「アイホールの件」について

松本謙一郎さん呼びかけの「アイホール作戦会議」に出席してきました。

出席して思ったのは:
僕自身を含め、アイホールに「愛着」を持っている人は全国に多く、だから存続を望む声も多く耳にするわけですが、実際この話が「どういう議論」なのかを、正確に把握している人は実は少ないのではないか、ということでした。

上記の会議に出席し、「実はどういう話なのか」ということについて、僕が理解した範囲で、以下、解説を試みたいと思います。

多くの人は毎日新聞でそれを知った

まず、この件について知っている人は、おそらくこの「毎日新聞」の記事(およびその紹介)を読んで知った方が多いかと思います。僕も読みました。

この記事はとても良い記事だと思うのですが、客観的に書かれている分、演劇人にとって何が重要かというポイントが、やや見つけにくい面があると思いました。一読して、「アイホールが危機にある」「存続したいと思う演劇人が多くいる」ということまではしっかりと伝わるので、「じゃあ署名で協力しよう」と考えた人も多いと思います。それはもちろん理解としては何も誤っていません。しかし、この話のキモは、「どういう経緯で」、演劇ホールとしてのアイホールが失われそうになっているか、という点であり、それをこれから以下で説明しようとしています。

予備知識

まず、アイホールが作られた時期について。アイホールがいつ作られたかというと、今から30年以上前、1988年です。この1988年という時代がどういう時代だったかというと、「バブルのほぼ頂点」にあたります。その後、アイホールは1995年の震災に耐え、照明・音響・空調などの設備や、可動床・吊物などの機構の改修工事を何度も重ねており、そろそろ、全体的に大規模な改修を考えなければならない時期を迎えつつあります。

もう一つ押さえていただきたいのはアイホールの所有者についてです。アイホールは「伊丹市」の所有施設です。つまり、ちょっと雑な言い方をすると、アイホールは伊丹市民のものであり、維持管理等にかかる費用は伊丹市民の負担となる、ということになります。

*「雑な言い方」としたのは、実際には国からの助成金等も運営の財源として使われているため。

次に、予備知識として押さえておきたいのは「サウンディング型市場調査」という言葉です。この言葉、僕は聞いたこと無かったですし、ネットで調べても意味がよくわからないのですが、今回伊丹市が実施したサウンディング調査の「実施要項」を実際に見てみると、なんとなくその実態が見えてきます。それは何かというと、「調査」という名前だが、実質的には「募集」であるということです。

で、ちょっと紛らわしいのですが、アイホールに関するサウンディング調査は、2回行われています。1回目は今年の2月の国(国交省)の調査、2回目が現在(6月から)進行中の伊丹市の調査です。2回の調査(募集)の中身は、おそらくほぼ同じです。

ではその2回の「サウンディング」で実質的に何を募集しているかというと、「アイホールの、より採算の取れる使い方」を募集しているのです。採算が取れるにはどういう「使い方」があるか、民間事業者に対して「調査」(実質的な募集)をしているわけです。

一つの提案

そして、1回目(国交省)の調査に対して、ある事業者(非公開)が下記の内容を提案しました。

アイホールの演劇ホール部分をクライミング施設にし、全体を複合スポーツ施設へリニューアル。有料施設として10年運用し、伊丹市はその間の賃料を得る、という使い方。

つまり実質的に、「うちに丸ごと賃貸してくれればスポーツ施設に改装して営業し、家賃も払います」と言っているも同然の提案です。これが、この話の核心です。

その背景には、伊丹市の財政事情があります。伊丹市には、アイホールのような市所有の施設がたくさんあるのですが、多くが成長期~バブル期に建てられており、全施設を現在の使用目的のまま維持する予算は無い、という実情があります。中でも、3つあるホール(いたみホール、アイフォニックホール、アイホール)の全てを、現在の形のまま運用し続けるのは大きな負担であり、市民の理解も得られにくい、というのが市側の言い分としてあるのだろうと思われます。

だからと言って、伊丹市も、上記の「スポーツ施設」にする案に単純に飛びついたわけではありません。市としても、本当にアイホールをスポーツ施設にする方向で進めてよいか、もう一度「調査」するのが筋だろうということで、今回(6月~)の「サウンディング調査」を行っているわけです。(←イマココ)

さて、ここまでの流れを見ると、一見、市としてもむやみに演劇ホールを失くさないように正当な手続きを踏んでいるように見えますが、実はこの「サウンディング調査」というのがクセモノです。

今回の市のサウンディングの「実施要項」をよく見ると、

サウンディングの「前提条件や基本的な考え方」の中に、「独立採算を原則」という項目が入っています。

また、サウンディングが対象としているのは、「実際に事業を実施する主体となり得る法人」と書かれています。

つまり、名目上は「調査」と言いつつ実質的に「独立採算で運用できる事業者を募集」しているのは明らかなわけです。

しかし、財政的なことだけを理由に、アイホールから演劇ホールの機能を奪ってしまって本当に良いのか、というのが、「アイホールの存続を望む会」の問題提起です。

演劇では採算は取れない、そんなことは、みんな「百も承知」なわけです。文化や芸術について「採算」を言い出したら何も出来ません。だからこそ、文化施設や芸術活動には公的な支援が不可欠であるわけだし、その配分をどの程度にするべきかが常に議論の対象となるわけです。

もし仮に、採算面だけを理由に、アイホール(演劇専用ホール)の使用目的が変更されるようなことが実現してしまえば、それを「前例」として、全国の公共の演劇施設も同じようにバタバタと使用目的が変更されてしまう恐れがあるのではないか、というのが、「望む会」代表の小原さんの言わんとすることであろうと思います。

以上を踏まえて、もう一度、「毎日新聞」の同じ記事を読んでみていただけないでしょうか。きっと、最初に読んだ時と違う印象を持たれるのではないかと思います。

アイホールを存続させるには、伊丹市を動かす必要があります。全国から圧倒的な数の声が集まれば、きっと力になるはずです。ぜひ下記の署名をご検討ください。

参考資料:
高橋あこ(伊丹市議)さんのFacebook投稿
https://www.facebook.com/akoak.takahashi1/posts/1018079978953966
伊丹市施設マネジメント課
https://www.city.itami.lg.jp/SOSIKI/SOGOSEISAKU/SISETU_MANA/index.html
伊丹市「演劇ホールを活用した事業提案に関するサウンディング型市場調査」
https://www.city.itami.lg.jp/SOSIKI/SOGOSEISAKU/SISETU_MANA/23869.html
伊丹市「公共施設のあり方に関する市民アンケート調査」
https://www.city.itami.lg.jp/SOSIKI/SOGOSEISAKU/SISETU_MANA/1387457770816.html

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