佐渡市地域おこし協力隊の採用が決まった、4年前の私へ
▼予測不能な道を選ぶ刺激
「全然想像できないから、マレーシアに行く」
高校卒業後、進学のために渡ったマレーシアで暮らしたのは2016年から2020年の4月だから、約4年と少しをあちらで過ごしたことになる。
それまでは新潟市の実家と学校を往復する生活だったので、初めての一人暮らしも、インターンも、お酒の失敗も、異国で初めて経験した。
進路指導部や担任には、学びたいことを苦手な英語で教えてもらうなんてお得(?)という理由で強引に押し通したけれど、県内・県外・国立・私立・学部…と、あまりにも多い選択肢から逃げたかったというのもある。
数ある選択肢から "選ぶ" よりも、 "新しい選択肢をつくる" ことの方が好きな、ある意味ひねくれものなのかもしれない。
マレーシアの学校を無事卒業し、インターン先のひとつだった現地の日系ゴルフ関連会社がイベント部門を立ち上げるということで就職を決めた矢先、パンデミックが発生。
「そのうち戻れるか」と、スーツケースには当時日本で不足していたマスクの差し入れをパンパンにして、パソコンすらも置いて帰国した。(その後、引っ越し手続きがとんでもなく大変なことになった。)
マレーシアは大好きだけど、外国人として海外で一生過ごす覚悟はまだ無かった私は、フリーもフリー、超フリーのフリーターとして新潟の地に舞い戻った。たいした社会人経験も無く、もっている資格といえば漢検準2級くらい。親からしたらせっかく海外まで出した我が子がまさか無職の24歳になるなんて思ってもいなかったことだろう。
昨今の多忙な社会の中では、時間の制限無く自由に動ける人材というのは案外、重宝されるようだった。
学生アルバイトがテスト期間に休みがちのTV局の空き勤務日に全部入ってみたり、校内の消毒作業が追加業務として負担となっている小学校で働いてみたり。地域のイベントでは入る人がいないということで恐竜になったりもした。
それなりに充実していたフリーター生活は、「プレイヤーとして動き続けていたい」という気持ちを色濃くしてくれたと思う。
▼フリーター、佐渡と出会う
帰国後から休み無しで動き続けたクタクタのフリーターは、リフレッシュを求めて佐渡を訪れる。
当時はまだ「3密」や「マンボー(まん延防止等重点措置)」などの制限があった時期だったため、「海は渡るけど佐渡も新潟県内だしな」というひねりの無い一休さんのような理由で佐渡を選んだのだ。
「家族で蟹とか食べたっけ。あと金山とか?」
正直、新潟県内の島にたいした期待はしていなかったけれど、帰る頃にはすっかり佐渡ファンの私。出会う人々からは力強さを感じ、この人たちのような大人になりたい、自分も仲間になりたいと感じた。
また、海の青さをはじめとする自然の豊かさにも圧倒された。「どんな辛いことがあってもこの自然を見ることができれば平気」という気持ちが佐渡移住という気持ちの後押しになった。
さて、佐渡で暮らすと決めた私の周りには、たくさんの佐渡が集まってきた。一度意識してみると、新潟市内にも「佐渡産〇〇」「佐渡関連グッズ」「佐渡イベント」などがそこかしこに存在していて、実は自身や家族が佐渡出身だという人も身近に少なくなかった。
そうしてどんどん数珠つなぎで繋がった縁は、最終的に新潟県燕市の元地域おこし協力隊員に繋がった。
「佐渡も地域おこし協力隊制度あると思うよ。」
聞いたことのない名前に、想像のできない働き方。佐渡市の応募内容を見ると、暮らすならここが良いと思っていた佐渡の玄関口、両津エリアの募集を見つけた。
縁もゆかりも無い場所の文化や人のことを知りながら、自分のことも知ってもらえる期間が3年もあるなんて、移住者にとってはうってつけの制度ではないか。こうして私は2021年4月、単身佐渡へと渡った。
▼きっかけの種を蒔き続ける
2024年4月、佐渡市地域おこし協力隊 みなとオアシス佐渡両津推進担当としての3年間の任期を満了した。
私が希望した両津港周辺地域は、新潟港から出港した船が到着する佐渡の玄関口で、100万人観光と呼ばれる時代には島内随一の繁華街として賑わっていたそうだ。夜の街を旅館の下駄がカランコロンと鳴る音がまた聞きたいと話す人も多い。
今では、相川金山や小木のたらい舟を目的に来た旅行客のレンタカーを借りるだけの場所になってしまっている両津だけれど、ここの住民として暮らしていきたいと直感的に感じた。
ちなみに新潟県民が思っているほど佐渡は暮らしに不便するようなところではないので、もし記憶が小学生の修学旅行で止まっていたらぜひ、大人旅で一度来てほしい。
担当である「みなとオアシス」とは、「みなと」を核としたまちづくりを促進するため、住民参加による地域振興の取り組みが継続的に行われる施設として国土交通省によって登録されるもので、現在全国で165か所が認定されている。
県内であれば新潟港や聖籠、岩船港も登録されている、実は全国的な取組みである。(みなとオアシス専任の協力隊は全国でも佐渡だけらしい…。)
佐渡では「あいぽーと佐渡」「おんでこドーム」「佐渡汽船ターミナル」の3施設とその周辺が登録されていて、春は牡蠣祭り、夏はビアフェスタ、秋はSea級グルメ大会、冬はおんでこドームイルミネーションと、イベントが主な事業となっている。
主な仕事内容はこれらイベントの企画・準備・運営・司会進行と幅広く、私が着任した年はまだコロナ渦の影響が大きかったことと、内部の運営体制がガラっと変わったタイミングだったため、それはもうてんやわんやだった。
コロナ渦ということもあり、なかなか地域の集会の機会も無かったため、関係各所と滞りなくコミュニケーションを取って、スマートに開催まで運べるようになったのが2年目が経ったあたり。
3年間を振り返れば、もちろん新しい土地の新しい仕事にモヤモヤする日もあったけれど、「隊員さん」から「棚村さん」と名前を呼んでもらえるようになったり、司会の仕事ぶりが評価されて島内各地から司会の仕事をいただいたりと、蒔いてきた種が芽吹き、収穫が楽しいフェーズに入ってきた。着任前の目標のひとつであった自分を知ってもらえる期間として、協力隊制度をポジティブに活用できたと感じている。
▼#佐渡移住1年生
佐渡市の地域おこし協力隊として活動していて一番良い点は、協力隊OB・OGの約8割が退任後も佐渡に在住していることだ。
はじめましての挨拶でも、「協力隊の新しい人なのね」「この地区の前の協力隊の〇〇さんはもう会った?」と言ってくださる方がほとんどで、信頼貯金がゼロでは無いことが本当にありがたい。
OGであり、現在私も勤務する佐渡UIターンインフォメーションセンター代表の熊野さんが始めた「なりわい塾」も嬉しい取組みのひとつ。現役隊員はOBOG隊員やローカルビジネスに関わる外部講師から自身の経験談を聞くことで、悩みの解決方法や、退任後のリアルな佐渡暮らしを想像できる。
また、ちょうど同期になる隊員が多かったことも心強かった。地域おこし協力隊である私たちのもうひとつのハッシュタグはただの移住者で、仕事で悩んだ時や、「集合場所:旧〇〇の前」などに困惑している際、気軽に相談できる佐渡1年生の仲間がいることは心の支えになった。
東京23区の1.5倍の広さがある大きな佐渡。
最北端から最南端まで車で2時間半の島のあちこちに住む隊員は、それぞれの地域に住むキーパーソンや、歴史には残らない地域の自慢を紹介してくれた。特定の地域に多い名字の不思議や、普通に暮らしていたら知るよしもなかった小さな看板の秘密。
少しずつでも、関係無さそうなことでも、知識を得ることで島の解析度がどんどん上がり、愛着も湧いてくる。これは協力隊でしか体験できない魅力のひとつだ。
▼佐渡市地域おこし協力隊の採用が決まった、4年前の私へ
春の山菜や旬の海藻で季節を感じ、行き帰りの船内や近所のスーパーでは喋りかけられ、カメラロールには佐渡でできた友人との写真が増えた。片側一車線の道路で対向から来る顔馴染みと手を振り合う楽しさや、佐渡から人を見送る時の悲しさを知るなんて、4年前には想像もしていなかった。
今では「ただいま」と言える場所になった佐渡は、人生を豊かに過ごすための秘訣をまだまだ隠し持っているらしい。地域や人、お店などの情報が頭の中だけに納まるコンパクトな佐渡が大好きだ。
「どこに住んでいる〇〇さんは、地域でこんな役割を担っている」という、人と人との繋がりが暮らしの中でしっかりと見えていることに安心を覚える。また、北前船の影響か、自身の意思さえあればその地域の枠組みにサラっと入れてくれることも嬉しい。
田舎暮らしのこういった付き合いが苦手だと言う人もいるけれど、会社以外で自分の居場所を自分でつくっていくことは未来の自分を助けることに繋がるし、もし隊員として過ごすのであれば、絶対に落としてはいけない必修科目だ。
地域おこし協力隊という制度は、難しい。
着任地や年度によってもカラーがガラリと変わることもあるし、旅んもん(外から佐渡に移住してきた人のこと)に対してどうせ住み続けないんだからと突き放されることもある。
任期中の3年間に何をして、何ができていなかったのかはっきりする制度。それでも私が佐渡で地域おこし協力隊という選択肢を選んで正解だったことは、退任後の今の暮らしが証明してくれている。
12月からみなとオアシス佐渡両津担当として、新しい隊員が着任するらしい。次は彼が蒔いた種に水を与え、地域の住民として協働し、「おかえり」と迎えられるような人になりたい。
▼にいがた地域おこし協力隊 合同説明会開催!
新潟県の地域おこし協力隊に関心のある方、新潟移住に関心のある方、新潟県内の地域おこし協力隊の最新情報が手に入るオンラインイベントが開催されます!是非とも、この機会にご参加ください!