創造プロセスの陰陽:MakeとLet
「優れた作品は、作り出すというより、生まれるものだ」
こうした言葉を耳にしたことはないだろうか。
私自身も昔からそう感じ、そう発言していた。19歳の頃、ディベート競技に打ち込んでいた私は、「優れた議論は生み出すものではなく、生まれるものだ」と考えていた。自分が完全にコントロールしているのではなく、議論する場所から自ずと湧き上がり、形を成していく体験だった。
後にこの感覚が文法用語で言う中動態と似ていることを知った。
中動態は、能動態でも受動態でもない、行為が主体から発せられながら、その影響が主体にも向かう状態を表す。創造プロセスにおいても、何かを「する(能動)」だけでもなく、ただ「される(受動)」だけでもない、中間的な感覚がしばしば現れる。
しかし今はもっと単純に考えている。MakeとLetである。
創造の二つの力:MakeとLet
創造の中で体験する能動と受動の間を行き来する感覚は、MakeとLetという言葉で説明できる。
Make(作り出す力)
主体的で積極的なエネルギー。「これを創る」と意図し、行動を起こし、物事を推進する力だ。目標を設定し、それに向かって一歩ずつ進む段階がこれに当たる。
Let(委ねる力)
受容的で自然の流れに身を任せる力。何かが生まれようとするプロセスに干渉せず、その流れを受け入れる。つまり、創造が自律的に進む瞬間を尊重し、それを許す姿勢だ。
創造プロセスでは、この二つの力が絶妙に絡み合っている。一方が欠けると、創造は形を成さない。Makeだけでは力みすぎて空回りし、Letだけでは流されるだけで終わる。
MakeとLetのバランス:火を起こすように創造する
このバランスを理解するには、火を起こすプロセスを思い浮かべるとわかりやすい。
最初は、火種を丁寧に作り出し、小さな炎を育てる(Make)。しかし、一度火が燃え広がり始めると、それは自律的に燃え続ける。無理に手を加えると逆に火を弱めてしまう。この段階では、炎が自然に成長するのを見守り、その流れを邪魔しない(Let)。
創造プロセスの中でのMakeとLet
この「Make」と「Let」は、どんな創造プロセスにも見られる。以下に具体例を挙げてみよう:
1. 文章を書く場合
最初に「これを書こう」と意図し、筆を進める(Make)。しかし、書き始めるうちに言葉が自然に流れ出し、文章が自分を導いていくように感じる瞬間がある(Let)。
2. ビジネスプロジェクトの場合
キックオフの段階では、明確な戦略や目標を設定し、計画を積極的に進める(Make)。だが、プロジェクトが進むと、チームや市場の動きが自律的な力を持ち始める。この流れに逆らわず、それを活用する(Let)。
3. 芸術作品を創る場合
最初は明確なコンセプトを持って作り始める(Make)。しかし、作業が進むにつれ、作品そのものが独自の形を取り始め、想定外の方向に進むことがある。これを受け入れ、作品が「生まれる」瞬間を許す(Let)。
MakeとLetの切り替えを意識する
創造の真髄は、MakeとLetが交互に作用するプロセスにある。この二つを切り替えるためのポイントを挙げてみる:
1. 最初の一歩をMakeで始める
明確な意図を持ち、まずは行動を起こすこと。ゴールが完全に見えていなくても、行動そのものが流れを生む。
2. Letのタイミングを見極める
プロセスが自律的に動き出す瞬間を見逃さない。その流れに逆らわず、自然に進ませる。
3. 振り返りで次のMakeを見つける
プロセスを振り返ることで、次にどこで主体的に動くべきかを再確認する。
創造の陰陽を活かす
創造は「Makeがすべて」でも「Letがすべて」でもない。その両方が補い合いながら、プロセスを推進していく。能動的に動く力と、流れに身を任せる力。そのバランスの中に創造の本質がある。
重要なのは、どちらか一方だけに頼らず、状況に応じて適切に切り替えることだ。自分で何かを生み出していると同時に、それが自然に形を成していく。この陰と陽が共存するプロセスが創造の豊かさを生むのだ。