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【読書ノート】9割の社会問題はビジネスで解決できる

読書の秋、まだまだ楽しんでおります。海外に住んでいると、心の癒しである日本の本屋さんに行くことがままならず、どんな本が人気なのかもネット上ではイマイチ伝わってきません。そんな私が参考にする場所といえば、noteの読書の秋課題図書!今回のPHP研究所出版「9割の社会問題はビジネスで解決できる」も課題図書としてあがっていなかったら知ることのない本だったので、この企画に大感謝です。というのも、これは多くの私たちが社会のあり方と自分の役割について考えるきっかけになる「目覚めの本」だと思うから。

著者の田口さんは株式会社ボーダレス・ジャパン代表取締役社長。大学生のときに栄養失調で苦しむ子供たちの映像を見て、ソーシャルビジネスの発展こそがライフワークだと心に決めます。ここまではよくある話ですが、すごいのが田口さんの行動力。アメリカに留学したり、3年限定で働くと商社の面接で豪語したり(そして実際合格し、2年で学び尽くして辞める)、起業して次々と新しい事業を展開し、とフルスピード。その事業内容もそうだけど、事業スタイルも独自のもので、それを形にするのは行動力はもちろん、世の中を俯瞰して見ることができる類まれなるスキルをお持ちなのだと思います。

独自の事業スタイルのひとつが「恩送りの仕組み」です。グループ会社の余剰利益を共通のポケットに入れ、その共通資金でグループ会社の起業を手助けします。そしてその起業が黒字化すれば、恩を送る側に回るというわけ。「財布を同じ」にすれば、赤の他人同士でも身内のような関係を築くことができるのではないか、という田口さんの発想です。

また「共同体経営」を重視していて、定期的な社長会で多くの決定事項の完全合意を目指し、さらには年に2度世界中の社長が集まる世界会議が行われます。全員が等しく1票を持ち、拒否権を持ち、全員賛成が原則。田口さんがワンマンボスとして機能しないように細心の注意を払います。たとえその仕組みによってスピード感が多少損なわれても、次世代のソーシャルビジネス経営者を育成する、ソーシャルビジネスの輪を広げる、という長い目で見れば、そのやり方は理に適っていると言います。田口さんは自分のエゴというものがなくて、常に世界に目を向けている方なんだろうな。

ソーシャルビジネスは普通のビジネスとは異なります。最大の違いは、起業する際の考える順番だそう。まずソーシャルコンセプト(解決したい社会問題)を固めてから、それをビジネスモデルに落とし込んでいきます。  

1.ソーシャルコンセプト
2.制約条件
3.ビジネスモデル 

本には実際のビジネスを例としてワークシートが含まれているので、起業を考えている方にはとても参考になると思います。

社会起業家は、「マーケットニーズがあるからここでやる、ないからやらない」ではなく、解決すべき社会問題があるところで起業します。そのうえで、利益が出るように工夫していく。彼らがつくっているのは、社会ソリューションであって、あくまでも「ビジネス」は手段にすぎない。 社会起業家は、ビジネスという手段を使った社会活動家なのです。

田口さんの言葉が心に響きます。社会を変えたい、という強い気持ちは持つだけでなく、実行に移す、というマントラとして覚えておきたいフレーズです。

ソーシャルビジネス起業における具体的なアドバイスが載っているのも、私がこの本をお勧めする理由です。哲学的なことが羅列している本はやる気につながりはしますが、「・・・で?」って話になりがち。

たとえば、社会的な課題を見つけたとして、その表面だけをみて対策を考えるのはモグラたたきのようなものだと田口さんはいいます。その課題が起こっている原因に対して対策を講じる必要があるのです。「原因と対策」とセットで考えます。

また被害を受けている人や貧困層をぼんやりと想定するのも危険です。どこの誰の話なのかを明確にしない限り、彼らが直面するリアルな課題や、その裏にある本質的な原因にはたどり着けないからです。概念で考えるのではなく、リアルな現場に行く、当事者に会いに行く。ボーダレス・ジャパンがバングラデシュやミャンマーで貧困にあえぐ人たちを救うビジネスを立ち上げるのに、現地取材は欠かせませんでした。

やっても仕方ないことも書いてあるのも、正直な田口さんぽくて好き。現地取材で聞いても有効な回答を得られないのが、ソリューション(解決策) に関することとあります。「何があれば助かりますか?」 と聞いて、具体的なソリューションを当事者にたずねてみても、答えはまず出てこないそう。 昔、iPhoneがまだなかった時代に、「どうすれば生活は便利になりますか?」と聞かれて、「画面をタッチするだけで操作でき、インターネットも使える携帯電話を持ち歩けたら便利です」と答える人がいなかったのと同じだ、と。確かに〜!

あと、起業を計画するワークシートを書く際は、 箇条書きではなく、文章で書くといいそうです。 箇条書きで書くと、いろいろな課題・いろいろな原因の列挙になりがちで、各要素の因果関係がよく分かりません。因果関係をはっきりさせるために、1〜2文の文章で書くことをルールにします。これは大賛成。箇条書きで書くと分かった気になって、でもストーリーにはできていないので、人を巻き込んでのビジネスにはしにくいのだと私は解釈しました。

それと少し関連しますが、頭がもげるほどうなずいて納得するのがこちら。

ソーシャルコンセプトをつくる時に必要なのが、「それって本当?」と常に疑う姿勢です。「一般的にはこうだと言われているけど、それって本当?」と疑って、自分の頭でちゃんと考えることです。

ソーシャルビジネスと少し離れますが、最近の報道を見てて、私も同じことを感じていました。ニュースを読んで「それってほんと?」「読者の感情をコントロールしようとしてない?」「この記事で一喜一憂するのは正しいこと?」「そもそもどうしてこの出版社はこの記事を書いているの?」そうやって自分の頭で考えることを放棄した結果が、歴史上の独裁者たちの到来ではないでしょうか。ぶつ切りで読むニュースに思考を左右されすぎてませんか?社会の全体像・道筋・ストーリーは把握できていますか?

この本にはボーダレスジャパングループのビジネスの例が載っています。たとえばエシカルファッションに特化したセレクトショップ。私もついつい安いからと買ってしまうファストファッションですが、その裏では、地球に大きな環境負荷をかけ、児童労働などの社会問題も大きく関わっているのです。綿畑に大量にまかれる散布剤は甚大な環境汚染を引き起こし、農家たちにも健康被害が生じているなんて普段考えることはありませんよね。でも盲目的に「これが一番安いから買う」という消費行動が社会問題を助長していることを知ることからスタートだ、と田口さんは言います。「エシカル消費」、つまり環境への負荷軽減や社会問題の解決につながる商品やサービスを購入することで、 消費者の立場から社会づくりをする消費活動は、起業せずとも私たちができることです。

田口さんはボーダレスジャパンの社長を近いうちに退くとおっしゃっています。というのもさらに大きなビジョンがあるから。

たとえば、新しい銀行の立ち上げ。自分が銀行に預けたお金が、自分が応援する企業に融資されてほしいですよね。 自分が預けたお金がいい社会をつくっていくビジネスにしか融資されない銀行をつくることで、投資家だけでなく、みんなが参加できる銀行にしたい、と。で、でかい。

さらには政治家の道も考えているようです。 お金や支持基盤がなくても、社会を良くするために活動したいという人が、個人リスクなく立候補し、当選できる仕組みが必要と訴えます。個人の利権や支持基盤だけにこだわらず、社会のことを本当によくしたいと考える政治家が増えてくれたら、日本にも明るい兆しが見えてくるはずです。

何もやらないよりはやったほうがいい。大きな問題が目の前にあるのに、困っている人がそこにいるのに、どうせ無理だ、理想論だと言う傍観者ではありたくない。

ぜひぜひ心に留めておきたい一言です。というのも、私も含め、課題に対する解決法を提示する人に対して、できない理由のみを述べる人たちが多すぎると思うから。そればかりか、たとえば募金をする芸能人を売名行為だと揶揄したりする人を時々見ますが、数ミリでも社会問題が解決に近づく行為を批判する声を聞くと、ガッカリします。「何もやらないよりはやったほうがいい」。私自身も忘れがちなこの言葉を胸に、社会における自分の役割を考えて生きていきたいと再確認させてもらいました。


#読書の秋2021 #9割の社会問題はビジネスで解決できる

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