ノックノックス 幸せの標本

2022/4/23 15:00 赤坂レッドシアター

コロナ禍とあって、なかなか足を運ぶことができなかった、お久しぶりの演劇鑑賞。 映画「EveryDay」で印象深い演技だった、藤谷みきさんが出演されるということもあり、観劇決定。

twitter等でタイムラインに流れてきていた言葉や、本物の木や花をふんだんに使った舞台の画像や、生演奏という情報で、始まる前から興味津々。

当日引換券のチケットを席チケットに交換して、ワクワクして、開演時間まで待機!

開場時間になったところで、ビルの地下に降りていよいよ会場へ。

生花と木や土が舞台に広がる!

舞台の隅々まで、木々や花や土といった「生」な演出に、テンションも上がります。


  • 静かな音楽の生演奏で、ゆっくりと始まる

静かな優しい音楽の生演奏と歌が流れ、ゆっくりと物語は始まる。
舞台に下ろされたスクリーンに映し出される「幻燈」の美しい色に心を奪われつつ、スクリーンの奥にゆらめく影が、どうにも気になり始める!

スクリーンの奥に何か棒状のものが、右左に…??

暗闇に目がなじんでくるにつれて、スクリーンの後ろに、音楽チーム4名がいることに気が付く。

うっすらと見えてくる4人の音楽隊

え?? 一番右!! サワサワサーの音源の出どころに気づく。

長い筒状のパイプ?の中に入ったモノが上に下にいくことで、サワサワサーと音が鳴っていることが、だんだんわかってきた。

結構長めの竿状のモノがスクリーン奥で右左に動く~

もう目を奪われ過ぎる!! 効果音の楽しさ! もうワクワクが止まりません。

効果音なんて、普段意識せずとも、自然に入ってくるものなので普段は気にしないのに、その音の舞台裏が見えることで、「生の舞台でこうして、生の効果音が入ってる!テンション上がる~~!」と、もう既に楽しい気分に♪♪

家に帰ってすぐ絵に描きたい!と思うぐらい、序盤で一気に心わしづかみ!

ついついこんな「gif動画」を作るぐらい、心を奪われております。

帰って来て藤谷さんのtweetから 大表史明さん @fumiakioomote というアーティストさんで、海洋ゴミで楽器を作るという、とても面白いこともされているパーカッショニストさんであることが判明。今回の舞台では、スクリーンの奥で、沢山の面白そうな楽器を演奏されていたようで、ぜひ詳しく見てみたくなりました。

大表史明さん(ゴミンゾク)

舞台の全体的な感想

最後に全体像が伝わるという構造なので、当然【ネタバレ厳禁】だし、パンフレットでは、どんな話しになるのかがわからないようになっていて、最初から頭を使って、出てくる人が「ナニ」の役なのか、「ナニ」を話しているのか? ドコにこの話が向かっていくのか?を、見ている観客が慎重に頭の中で組み立てて、主体的に考えながら見なければならないので、大表さんの動きばかり見ているワケにはいかず(残念!)

物語は、実力・演技ともに充実している感がビンビン伝わる、伴美奈子さんと藤谷みきさんの軽妙なやり取りで、一気に推進力を増してスタート。
「ただならぬ状況にいる」2人なんだということが徐々に分かってくる。

それがどこなのか、そして藤谷さんは「誰(ナニ?)」なのかが、少しずつヒントとともに示されていき、また船長とあだ名される男性や(池田努さん~メチャ舞台映えする良い声!)、また名前のない(後で判明する)女性(藤田奈那さん)や、生意気そうに登場する男性(本間健太さん)が、どのような存在であるか、どんな関係性にあるのかが、言葉のひとつひとつから、ゆっくりと紐解かれていく構造になっている。

ハチに始まり、ハチに終わる

物語は、約100分? 大きな光と希望を示唆して終幕を迎えます。

たとえそれが、ついさっきまで舞台を笑顔に包んでいた、あれほど豊かな会話が失われた世界で(それが「本来の姿や当たり前」であったとしても)決して戻れない旅路の果てであったとしても、そこに確かに光があり、バトンを渡された「新しい生命」が確かに息づき始めたという余韻が、観客をつつみこみ、ラストを迎えます。

藤谷さんと伴さんの名演に、涙を奪われた観客が、会場を後にする際には、あたたかな気持ちと、明日への希望、また目の前に広がる【今にも壊れてしまいそうな地球や生態系の円環】に優しい目を配ることができるようになる、大変素晴らしい舞台でありました。

興味をもって調べてみると、「幸せの標本」は、何度も再演されながら、舞台として練り上げられたものということで、今回の舞台はまた次につながる舞台になっていくことでしょう。
(ただ、幻燈のインク(ホルベイン製)や、OHP!(懐かしい!)の電球など、なかなか手に入らないようで、twitterでもそうしたことが投稿されていました! 手に入るといいね~)

満足度高い「生きた舞台」

普段は映画ばかり見ている「演劇ボンヤリ層」の自分なので、映画とついつい比較してしまうのだけれど、目の前に繰り広げられる、2度と同じものは観られないという、その場限りの「1回だけの物語」の貴重さに、演劇の良さというモノを感じました。

同じ舞台であっても、2度と同じ色や動きにならない「幻燈」、舞台のセリフに合わせて始まったり終わったりする「音楽や効果音」、毎日呼吸している「生きた花や木」の様子、そしてもちろん俳優たちがやりとりする呼吸やテンポや、セリフの声の大きさや抑揚といったものが、すべてそこにしかなかったもの=大切な一瞬 となり、それがこの「幸せの標本」という物語につながり、すべてが大きな環の中で動き出すような瞬間がありました。

そういう意味で、今回の観劇が忘れられない体験となりました。

また違う場所のどこかで、もしかしたら、また違う環境や、俳優の皆さんによる「幸せの標本」を観るチャンスがあるかもしれない。そしてそこでまたバッタリとその場だけの物語として体感したいものだなぁと思いました。(終)