母お手製の弁当を母が食べて、手前味噌をぶち上げる話。

 毎日弁当を作る。高2と中3の、二人の息子のために。
 そりゃさぞかし大変だろう、と思ってくださる優しい方よ、ありがとうございます。二人とも文化系で小柄、たいして食べないのでOLさん仕様のランチジャーなので大丈夫です…。
 ランチジャーの構造は、太い水筒のような魔法瓶容器の中に下からスープの容器、ご飯の容器、そしててっぺんにおかずの容器と「だるま落とし」のように容器がタテに重なって、最下層のスープの熱によって程よく全体が温められ、ぬくぬくのお弁当が食べられる仕組みである。冬など、彼らが蓋を開けると湯気が上がるそうで、「なんだよお前!ほっかほかじゃねーか!」と羨望の眼差しを浴びるそうだ。うっかりカレーなど入れると、匂いも遠慮なしに立ち上るそうだ。エスニックにハマった長男のためにココナッツミルクとナンプラーの入ったタイ風チキンスープを入れた日は、教室内に恐慌を巻き起こしたらしい。
 ハイスクールララバイな高校生は、屋外にベンチが並べてあり、あちこちに自販機が設置され、時々有名おにぎり屋さんとかドーナッツ屋さんとかが販売に来たりと優雅なランチタイムを過ごせる環境にいる。しかし中学生の方は弁当の時間がわずか15分、委員会の仕事が入るともっと短くなる日もあるそうで、「パパッと食べられる少量弁当」であるようにといつも言われている。男子のランチをこれ以上減らせるか!

 さて、いつも通り二つの弁当を用意したところ、起きてきた次男の調子が思わしくなく、「オレ、食べられそうにねーわ。ゼリー食う」ということになり、弁当が一食分、宙に浮いてしまった。

 どうしよう。捨てるわけにはいかない。
 わたしが、食べるのか。

 とにかくお腹の足しになれば、いいじゃない。毎日のルーチンワークと化したお弁当作りは、最近そんな気持ちで作っていた。だから、それをわたしが食べねばならないとなると、ちょっと狼狽える。まずわたしには量が多い。そして男子好みの肉弁当である。アラフィフにはハイカロリー。
 かつて、弁当初心者だった頃に、中学生だった長男に言われたことがある。
「彩りなんかどうでもいい!茶色の弁当が正義!だって茶色は肉の色、魚の色」
なんという力強さだ。学校の先生が泡を吹いて倒れそうな内容だけど!
 というわけで、わたしの弁当は茶弁である。かろうじて、黄色のだし巻きに、ネギを一緒に巻き込んだのが彩り担当として頑張っている。

 仕事を終えて、弁当を開いた。
 スープの容器には、昨夜多めに作っておいた具沢山の味噌汁。まだ熱い。
 おかず容器には、真ん中に水菜を巻き込んだ、牛肉ロール。グリルでじっくり火を通し、仕上げにポン酢をさっとかけたやつ。斜めにカットしたので、水菜の緑がいい色だ(やっぱり彩り大事じゃん!)。そしてだし巻き卵。卵の黄色って、いいなあ(やっぱり以下略)。
 そして、踏み固めたか、と思うほどぎゅうぎゅう詰められた、ごはん。
 …意外に美味しそう、空腹は最大の調味料って言うけど、本当だね!と箸をとり、まず牛肉ロールをパクリ。一口サイズに切っておいてよかった。結構噛みごたえがある。牛肉は特売のオージービーフだし、おばあちゃんの畑で育った水菜の繊維がたくましい。しかし噛むほどに、美味しさが溢れる。あら、意外にいいおかずだったわね。ちょっと目を見開く思い。だって、お買い得の肉を見つけるたびに、ネギだの、ニラだの、いんげんだの、アスパラだの、にんじんごぼうだの、何でも巻き巻きまきこんで弁当に入れてきたからさ。「またかよー」って陰で笑われてないかなあと気後れをしていたのですよ。肉の脂を相殺して、ポン酢の爽やかな事よ。初夏の陽気によく似合う。そして、ご飯に合う〜!
 コホン。失礼しました。
 黄色く存在を主張する、だし巻き卵。前の晩に落ち着いて2日分をまとめて作成し、切り分けてラップして冷蔵しておいたのを、朝チン!としたやつ。色は美味しそうだけど、作り置きのチンだからなあ。パクリ。
 出汁の香り。ちょっと醤油の塩気。味醂でこっそり足した甘味。ネギの香味。やだ美味しい。しかもふわふわしてる(手前味噌でごめんなさい)。
 前の晩のお味噌汁だって、味噌の味と香りがうまく具に馴染んで、十分美味しい。新玉ねぎと、キャベツと、お揚げと、豆腐と、ニラがぎゅうぎゅう入ってて、具沢山。大満足。

 20分ほどで綺麗さっぱり食べ終えて(多いから半分だけと思ったのに!)、呆然とした。アタシの作った弁当、美味しいやん…
 毎日夕方、「今日も美味かった!」と言ってくれる長男を、内心マタマタァ、と思っていたことも、「〇〇が特によかった(ニヤリ)」とスキマに詰めた冷凍食品ばかり褒める次男にソリャソウダヨ、とやさぐれていたことも、全部謝りたい。二人とも美味しく食べてくれてたんだね…
 
 長男の夏補修の時間割が発表になって、今年から毎日6時間の授業があるそうである。「おかーさん、弁当がいるわ…夏休みまで弁当作るの、大変だよな、オレ学食行く」のお申し出だったが、謹んでお作り申し上げるよ。せめて母作の弁当でほっとしてもらいたいもん。小さかった子供たちも中高生。あと何食、キミらに弁当を作れるんだろう。「おかーさんの弁当、美味かった」と思ってもらえるんだろう。キャラ弁とか、レシピ本にあるようなおしゃれなおかずとか、海苔でメッセージを書くとか、凝ったことはできない。でもわたしの味は、わたしだけが出せる味でもある。胸を張ろう。あと、わたしの幼い日に弁当を作ってくれた母に、改めて感謝を。



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