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食べられたい、食べられなかったとすれば…
まずは、短編小説『ピュア』を読んでいただきたい。簡単に説明すると、人類は女性が肉体的にも強くなり、セックス後に男性を食べないと受精しないように進化した。
そのような世界観で繰り広げられる物語が美しい言葉で綴られている。生々しい「性・食・心理」の描写が魅力的な大人向けの小説。ぜひ一読を!!
さて、
食という行動が、性と結びつき
食べられる側に男がある
非常に面白い設定である!
男として、僕はどう思うかを書いていきたい。
ここでの結論は
愛する人に“なら”食べられたい
この世界観にいるとすれば、僕は食べられることを受け入れる。いやむしろ、食べられたいと思うだろう。この世界では快楽の絶頂にある中で、女性に食べられ死を迎えることこそが、男としての本能的な欲望になっていると思う。
それは、遺伝子を残す方法がそれ以外になく、死を受け入れなければ、命を繋ぐことはできないからで。
つまり、それを望まない男は淘汰されいなくなることになる。
できることなら「愛」のある死を望みたい
でも、『ピュア』の世界に現在の「愛」その概念が男性側に存在しているとは思えない。ユミとエイジのパターンでも女性側の視点である。
愛の形を知らなければ、何が愛かなんて分からない。つまり、この願望は現代に生きる僕だから願い思えることであり『ピュア』の世界では今のような愛なんて、望んでいないのかもしれない。
愛が残っていたとしよう
そう考えたとき、現代の「愛」は同等の立場や、ある一定の関係においてのみ成立するのかもしれない。力関係があまりに大きすぎると、その均衡は崩れ、支配するものとされるものの関係になる。これでは現代の一般的な「愛」とは呼べない。
もし、男性が女性に勝ると女性側が認識できるものがあれば、関係は変わるのかもしれない。しかし、『ピュア』にはそのような描写はなく、ユミがエイジに惹かれたのも、まずは彼の美しさにあった。
美しくなくては惹かれない。しかし、美しければ多くの女性に狙われ、死が近い運命にある。
そうすると、美しい男性が増えるとともに、ある一定の男性は美しく見えないように進化するのかもしれない。それは、遺伝子を残すことよりも社会を回すために必要な人材の確保の為で、その方が人類は繁栄しやすいだろう。
しかしながら、美しく生まれなかったとき、その時の絶望的なほど残酷につきつけられる自分の役割には耐えきれない。
ああ、この世界に「愛」は必要ないのかもしれない
であるのならば、いつ食べられるか分からない、その興奮を抱えながら、適齢期になるまでは自分の魅力を高めることが得策である。しかし、死が訪れず、自分に男性的な価値がないと悟ったときにどうするか。人類のために精進するしかないと腹をくり幸福の定義を自分の中でアップデートできるのだろうか…
それができなければ、自ら死を選ぶしかない。
食べるというとこ
なぜ、食べるのか。
なぜ食べるように設定したのか。小説の言葉を使えば、食という行動は自分の外側で行われている行為である。人間は管だ。口の中でさえ、人体の外側にある。食べ物を消化し、吸収してはじめて、自分の内側に入ってくる。食という行為が、食べ物を体の中に取り入れるための方法ではあるが、その行為自体が、内側に入れるものではない。
吸収こそが、体内に取り込むという行為になる。
さて、現在の生殖・セックス・性行為は男たちは女性の外側を行き来することで終始する。
しかし、『ピュア』の世界では、男を食べるということで男を女性の中に内在させる。単なる遺伝子のやり取りではなく、食という行動によって、生命としての原点のような美しさを秘めているような気がしてならない。それは、食べることによって、遺伝子的ではない肉体的なつながりが否応なしに生まれるからだ。
人を食べることによって、食という行為の本質が顕著に見えてくる。
食べたものが分子や有機的な構造にまで分解された後、自分の一部になるということを、意識せざるを得なくなる。
考えすぎかもしれないが「食という行為」について無意識に考えることのできる良い小説だ。
最後に
女性の立場というのは、いつの時代も男性より尊く、重要視されるべきものである。しかし、現在はそうではない。そんな社会の中で女性が肉体的にも立場的にも、圧倒的に強くなったときの世界観を描いた物語。
著者は肉体的に何かコンプレックスを持っているのかとも思った。
でもそれは、多くの人がそう感じているのかもしれない。
そろそろ、男性支配の幻想が溶けてしまう。
そう思ってならない。
興味を持った方は、4月16日に発売される新刊もどうぞ。
スピンオフの『エイジ』が読みたい!