映画ができるまで 〜アイデアの集め方1〜
記事を見ていただきありがとうございます。多持大輔と申します。普段はフリーランスとして映像制作をしています。
僕は今年の3月まで武蔵野美術大学大学院の映像コースに所属し、修了制作で初めて長編の映画「冬のほつれまで」を制作しました。
今回その映画制作の過程を残そうと思い、この記事を書いています。
また制作過程を紹介することで、これから自主映画制作をする人たちの参考に少しでもなればいいなと思っています。
皆さんの中で漠然と映画制作をしたいと考えている人がいるかもしれません。ですがなかなか形にするのは難しいと思います。脚本を書かなければいけない、お金がかかる、協力してくれるスタッフも沢山必要です。
僕はというと大学で映像制作を学んでいましたが、長編の映画制作をするまでには約6年かかりました(笑)
6年というと小学生が中学生になるほどの年月です。恐ろしい。。
僕はもともと強烈に映画を作りたいタイプではありませんでした。ですが美大にいると同級生のみんなが面白い映画を沢山作っています。
その状況を見ていくうちに、自己表現として映画を作れる人が羨ましい、僕も作ってみたいという気持ちが芽生えました。
ただ作りたい気持ちはあっても、映画を通して何を伝えたいのか、全然明確になっていませんでした。そのせいもあり6年もかかってしまったという訳です。
そこで今回は映画制作で一番最初に行うアイデアの集め方について、僕なりの方法を紹介していきたいと思います。
アイデア出しは料理でいうところの材料集めの工程に近いです。
スーパーに直接行って買うのもよし、広告を見て事前に買いたいものに目星をつけるのもよし、ネット通販もよし、地域の特産品を取り寄せるもよし、方法はいくらでもあります。
今回はあくまで、そんな数あるアイデアの集め方のうちの一つにすぎません。人によってやり方は違うと思いますので、参考程度に読んでいただけたら幸いです。
それでは早速いきましょう!
アイデアの集め方 日常の観察
僕のアイデアの集め方の方法は主に3つあります。
・日常の観察
・社会を知る
・全てを疑う
今回はこのうちの一つ目の方法として、日常の観察を紹介します。
自分自身のことや身の回りのことを普段からよく観察していると面白い発見があるものです。
僕はこの方法を使い、アイデアや思考がだんだんと整理できるようになりました。
1.きっかけ
実はこの【日常の観察】を実践するにあたり、参考にしたある方がいます。
映画監督であり、アーティストのアピチャッポン・ウィーラセタクンさんです。アピチャッポンさんはタイを拠点に映画やビデオ映像、写真を制作している方で、代表作に「ブンミおじさんの森」などがあります。
僕は光栄にも2018年の夏、森美術館のワークショップでアピチャッポンさんの映画制作の方法について教えていただく機会がありました。普段アーティストの話を直接聞く事なんて殆どないので、刺激的な体験でした。
この時は偶然このワークショップの記録撮影のお仕事で呼ばれていたので、本当にラッキーでした。
その中でも印象に残ったアピチャッポンさんの言葉があります。
「映画や美術作品を作ることは自分自身をよく知る行為だ。日々の生活に流されるということに対する抵抗であったり、自分が何をしたいのか本当に何がしたいのかというのをよく観察する行為なのではないか。」
この言葉を聞いた時ハッとさせられました。今まで描きたいと思っていたものは本当に伝えたいものではなく、表面的に面白そうだと思ったものではないかと。
何かを表現することは、自分の中にあるものを惜しげもなく出しきることで、もっと泥臭く本気で吐き出したいものでなければならないと、価値観がガラッと変わりました。
アピチャッポンさんのおかげで表現において最も大切なことに気づくことが出来ました。本当に感謝しかありません。
さらにアピチャッポンさんは、自分の内面と外面と向き合い、思考をクリアにすることで、自身の伝えたいキーワードを明確にしていくメディテーションという瞑想手法を紹介してくれました。
それ以来、僕も瞑想や観察を始めるようになりました。
2.観察のしかた
自分自身を知るためにはまず、普段の生活でどんなことを考えているのか解らなければなりません。
続いてどう日常を観察をしていくのか、ちょっと例を交えて説明していきます。
例えば、みなさんが平日の昼間にカフェに行ったとしましょう。そこで隣の席に座っている老父婦がいました。その老夫婦はコーヒーを飲みながら、片や新聞を読み、片やスマホをいじっています。会話は一切ありません。その様子を見てみなさんはどう思いますか?
この夫婦は仲が悪いのだろうか。それとも夫婦生活が長すぎて会話することがないのか。でも一緒にカフェには来ている。それはなぜだろう。惰性で一緒にいるだけなのか。阿吽の呼吸でカフェでコーヒーを飲みたいという意思疎通が図れているのか。じゃあカフェに来る前にどんな会話をしてここまで来たのだろうか。
・・・という感じであれこれ考えることができると思います。やっていることはほぼ妄想に近いです。でもそれで大丈夫です。それがアイデアのもとになるからです。
つまり普段の生活の中にある出来事や現象に注意を向けることで自分がどんな視点で世界を見ているのか、どんなことに興味を持っているのかが、だんだんと解ってきます。そうすることでアイデアが生まれてきますし、ある種アイデアの一貫性みたいなものが育まれていきます。
大切なのはどんなことでも面白がれる事ではないかと思います。
3.日記を書く
しかし人はどうしても忘れていくものです。その時に何か考え事をしていても、いつの間にか忘れてしまいます。これはもう仕方ないことです。
なので僕は、考えたことを忘れないためにも毎日日記を書くことから始めました。
日々の出来事を書いたり、
感情を揺さぶられたこと、
観察を通して考えたこと、
映画や本の感想など、
一冊の日記帳に全て書くとを決めました。
日記でどんなことを書いていたかというと、朝何時に起きたとか、晩ごはん食べた物とか、散歩中に見た水たまりが綺麗だったとか、街灯を見て誰かがこの光を作るために頑張ってるんだな〜とか、そんな些細なことばかりでした。大したことは書いてません。ですがそれが自分の見ている世界の視点なのだとだんだん気づいていきました。
初めは短い文章を書くだけでしたが、だんだん書きたいことが増えていき、多いときには1日に10ページ以上書くときもありました。それを約1年間続けていき、映画を作るときのアイデアの参考にしていきました。
では今回の映画の場合、日常のどんなことを観察してきたのか。
当時の僕は、というか今も続けてますが、植物の水やり、ギターを弾く、散歩をすることが習慣でした。また友達とご飯を食べることも多かったので、そこでの会話のやりとりなどもヒントにしながらアイデアを集めていました。
その中でも強烈に印象に残った出来事があります。それは植物の水やりをしているときの出来事でした。
いつもと変わらず植物を大学の階段踊り場に置いて日光浴をしていたある日。夕方、植物を回収しに行ったら植物の横に置き手紙があったのです。
一体なんだろうと思いその手紙を読みました。
そこには「ここに置かれている植物の様子がとても素敵だったので展示に組み入れたい」と書かれていました。
その後手紙を書いてくれた子と話をし、植物を作品の一部に使っていただくことになりました。
僕はこの小さな出来事にとても感動しました。普段何気なく続けていたことが、新しい人との出会いをもたらしてくれたのです。毎日こつこつ育てていた植物が認められたような気がしました。
このことがきっかけで、植物を通して人との出会いを描きたい、そんな映画を作りたいと思いました。
4.まとめ
このようにして僕は観察を通してアイデアを集め、映画になりそうな輪郭を探していきました。
作品が完成して思うのは、初めから素晴らしいアイデアなんて浮かばないということです。結局は長い時間をかけて自分自身を見つめ、何を伝えたいのか考えるしかないと思います。そう気づかせてくれたのはあのアピチャッポンさんの言葉でした。
次回はアイデアの集め方の【社会を知る】について書いていきます。お楽しみに!
p.s.
今回の記事に書いている、映画「冬のほつれまで」が武蔵野美術大学優秀作品展にて上映されます。
上映の詳細は以下の通りです。
令和元年度 武蔵野美術大学 卒業・修了制作 優秀作品展 【学内限定開催】
会期 2020年6月15日(月)-2020年7月3日(金)
時間 12:00~17:30 (月曜日〜金曜日)
休館日 土曜日・日曜日
入館料 無料
会場 武蔵野美術大学美術館 展示室1・2・3・4・5、アトリウム1・2
参加方法 本学の学生・教職員のみ
まずは武蔵美生限定公開です。また一般公開の期間が決まりましたら、ご報告いたします。
この記事を踏まえて見ると、また違った視点から映画を楽しめるのではないかと思います。是非ご覧ください!