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GOOD HOPS 日本産ホップの未来を切り拓く醸造所
国内随一のホップの生産地・岩手県遠野市で、日本産ホップの再興に取り組んでいる株式会社BrewGoodの田村です。
現在、遠野市で新しい醸造所「GOOD HOPS(グッドホップス)」の開業準備を進めています。免許取得のスケジュールにもよりますが、開業予定は2025年の春。今月末には醸造設備も到着する予定です。
前回の記事では、なぜ新しい醸造所を立ち上げるのかについて説明しましたが、今回は具体的にどのような醸造所を目指しているのかについてお伝えしたいと思います。
新醸造所GOOD HOPSの概要
まず、基本的な情報からご紹介します。新醸造所は、JR遠野駅から徒歩2分(遠野市新穀町5-13)の場所で開業します。
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右側の部分が醸造所・TAPROOM(左側は駐輪場)
試飲スペース(TAPROOM)を併設し、週末限定(現時点の計画では土日祝 11:00-18:00)で営業を予定しています。醸造所でつくられたばかりのビールを、その場で味わっていただける空間づくりも進めています。TAPROOMでは、若手ホップ農家が接客を担当する特別な日も設ける予定です。店舗デザインは、遠野醸造TAPROOMと同様に、MASTERDの増田さんに担当していただいています。
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設備は、メインとなる1,000Lの仕込み設備と、1,000Lの発酵タンク5基を設置します。加えて、新品種ホップの試験醸造や研究開発用、小規模委託醸造用として、38Lの小規模仕込み設備と25Lの発酵タンク3基も設置します。
醸造責任者は元キリンビールの研究者であり、世界的にも有名なホップ博士・村上敦司さんです。2024年より、株式会社BrewGoodの取締役に就任しました。
また、ホップ農家として活動する神山拓郎さんも醸造に参加します。さらに、もう1名アシスタントブルワーで参画していただくことが決定しています。
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村上敦司
株式会社BrewGood 取締役
キリンホールディングス 飲料未来研究所技術アドバイザー
1988年にキリンビール入社。ホップの品種改良に携わり「一番搾り とれたてホップ生ビール」などを開発する。2000年にホップの研究で農学博士号を取得し、2010年には世界で6人しかいないドイツホップ研究協会の技術アドバイザーに就任。2020年にキリンビールを退職。現在は、キリンホールディングス飲料未来研究所技術アドバイザー、株式会社BrewGood取締役として、引き続き日本産ホップの研究・振興に関わる。
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神山拓郎
株式会社BrewGood ホップ農家・醸造担当
2012年から9年掛けて日本全国の醸造所、生産者を訪ね歩き、2020年からは遠野市でビール醸造・ホップの栽培に従事。現在は醸造するホップ農家として、現場からビールの魅力を発信している。代表を務める遠野アグリサポートでは農業の課題解決、若手農家の誘致、持続可能なホップ栽培に向けた仕組みづくりに取り組む。
デザイナーのイソガイヒトヒサさんと共に、ブランドロゴも制作しました。ブランド名「GOOD HOPS」の下には「BREW & GROW」という文字を配置。これには、私たちがビールを醸造するだけでなく、ホップの栽培にも取り組むという想いを込めています。
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日本随一のホップ生産地である遠野市だからこそできる、栽培から醸造までを一貫して追求する醸造所。これまでにない、日本産ホップにこだわったビールづくりに挑戦します。
その挑戦を特徴づけるのが、以下の2つの取り組みです。
(1)自社でホップの新品種開発
ホップはビールの香りや苦味を左右する重要な原材料です。世界には300種類以上のホップが存在すると言われており、その香りや苦味などの個性は様々。新しい香りのホップが生まれると、ビールの可能性が広がります。
私たちは数年前から、ホップ博士・村上敦司さん(以下、村上博士)と新品種ホップの開発を進めています。
品種開発は、ホップ同士を交配し、種を取り、育てた苗の中から特徴的な個体を選抜していく地道な作業の繰り返し。これまでの取り組みの結果、現在3種類の新品種ホップを所有しています。
3つの品種は、【uncountable】・【compact Green】・【No Wind】と村上博士によって名付けられました。それぞれユニークな香りの特徴を持っています。商品をリリースする際には各ホップの特徴を詳しくご紹介する予定です。
ホップ農家として数年の経験を積んだ神山拓郎さんを中心に、他の先輩農家や村上博士からもアドバイスをもらいながら、品質の良いホップを安定して栽培できる体制を築いてきました。昨年からは畑も拡張し、栽培量を増やして、新醸造所で通年で使用できるように準備を進めています。
品種開発は今も継続して行っており、毎年新たな交配と選抜を続けています。昨年、選抜中のホップを確認した際、その中の一つから黄桃のような香りを感じました。まだ選抜段階ではありますが、このような予想もしなかった香りとの出会いが、私たちの開発意欲をさらに掻き立てます。
(2)特殊な加工によって生まれる「非加熱ルプリンパウダー」
私たちは、ホップの毬花からルプリンだけを非加熱で取り出す独自の加工技術を開発しました。ルプリンとは、ホップの毬花の内部にある黄色い粒のこと。ビールの香りや苦味のもととなる重要な部分です。
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一般的に、ホップは加工時に熱を加えることで香り成分の一部が失われたり、香りそのものが変化してしまいます。そこで私たちは、ホップが本来持っている香りをできる限り損なわないよう、ルプリンだけを非加熱で取り出すことにこだわりました。
日本産ホップの一般的な加工方法は、毬花を丸ごと乾燥させてペレット状にしたり、冷凍保存したりするのが主流です。海外では、ルプリンだけを分離した商品(原料)も存在していますが、日本産ホップではほとんど例がありません。
この加工技術は、自社開発の新品種だけでなく、私たちが栽培している海外品種「カスケード」などの7つ以上の品種にも適用します。それぞれの品種が持つ個性的な香りを最大限に引き出すことで、これまでにない味わいのビールづくりを目指したいと考えています。これまでの試験醸造(他社で実施)では、ホップの香りがクリアで分かりやすく表現できており、この技術が新品種開発以上のインパクトを持つ可能性を感じています。
さらに私たちは、海外産ホップへの応用も始めています。世界的に有名なホップ企業であるドイツのBarthHaas社の協力を得て、2024年収穫の「ヘルスブルッカー」「ハラタウミッテルフリュー」という2品種を特別に空輸で購入。ルプリンを取り出しやすいよう、ドイツでの加工方法やパッキングについても個別に依頼しました。
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これは、村上博士のドイツとのつながりがあって初めて実現できた取り組みです。なお、これらのホップはすでに乾燥工程を経ているため非加熱ではないルプリンパウダーとなりますが、特別な原料として活用していく予定です。
日本産ホップだからできることを追求して、新たな可能性を広げる
遠野市内の試験圃場で行っている新品種ホップの開発も、収穫後のホップから熱を加えずにルプリンだけを取り出す独自の加工技術も、生産地だからこそできる取り組みです。これらは、海外からホップを輸入するだけでは実現できない挑戦です。
日本産だから使う、地元産だから使うという考え方は大切にしながらも、さらにその先の「日本産ホップだからできること」を追求することが、日本産ホップの新たな価値を生み出し、持続可能な栽培に繋がっていくと私たちは考えています。
日本産ホップをなぜ守るのか?というのは、良い問いだと思います。生産者が、地域が、歴史が、ということだけでなく、日本産ホップだからできる事も考える必要がある。生ホップ以外でも。今、ホップ博士と研究している案件は、その答えの一つになると思っています。詳細はまだ言えないのですが。
— 田村淳一🍺遠野ホップ (@tam_jun) November 14, 2023
これらの挑戦は、「なぜ日本産ホップを守るのか?」という問いに対する力強いアンサーになるとも思っています。
ホップの栽培や研究を通じて、日本産ホップの可能性を広げること。それが私たちのミッションであり、他の醸造所ではあまり見られない特徴です。
ただし、新品種ホップや独自の加工技術を持っていても、それが飲み手に伝わらなかったり、支持されなかったりすれば意味がありません。私たちの目標は、自社のホップを活用して、「日本産ホップでこんなビールが作れるのか!」「日本産ホップって面白いよね!」と飲んだ人が驚くような美味しいビールをつくることです。その目標に向かって、村上博士を中心に議論を重ねています。
開業まで残り数ヶ月。まだまだやることは多くありますが、GOOD HOPSが、日本産ホップの未来を切り拓く醸造所となれるよう、着実に準備を進めていきます。引き続き、私たちの挑戦を応援していただけると嬉しいです。
【お知らせ①:求人情報】
現在、醸造所に併設するTAPROOMで勤務する販売スタッフを募集しています。以下のビアQのリンクをご確認ください。
TAPROOMでは、今回募集する販売スタッフに加えて、醸造担当者や若手ホップ農家が接客を担当する日も設ける予定です。イベントの企画・店舗運営を含め、お店を一緒に盛り上げていただけるスタッフを募集します。
また、今後はブルワーの追加採用(醸造経験者のみ)も計画しています。興味のある方は、ご連絡ください!開業したらぜひ遊びに来てください。
【お知らせ②:SNSアカウント】
SNSアカウントを作成しましたので、フォローしていただけると嬉しいです。今年は、醸造所の立ち上げの様子、商品の情報も積極的に発信していきたいと思います。
2月か3月にはクラウドファンディングに挑戦する計画もあります。応援していただけると嬉しいです!今後もよろしくお願いいたします。
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弊社BrewGoodのWEBサイトはリニューアルに向けて停止中のため、GOOD HOPSに関するお問い合わせはこちらからお願いいたします。
◎書いた人◎
田村淳一
株式会社BrewGood 代表取締役
株式会社遠野醸造 取締役
観光マネジメントボード遠野 副会長
遠野ホップ収穫祭実行委員長
岩手クラフトビールアソシエーション 幹事
2016年にリクルートを辞めて遠野に移住し、遠野醸造というマイクロブルワリーと、BrewGoodという会社を経営しています。BrewGoodでは遠野を拠点にホップとビールによる新しい産業づくりに挑戦中です。2025年春の開業を目指して、新醸造所「GOOD HOPS」の準備も進めています。
twitter : https://twitter.com/tam_jun
CONTACT:https://japanhopcountry.com/contact/