3つ障害福祉サービス(就労移行・生活訓練・就労定着)の歴史と役割
新人スタッフ向けにアイワークスの行っている3つ障害福祉サービス(就労移行・生活訓練・就労定着)の歴史を振り返ってみました。
1. 就労移行支援
1-1. 成り立ちの背景
就労移行は、2006年にスタートしました。
2005年に成立した「障害者自立支援法」は、部分施行を経て2006年4月に本格的に施行されました。
法律名にある「自立支援」というキーワードが示すとおり、障害支援の中心が「福祉」から「社会参加・就労(自立)」へと大きく動いたことが特徴でした。
こうした流れの中で、就労前の訓練や職場探しを支援する仕組みが生まれました。
その中で障害福祉サービスが再編され、「就労移行支援」や「就労継続支援(A型・B型)」が正式に制度化されました。
その障害者自立支援法を改正して2013年に障害者総合支援法が成立しました。
正式名称「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(障害者総合支援法)では、就労移行支援は障害のある方が一般就労をめざすための訓練や支援を行うサービスとして位置づけられています。
1-2. 果たすべき役割
就労準備とスキル習得のサポート
ビジネスマナーやパソコン操作、コミュニケーション能力、履歴書の書き方など、就職に必要なスキルを身につけるための訓練を行います。
また、実習や職場見学を通じて、就労への自信を高める機会を提供します。
職場探し・就職活動の支援
利用者の障害特性や希望職種、能力に合わせた職場を一緒に探し、面接対策や企業とのマッチングを行います。
企業側にも障害理解や合理的配慮を働きかけることで、利用者と企業の橋渡しをする役割を担っています。
就職後のフォローアップ(初期)
就職してすぐの不安やトラブルを相談できる窓口として機能し、短期的な定着支援を行います。
その後の長期的な定着支援については後述する「就労定着支援」が担当するため、就労移行支援事業所では就職後6か月間の定着サポートにとどまります。
1-3. 就労移行支援事業所の推移
就労移行支援は2006年にスタートして以来、障害のある方の就労準備を支えるサービスとして右肩上がりで事業所数を増やしてきました。2017年には3,400を越え、2018年には過去最高の3,500を超える事業所ができました。しかし、2019年以降は3,300~3,400程度でやや減少や停滞が見られます。
要因の一つとして、短期間で事業所が急増した結果、過当競争が生じ、経営の継続が難しくなった事業所が一部閉鎖に至った可能性が考えられます。
しかし、3,000事業所を安定的に超える規模が維持されていることから、就労移行支援が社会的に根強いニーズを持っていることが伺えます。
2. 生活訓練(自立訓練)
2-1. 成り立ちの背景
生活訓練も就労移行支援と同じく、2006年に施行された障害者自立支援法において「自立訓練(機能訓練・生活訓練)」が新たな障害福祉サービスとしてスタートしました。
生活訓練は正式名称は「自立訓練(生活訓練)」と表記があるように、生活訓練には2種類のサービスがあります。
どちらのサービスも「障害者が自立した生活」を目指すための訓練という目的は変わりませんが、機能訓練が「身体機能」を維持・向上させて、自立した生活を目指す。のに対して生活訓練は「生活能力」を維持・向上させて、自立した生活を目指す。という違いがあります。
アイワークスが行っている自立訓練は生活訓練の方です。
生活訓練は、身体面・精神面・知的面など、さまざまな障害特性に応じて地域や在宅で自立した生活ができるよう、「生活能力向上」を重視するサービスとして位置づけられています。
地域生活支援・在宅支援の重要性
地域社会で暮らし続けるためには、日常生活のさまざまなスキルや健康管理、コミュニケーション能力などが必要です。
そこで生活訓練が重視され、障害のある方が自分らしく地域で生活できるよう、サポート体制を強化してきました。
生活面でのサポートが制度化されたことで、日常生活や健康管理などの幅広いスキルを学べる環境が整っています。
2-2. 果たすべき役割
日常生活能力の向上
生活訓練では、食事・家事・金銭管理・健康管理・公共交通機関の利用など、日常生活を安定して送るための基本的なスキルを習得し、向上させる訓練を行います。
グループワークや個別訓練を通じて、利用者それぞれのペースに合わせた生活の基盤づくりをサポートします。
社会参加の促進
地域のイベントや買い物など、社会とつながりながら過ごす方法を実践的に学びます。
コミュニケーション訓練や対人スキルアップを取り入れ、社会的な自立をめざします。
安定した生活リズムの確立
規則正しい生活習慣やストレスマネジメント方法を学び、心身の健康維持をサポートします。
生活リズムが整うことで、将来的に就労をめざす際にもスムーズに移行しやすくなります。
2-3. 生活訓練事業所の推移
自立訓練(生活訓練)も、就労移行支援と同じく2006年にスタートして以降事業所は増え続けました。
生活スキルや社会参加の基礎的な力を身につけるためのステップとして、根強い需要があるサービスです。2015年には1,300を超える数になり、以降は若干の増減を繰り返し、ゆるやかな増加傾向が続いています。
2021年には1,490を越え、2022年には1,580を越えました、2023年には1,630事業所にまで拡大しています。
年ごとの伸び幅は大きくありませんが、着実に利用者ニーズに応えるかたちで増加していることが読み取れます。
3. 就労定着支援
3-1. 成り立ちの背景
2018年(平成30年)施行:障害者総合支援法の改正
2013年に施行された「障害者総合支援法」の改正により、2018年4月から「就労定着支援」が本格的にスタートしました。
「就労移行支援」等の障害福祉サービスを通じて就職した利用者が長く働き続けられるよう、就労後のアフターサポートを強化するために創設されたサービスです。
障害者雇用促進法による企業の法定雇用率の引き上げなどで障害者雇用は進みましたが、就職後の定着を支える施策が不足していたことが長年の課題でした。
そこで、離職を防止し、長期就労を実現するための継続支援が必要になり、就労定着支援が生まれたのです。
3-2. 果たすべき役割
長期就労を支える継続的サポート
就職した利用者に対して定期的に面談や職場訪問を行い、業務上や人間関係での課題を早期に把握して解決へ導きます。
メンタルヘルスケアや体調管理なども含め、利用者が安心して働き続けられるよう支援します。
企業との連携・調整
利用者が働きやすい職場環境を整えるため、企業側へ障害特性の理解や業務調整、合理的配慮のアドバイスを行います。
人事担当者や上司との連携をはかり、三者協力で定着率を高める取り組みを進めます。
キャリア形成支援
利用者が職場に慣れた後も、スキルアップやキャリアアップをめざせるようサポートします。
職場での評価制度や仕事の負担調整などを一緒に考え、目標をもって働き続けられる環境づくりをお手伝いします。
3-3. 定着支援事業所の推移
2018年にスタートした就労定着支援は、開始当初は約300事業所ほどでしたが、2019年には1,200を超える勢いで急増し、以降も年々拡大を続けて2023年には1,800を越えるにまで達しています。
短期間で約6倍に増加しており、就職後のフォローアップや安定就労の支援への需要が高まっていることがうかがえます。
4. 各サービスの連携イメージ
生活訓練(自立訓練)
└─> 生活基盤・日常スキルを整える
└─> 就労移行支援
└─> 就労に必要な知識・スキル獲得、職場探し
└─> 就職
└─> 就労定着支援
└─> 長期的な勤務継続をサポート
生活訓練で日常生活に必要な基礎スキルや生活リズムを整えます。
就労移行支援で就労に必要なスキルや企業とのマッチングサポートを受け、一般就労をめざします。
就労定着支援では、就職後も安心して働き続けられるようフォローアップや企業との連携を行います。
6. 参考情報
障害者総合支援法(厚生労働省)
各種障害福祉サービスの概要や最新動向を知るうえで役立ちます就業支援ハンドブック
就労支援サービスの利用手順や支援機関との連携、助成制度などを具体的に解説しています独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)
企業向けの障害者雇用事例やガイドラインが公開されていて、就労定着支援の参考になります
7. おわりに
就労移行支援・生活訓練・就労定着支援の3つのサービスは、障害のある方が自分らしく地域で暮らし、働き続けるために大切なステップをそれぞれサポートしていきます。
アイワークスだけでなく、他の事業所の新人スタッフさんが、これらのサービスの背景や役割、そして連携のしかたをしっかり理解していただき、利用者さんが安心して社会参加できるよう支援していただければうれしいです。