに安かったんですよぉ……
タカヒロ:前途多難の一人暮らしスタートになりそうですが、これからも見守っていただければと思います……じゃあ、今日はこれで配信切りますね。おやすみなさい
タカヒロ:はぁ~、みんな思いやりってやつがないよなぁ。次々に怖がらせるようなコメントしてきて
タカヒロ:まあ、別に全然怖くねえけど。ああ、好青年キャラで活動始めちまったが、キャラ変してぇ……
タカヒロ:チッ、タバコ切らしてたか。あ~、面倒くせえ……コンビニ行くか
玄関ドアを開ける
タカヒロ:……はあ!? なんだありゃ……
タカヒロ:(アパートの共用廊下に女が立っていた。それだけならば驚くことはなにもない。しかし、その女は赤く光っていた)
タカヒロ:(全身から赤い光を発し、その光は強まったり弱まったりした。長い黒髪に隠されて顔はよく見えないが、肌は陶器のように青白い)
タカヒロ:はは、ふははは……幽霊ってやつか?
タカヒロ:(俺の胸は妙に高鳴っていた。配信に使えるかもしれない。幽霊を配信に載せられれば、どれだけの数字になる?)
タカヒロ:……いや、我ながらゲスいな。好青年キャラで通してんのに
タカヒロ:(そのとき赤い女と目があった気がした。……イケる! なんだかよくわからない自信が俺のうちに沸き起こった)
タカヒロ:……お友達から始めましょう! はじめまして、お嬢さん、俺、隣に引っ越してきました、たかぴろって言います。仲良くしてくださいね!
タカヒロ:(女は人間らしいしぐさで首をかしげた)
タカヒロ:こんばんは~、たかぴろです。昨日は配信を切ったあとに面白いことがあったんですよ!
タカヒロ:んふふ、もう言っちゃおっかなぁ、どうしよっかなぁ~。あははは、焦らしてるわけじゃないですよぉ。ホントぉに言おうかどうか迷ってるだけでぇ
タカヒロ:笑わないでくださいよ? 実は俺、幽霊とお友達になることに成功しました!
タカヒロ:あの、ガチ心配のコメントしてくれるのはありがたいんですが、俺は全然正気ですからね!
タカヒロ:ネタ? いやまあ……幽霊と友達になったらネタになるかなって考えがなかったわけじゃないんですが、ん~~お隣さんだし仲良くしたいじゃないですか
タカヒロ:まあ、ちょっと人間離れした容姿でしたけど、話も通じるし普通です普通。
タカヒロ:病院の絵文字、連投するのやめてもらっていいですか? ブロックしますよ?
タカヒロ:はいはーい、こんばんは~、たかぴろ配信はじまるよー
タカヒロ:みなさん、聞いてくださいよ! 例の隣人幽霊さんと仲が深まってきまして、部屋にお呼ばれしたんです
タカヒロ:……なんです、別にヤバくないですよ。俺は正気ですってば
タカヒロ:ホントにすてきな人なんですよ。どうしてそんな幽霊ってだけでみんな否定するんですか……
タカヒロ:はあ? 画面が赤くなってる? なんだろう配信アプリのバグですかね……。配信の調子が良くないみたいなんで、今日は雑談枠取りやめにします。またね……
ーー
ファミレス
アンズ:今日は私のおごりです。好きなものを好きなだけ食べなさい!
タカヒロ:おー、サンキュな
アンズ:早速だけど、アンタ、最近悩んでることあるでしょ? このアンズお姉さんに話してみなさい
タカヒロ:はぁ? 別にねえよ
アンズ:配信、サボりがちじゃない。
タカヒロ:それはリアルが忙しくなり始めたからで
アンズ:大学の講義にもあんまり出てないらしいね?
タカヒロ:チッ、誰だよお前にチクったのは
アンズ:一応まだOGとして大学の配信者研究サークルには顔出してるから
タカヒロ:後輩から俺のことも聞いたわけか。やってることストーカーだぞ? 気持ち悪いんでやめてもらえます?
アンズ:タカヒロが心配なの。アンタに配信活動すすめたのは私だし、ちょっと責任感じてるんだよね。なにか活動で嫌なことでもあったんじゃないの?
アンズ:それがアンタの私生活にも影響を及ぼしているなら、私が
タカヒロ:あー! ごちゃごちゃうっせぇな! お前は俺のお袋かよ!
アンズ:タカヒロ、落ち着きなさい。私は説教しにきたんじゃないの。ただアンタが困ってるんじゃないかと思って声をかけたのよ
タカヒロ:なにも。困ってることはないね
アンズ:嘘。それなら、どうしてそんなに痩せちゃったの? アンタの配信アーカイブ、見させてもらったけど、ある日を境にどんどんやつれていってる。そのことには自覚あった?
タカヒロ:……面倒くさくて、少し飯を抜くことが増えただけだ
アンズ:少し……? はあ、今すぐアンタの写真を撮って見せてあげようか。そしたら自分の状態を客観視できるだろうから
タカヒロ:痩せたのはわかってる
アンズ:ただ痩せたんじゃない、アンタ異様に痩せてるのよ。顔色もひどいし、まるで生気が抜けていってるみたい
タカヒロ:失礼だな
アンズ:アンタ、引っ越す気はないの?
タカヒロ:まだ俺が新しいアパートに引っ越してから三ヶ月と経ってない
アンズ:事故物件なんでしょ、幽霊も出るって
タカヒロ:だから? 俺はそのことはなにも気にしてない。それにあそこにいる幽霊はいいやつだ
アンズ:いいやつ? 果たしてそうかしらね
タカヒロ:なんだよ、なにか言いたげだな
アンズ:アンタがおかしくなったのは、あのアパートに引っ越してからなのよ、自分でもわかってるでしょうに
タカヒロ:俺はおかしくない、正気だ! アンズまで俺を頭のおかしいやつだってレッテルを貼るのか!
アンズ:怒りたくなる気持ちもわかるけど、アンタの置かれた状況を私は変えたいと思ってる。だから少しの間だけでいい、私の言うことを聞いてくれない? あのアパートから離れるの、そうすれば
タカヒロ:嫌だ
アンズ:タカヒロ
タカヒロ:ふふふ……誰もわかってくれない。リスナーもアンズも、彼女のことを勘違いしてる。俺だけだ、俺だけが彼女をわかってあげられる
アンズ:タカヒロ!
タカヒロ:俺は家に帰る……彼女が、彼女が待ってるんだ……
アンズ:待ちなさい、タカヒロッ!
ーー
アパート、事故物件の部屋
タカヒロ:なあ、みんなひどいんだ。君のことを悪鬼かなにかと誤解している。君は優しくてすてきな人なのに
赤い人:タカヒロは、周りの人に愛されているのよ
タカヒロ:君との仲を引き裂こうとしてくるやつらだ、そんなのに愛されてもな……
赤い人:けれど、あなたは心配されている。あなたは想われている。ないがしろにしてはダメ
タカヒロ:優しいね、でも俺は君が好きなんだ、君と引き離されたくないんだ
赤い人:…………わたし、タカヒロとはいられない
タカヒロ:また、それか。大丈夫だよ、俺と君はずっと一緒だ
タカヒロ:(彼女は俺の体を気遣っている。食べても食べても、痩せていく体。眠れなくて目の下にはクマが貼りついている)
タカヒロ:(生者と死者が共に時を過ごすのは難しいらしい。世の理は生者と死者が交わることをひどく拒んでいるようだ)
赤い人:…………タカヒロ、わたしは遠くへ行く
タカヒロ:そんなこと聞きたくない!
赤い人:わたしもタカヒロが好きよ、わたしのこと、覚えていてね
タカヒロ:嫌だ、行くな……世の理が俺達の関係を許さないのなら、俺がッ……俺が死者になればいいだけじゃないか
赤い人:……ダメよ、生きてタカヒロ
タカヒロ:好きだ! 君が好きなんだ! んっ
タカヒロから赤い人にキス
赤い人:タカ……ヒロ……
ーー
アパートに向かう道
後輩:はい、もしもし。ああ、アンズ先輩。どうしたんですか? ええ、引っ越しましたよ、今ちょうど大学からの帰りでアパートに向かってるとこです
後輩:大学から近くて格安だったんで、即決しました。えっ、たかぴろさんも昔ここに住んでたんですか!?
後輩:嬉しー! アタシ、たかぴろさんのリスナーだったんですよ、最近は活動してないみたいですけど、なにされてるんですかね?
後輩:えっ、幽霊が出るんですか。あー、そういえば、たかぴろさんも活動停止する前にそんなこと話してたような
後輩:だーいじょうぶですよ! ああいうのって、思い込みからくる幻覚ですから。幽霊を信じる人には幽霊が見えて、信じない人には見えないんです、そういうもんです
後輩:あはははは、心配しすぎですよ。だって、こっちに越してきてから、その赤い人って一度も見たこと……あ……、アンズ先輩から話を聞いてたせいですかね……共用廊下のとこに赤い人が見えちゃいました……
後輩:なんだかキレイな人ですよ。いや、女の人じゃないです、赤い……男の人です
終わり