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妄想餃子の餡 001『ロマンティック空間』

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 凍てつく寒空の下、キラキラと輝くイルミネーション。非の打ち所がないロマンティックさである。しかし、このロマンティック空間に中年独身男が一人で飛び込む際にはやはり多少の勇気がいる。
 人一倍自意識過剰な気質を持ち合わせてしまったばっかりに一体どんな表情をするのが正解なのか全くわからない。無表情を貫くべきか、「うわぁ」みたいな表情をするべきか。無表情の場合、「なんなのあの人、怖い」「雰囲気に合わないんですけど」「何しに来たんですか」「帰れよ」などの声が聞こえてきそうだし、「うわぁ」みたいな表情の場合は「かわいそうだね」「怖い」「あっち見ちゃダメ」「帰れよ」などの声が聞こえてきそうである。どちらにせよ居心地は良くなさそうだ。
 しかし、時はコロナ禍。ガッチリマスクである。これに加え、帽子を目深に被ってしまえば、鉄壁の顔面守備体制がごく自然に完成されるのだ。ただし、帽子は目深に被れば被るほど不審さを際立たせる効果があるので気をつけなければならない。そこの微調整さえ間違わなければ、威風堂々とこのロマンティク空間に飛び込むことができる。僕はスマホのインカメラを利用し、帽子の微調整を済ませ、ロマンティック空間に飛び込んだ。
 そこには様々な形のイルミネーションがキラキラと輝いていた。どれもこれもロマンティックである。ハートの形をしたイルミネーションをバックにカップルや女子同士が写真をパシャリと自撮りしたりしている。日中の電球剥き出しの状態であれば見向きもされない場所だが、夜になってしまえば、ロマンティックが止まらない、いわゆるC-C-B状態である。もはやこの空間であれば何の形であろうとロマンティックになってしまうのではないだろうか。

「うわぁ。綺麗」
「本当だな。あ、向こうを見てごらんよ。ハートの形をしているよ」
「素敵ぃ。あそこで写真撮ろうよぉ」
「それは名案だ。撮ろう」
パシャリ。
「見てぇ〜。いい写真が撮れたぁ」
「本当だな。あ、向こうを見てごらん。お城の形をしているよ」
「素敵ぃ」
パシャリ。
「見てぇ〜。またいい写真が撮れたぁ」
「本当だな。あ、今度はあっちを見てごらん。大きなおちんちんの形をしているよ」
「素敵ぃ」
パシャリ。
「見てぇ〜。またまたいい写真が撮れたぁ」
「本当だな」

 いつか僕もカップルでパシャリといきたいものである。

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