企業はUXデザイナーに何を期待するのか
UIデザイナーの先にはUXデザイナーがあり、UXデザイナーはUIデザイナーの上位互換、という認識を持った組織は多いのかもしれない。UXの解釈は組織によって異なり、期待値もそれぞれであるため、何が正しいというのも無いのだろう。
先にわたしの思うUXの定義を挙げておくと、直訳のとおりユーザーの体験そのものである。ここで重要なのは、それは主観的なものであるという点だ。つまり、UXは直接デザインできない。ただ、そこにあるだけである。
あなたのサービスは、あなたにとっては重要でも、ユーザーにとっては人生のほんのささやかな要素でしかない。皆、それぞれの人生を過ごしているのだ。よって、意地の悪い言い方をすれば「UXをデザインする」なんて、人を操るようなニュアンスであり、おこがましいことだ。
もしできることがあるのだとすれば、ユーザーとあなたのサービスとのささやかな接点を、頑張って良くしていくことだ。つまり、UXそのものはデザインできなくても、UXのためにデザインする(Design for UX)ことは可能である。
それは、必ずしも製品そのものとは限らない。サービスを認知し、忘却するまでの全ての接点が対象となる。よって、あなたが製品の専門家だったとしても、ユーザーがあなたのサービスを知るきっかけが、チラシや展示会、紹介など多岐に渡ったとすれば、その全てが関心範囲となる。これだけでも、いかに範囲が広大か分かる。
ここで冒頭の、UXの解釈やUXデザイナーへの期待値に話を戻すと、UXデザイナーがUIデザイナーの上位互換であるという定義は、かつてのSIやゼネコンの下請け文化を思い起こさせる。つまり、手を動かす仕事は下請けにやらせるもので、元請のSEは設計書を作ったり、工程管理をするのが仕事であるというものだ。だからこそ、わたしは無意識にネガティブになったのかもしれない。
SIの文脈でUXデザイナーを見ると、そもそも仕事の構造として開発のプロセスに閉じているため、要件定義や基本設計をよりUXの方向から行う人、というロールとしての期待値がありそうな印象だ。もちろん、これは勝手な想像である。
先ほど述べたUXの定義に照らし合わせて、もしサービスとの接点を全て設計、または改善するのが期待値なのだとすれば、事業部長、または役員クラスのミッションといって過言ではない。それは確かに、高給取りであって然るべきだ。その場合、もはやUIデザイナーの上位互換という、職種としての定義ではない。管掌と責任範囲を鑑みれば、それはそうだろうという話でしかないだろう。
とはいえ、多くの会社ではそのような温度感ではないような印象を持っており、世の中のUXデザイナーを擁する、または採用しようとしている会社は、どのような期待値を持っているのだろうか。非常に興味深い。