活動記録 003 『北』
岩手に住み着き始めて11年。その前は東京に6年。その前は神奈川県秦野市に4年。その前は山形県に18年。そして、その前。僕には数週間の札幌時代がある。
母親の里帰り出産によって、僕は札幌市の病院で生まれた。つまり、僕は山形出身の父と北海道出身の母から生まれたハーフなのである。かっこいいのである。そして11年前、そんな山形と北海道のちょうどハーフ地点である岩手県に落ち着いたのだ。どうりで岩手がしっくり来るはずである。もしかしたら、岩手に住み着いたのは必然だったのかもしれない。ちなみに、僕の兄は岩手県久慈市出身の人間と結婚している。やはり、何かしっくり来るものがあるのかもしれない。
そんなわけで、幼少期は毎年北海道に行っていた。夏休みとは北海道に行くためのものだと思っていた。北海道といえば一大観光地である。どこを切り取っても絵になる場所だ。僕も様々な場所に連れて行ってもらった。
しかし、当時の僕にとって北海道は、祖父母なのである。北海道に行く意識などなく、祖父母のところに行くという意識だった。空港に迎えにきた祖父母に「祖父母〜!」と言って駆け寄るところがピークなのである。要するに、あれだけ北海道に行っていたのに僕は北海道をあまり知らない。
そんな北海道に今回、観光で、じゃなくって、仕事で来させていただいた。40歳以下の若手シェフ日本一を決める『CHEF1グランプリ』という大会の北海道・東北予選が、札幌市の『札幌ベルエポック製菓調理ウェディング専門学校』内で開催されるということで、岩手県代表シェフの応援という形で来させていただいたのだ。
岩手県の代表は二人。『日本料理 新茶家』の和賀靖公氏と『割烹 惣門』の鈴木秀哉氏である。どちらにも頑張ってほしい。
さて、北海道である。非常に申し訳ないが、どうしても「さて」であり、「北海道である」なのである。もちろん、応援するために来たし、本気で優勝を狙って欲しい。ただ、CHEF1グランプリはまだ始まったばかり。ここからである。故にまたの機会にまとめて書くとする。
仙台空港から新千歳空港に到着したのが午後6時過ぎ。そこからバスに乗って札幌市内に到着したのが午後8時頃である。「さぁ、張り切ってすすきの行きますか!」となるところだが、残念ながらマンボウである。いくらネットで調べても載っているお店は時短営業ばかりである。クソッタレ。いったい僕たちは何しに札幌に来たんだと半ば諦めムードの中、一筋の光が差す。数年前に岩手の放送局で働いていたM氏という女性が今札幌の放送局にいるというのだ。僕たちは、急転直下寿司屋の個室をゲットしたのだ。
どれも最高に美味であったが、中でも圧巻だったのがこの『にしんの刺身』である。もちろん海産物は我らが三陸産だって全く引けを取らない。しかし、お初にお目にかかるものはやはり強い。初めて食すにしんの刺身。通常、にしんといえば煮物か焼きである。火を通さないにしんはお初だ。確かに北海道といえばにしんである。にしんを運ぶために馬が必要となり、南部馬が北の大地に渡り、活躍したのだ。南部馬は絶滅したが、北海道の在来馬『道産子』のルーツは南部馬であり、現在も脈々と南部馬の血が流れている。つまり、このにしんは岩手と大きな関わりがあるのである。そんな歴史ロマンを感じながら、感謝を込めてパクつかせていただいた。
程よい弾力。脂の甘み。そして、人を狂わせる旨味。抜群である。北海道といえばにしんと先述したが、実際はカニであったり、うに、いくらなどだろう。しかし、これなのである。派手さには欠けるが、これが北海道なのだという道産子のアイデンティティをぶつけられた気分だ。
今回の旅行、じゃなくって、仕事でまたさらに北海道の魅力を発見してしまった。しかも、今回は札幌に2連泊。M氏のおかげで札幌を満喫させていただいた。もちろん、仕事だ。仕事以外の何物でもない。ただ、先程新千歳空港のトイレで放った我が尿からはジンギスカンの香りがしっかりと漂った。実に嬉しい香りである。