【2-7TD】2nd drawで1枚チェンジ同士のIPにおけるcall/pat戦略
こんにちは。たみると申します。
最近、こだまさん主催のMIXゲームの勉強会に入れていただき、様々なゲームの勉強を行っています。今まで座学は一人で行っていましたが、色々な意見を聞くことがいい刺激になっていると感じます。
先日の会で、YouTube上に上がっているPokerStarsの過去の2-7TDのトーナメント動画(全員のハンドがオープンされている)を観戦し、興味深いスポットを取り上げて戦略について考えてみるという機会がありました。 その中で、次のようなシチュエーションについて意見が分かれました。
ここに至るまでの状況は以下の通りです。
pre draw:
CO raise w/732xx
BB call
1st draw:
BB draw2, check/call
CO draw2, bet w/8732x
2nd draw:
BB draw1, bet
CO draw1, ??? w/87432
BBのリードベットに対して、皆さんならどのようなアクションを選択するでしょうか?「相手次第」と言うとそれまでですが、Unknownな相手と想定して何が得かを考えてみてください。
特に正解とかはないのですが、一応答え合わせです。
実際のトーナメントでは、COのプレイヤーはcall/patを選択しました。
BBはこのようなハンドを持っており、 3rdは
BB pat, check/fold w/98542
CO pat, bet w/87432
でCOがpotを獲得しました。
個人的な印象では、ここではレイズを選択するプレイヤーが多いように思います。単純に87432がそれなりに強いハンドであるためです。
私はこのIPのコールを利益的なプレーであると考えたのですが、レイズの方が良いのではないか?という意見も多くあり議論が起こりました。
その中で明確な結論は出なかったのですが、この記事では提示したシチュエーションにおいてコールとレイズどちらが利益的であるのかを考察し、類似したケースや他のファクターについても考えることでこのような状況下で一般に通用する戦略を見つけ出します。
メリット・デメリットの整理
まず、レイズをせずにコールを選択するメリットとデメリットをまとめてみます。
メリット
(1) 相手の86以上のドローを引く機会を失わせることができる
例えば今回OOPは98542を持っていたわけですが、もしIPがレイズしていればOOPはコールして9を切るのが普通だと思います。しかしながら、IPがコールした場合、IP側はまだドローする可能性が高いためOOPはほぼ確実に9ローでパットするでしょう。
このように、「OOP側が強いリドローを持っているが、同時にそこそこ強いパットハンドを持っている」場合、レイズしないことによってIPはEQを100%に確定させることができます。
(2) 相手が強いハンドを持っている場合の損失を抑えることができる
87432はNo.10で、8ロー14種のうち上から6番目ですので8ローとしては強い方、7ローも込みなら中の下ぐらいのハンドです。もちろん相手が何を引いたかの情報が無いのであれば十分強いのですが、OOPからリードベットしているという情報を踏まえるとそこまで自信を持てるハンドでもありません。
相手が87432より強いハンドを持っている場合は2ndでコールすると3rdもコールとしても2Big Betの損失で済むのに対し、2ndでレイズすると高確率で3betが返ってくるため、「2Big Betを捨てて勝ってるかもしれない相手にフォールドする」「3~4Big Betの損失を覚悟して大体負けてる相手にコールする」という最悪の二択を迫られることになります。
(3) call/patのレンジに強いハンドを残すことができる
今回のハンドのことは一旦忘れて、2ndで1枚-1枚の時にIPでT7653を持っていてOOPからリードベットを打たれたケースについて考えてみます。
相手のベットレンジが相当狭いという情報がない限り降りるほどのハンドではないですし、T7632のように相手にもし3betをされてもTを切る選択肢があるハンドならレイズはありですが、7653という弱い形でそれは難しいのでコールが普通だと思います。
コールすると、相手は1枚ドローしました。パットしますか?1枚ドローしますか?
この答えは明確で、T7653は1枚ドローに対してフェイバリットかつドローして強いアウツが2と8しかない(しかも8は引いても8ロー最弱である)ためパットすべきです。
このようにIPでは3rd drawでcall/patを選択したいシチュエーションは少なくないのですが、call/patするレンジに「レイズしてもよいが敢えてcall/patした」というハンドがない場合、レンジが強烈にキャップされます。
リミットゲームではレンジがキャップする罪はそこまで重くないにせよ、相手の9ローや強いTローはバリューベットを打ち放題になりますので望ましい状況ではないです。
しかしながら、87632のようなハンドがcall/patのラインに残っている場合、相手の9ローは将来的にバリューベットを打ちにくくなるでしょう。このように「こいつのcall/patは強い可能性もあるので微妙なハンドでバリューベットは打てない」と思わせる効果は長期間、しかもハンドを見た同卓者全員に影響を与えるため、瞬間的なメリットは小さくても長い目で見ると無視できないものであると思われます。
デメリット
(1) 相手が自分より弱いハンドを持っていた場合の利益が減る
リミットゲームはフェイバリットな状況でいかにポットを膨らませることかできるかが肝のゲームですので、これは唯一にして致命的なデメリットです。
メリットの項で87432はそこまで自信を持てるハンドではないと書きましたが、これより強いハンドは多くある一方でこれより弱いハンドもOOP側のベットレンジに多くあります。
このメリットとデメリットはどちらが大きいのでしょうか?
(3) call/patのレンジに強いハンドを残すことができる
というメリットは定数的な評価が難しいので、「OOPが87432より強いハンドを持っている確率とその場合の損失」「OOPが87432より弱いハンドを持っている確率とその場合の利益」の大小に焦点を当てて考察してみます。
OOPのベットレンジの推定
相手の2ndドローを引く前の形について考えると、7ドロー(7以下4枚)の組み合わせは15通り、8ドロー(8と7以下3枚)の組み合わせは20通りあります。
そのうち、7ドローは
・7654、6543がOESD
・7653/7643/7543/6542/6532/6432/5432(7通り)がGS
・それ以外(6通り)はSDなし
8ドローは
・8765がOESD
・8764/8754/8654(3通り)がGS
・それ以外(16通り)はSDなし
となります。
それぞれから分岐するローのコンボ数は、
7ロー:7ドロー(6543は0アウツ、6543以外のSDありは1アウツ*8、SDなしは2アウツ*6)から分岐、20コンボ
8ロー:7ドロー(7654は0アウツ、その他は1アウツ*14)と8ドロー(SDありは2アウツ*4、SDなしは3アウツ*16)から分岐、70コンボ
9ロー:7ドロー(1アウツ*15)と8ドロー(8765は0アウツ、その他は1アウツ*19)から分岐、34コンボ
Tロー:7ドロー(1アウツ*15)と8ドロー(1アウツ*20)から分岐、35コンボ
以上合計159コンボです。Tローより弱いハンドは通常OOPからパットすることはないのでパットハンドとして見なしません。
なお、それぞれのローにおいて形ごとのコンボ数は全て等しいです。例えば8ローは14種70コンボありますが、BBは8以下3枚を全て参加していると考えているため各々の形となる確率は同様に確からしく、85432も87653も全て70/14=5コンボ存在します。仮にBBの参加レンジを狭める場合、形ごとのコンボ数はやや異なることになります。
次に相手のベットレンジとして次の3つのレンジを仮定します。それぞれのベットレンジにおいて、87432を基準として強さの分布を考えます。
仮定1:全てのハンドを同じ頻度でベットする(均一レンジ)
仮定2:97ロー以上の全てのハンドを同じ頻度でベットする(タイトレンジ)
仮定3:相手は7ロー~86ローと98~Tローを全てベットし、他はベットしない(ポラーレンジ)
EVの計算
仮定1(均一レンジ)
「Tロー以上のハンド全てを100%頻度でベットする」も「Tロー以上のハンドを思いつきで(=一定頻度で)ベットする」もベットレンジにおけるハンド分布としては同じになりますので、考えやすい100%頻度として考えます。相手のベットレンジのコンボ数分布は以下の通りです。
ベットする159コンボのうち、87432より強いハンドの割合は45/159=28%となりました。割合としてはほぼ勝っていると言えます。
そして相手のハンド別に、まずレイズした場合のEVを考えてみます。以下Big Betと書くのが面倒なのでBBと書きます。
※ 以下別に読まなくてもいい計算過程が続くので、読み飛ばしたい方は☆から★までスルーしてください
☆
7ロー:3betされると考えられます。2ndはコールして3rdのベットに対して87432は降りるので-3BBです。
8ロー(87432より強い):3betされる場合は3rdで降りて-3BB、されない場合は3rdチェックアラウンドで-2BBです。
87432:お互い降りることも8を切ることもないのでチョップとなり+3.25/2=+1.63BBです。
※2ndベッティングラウンド前のpotは1*2+0.25(SB)+0.5*2=3.25BB
8ロー(87432より弱い):3betされる場合3rdはチェックアラウンドで+3.25+3=+6.25BB、3betされない場合もチェックアラウンドで+3.25+2=+5.25BBです。
9ロー:OOPはコールして9を切るのが普通ですので、ドローして87432より強いハンドを引ける確率について考えます。
87432はNo.10なのでこれより強いハンドは9通り存在します。各ハンドに対してアウツは5通り存在する(例えば75432であれば7543、7542、7532、7432、5432から引くことができる)ので、アウツは合計45通りです。またチョップの87432を引くアウツを各0.5通りとして追加すると47.5通りとなります。
先ほど数えたように7ドロー、8ドローは35通りありますので、アウツの種類の平均は各ドローあたり47.5/35=1.36、引ける確率は1.36*4/(52-7)=12%です。87432より強いハンドを引かれた場合、3rdでOOPのリードベットを打たれたとしても87432は降りるので-2BB、引かれなかった場合は+5.25BBで、加重平均は+5.25*0.88-2*0.12=+4.38BBとなります。
Tロー:9ローと同じですので、+4.38BBです。
★
これを表にすると、次の通りとなります。
続いて、コールした場合のEVを考えてみます。
☆
7ロー:お互いパット、3rdも87432は降りるには強すぎるのでコールして-2BBです。
8ロー(87432より強い):7ローと同じですので-2BBです。
87432:お互い降りることも8を切ることもないのでチョップとなり±0です。
8ロー(87432より弱い):お互いパットで、OOPが継続して打つかは微妙ですがIPのベットに対して8ローで降りることは考えにくく、いずれにせよ+5.25BBです。
9ロー:お互いパットで、IPのベットに対して98ロー(19通り)や97ロー(10通り)は降りるのが普通ですが96ロー(4通り)や95ロー(1通り)はコールでしょう。コールされた場合は+5.25BB、されなかった場合は+4.25BBで加重平均は+4.4BBです。
Tロー:お互いパットで、IPのベットに対しては全て降りるので+4.25BBです。
★
こちらも表にすると次の通りです。
レイズした場合のEVは+2.42~+2.68BB、コールした場合のEVは+2.68BBとなりました。
こちらに都合良く考えてようやくレイズEVがコールEVが追いつくので、コールの方が利益的であるように見えます。さらに、レイズの場合には
・OOPに3betされた後の3rdのベットに対してIPの87432は降りるとしているが、実際降りられるかどうかは際どい(コールする場合IPの損失が増える)
・OOPは9ローやTローを全てコールして1枚ドローするとしているが、T8752のように87ドローの場合はレイズに降りる可能性がある(IPの利益が減る)
と想定よりもIP側に不利になる可能性が高く、このケースではコールの方が得なのではないかと思います。
仮定2(タイトレンジ)
仮定1から弱いTローと98ローが完全に抜け落ちたレンジです。EVは仮定1よりも下がることが予想されますが、どのように変化するでしょうか?
レイズした場合のEVは+0.94~+1.19BB、コールした場合のEVは+1.22BBとコールEVが完全にレイズEVを上回りました。パットレンジの下限に近いハンドをベットしない、ベットレンジが狭い相手に対してはレイズは悪手であることが分かります。
仮定3(ポラーレンジ)
仮定1と2ではリニアなレンジを想定しましたが、ある程度強いハンドをチェックレイズのために残したポラーなレンジでベットしているケースも考えてみましょう。87ローと97以上の9ローをチェックし、その他をベットしていると仮定します。
この場合のEVは次のようになります。
レイズした場合のEVは+0.64~0.80BB、コールした場合のEVは+0.90BBとコールEVがレイズEVを上回っており、これも仮定2と同様コールすべきであると言えます。
発展的な考察
上記の検討では複数の仮定をもとに計算しましたが、その仮定を様々に変えたときに結果はどのように変わるのかについても考えてみましょう。
OOP側のプリドローのレンジがタイトな場合
・BBが1st drawで2枚ドローするハンドは8以下3枚全てであると仮定
と仮定しましたが、876のような極端に弱いハンドを降りている場合はどうなるでしょうか?
この場合、87432のバリューターゲットとなる876ローのようなハンドのコンボ数が減り、7ローや86ローのコンボ数は変わらないことになります。仮定1と仮定2の検討によって弱いレンジが抜けた場合はコールの方がEVが高くなることが分かりましたので、BBが弱い3枚をフォールドしていると考える場合は判断をコール寄りにする必要があるでしょう。
ブロッカーの影響
2-7TDのブロッカーで一般に重視されるのはローカードを何枚ブロックしているかですが、この状況で考えるべきは「87432のバリューターゲットとなるTロー〜87ローが多いかどうか」「3betされるハンドが多いかどうか」です。
前者で考慮するブロッカーはTと9で、後者で考慮するブロッカーは86543以外の86以上のハンド全てに含まれる2となります。今回は8以下3枚全てを参加と仮定していますが、実際はプリドローのハンドに2が含まれていることが多いことも考えると、最重要のブロッカーはプリドローのハンドに含まれないTと9となります。
同じ87432でも、
77322→87322→87432
この場合は相手に3betされる7ローや86ローの可能性が低く、逆にTローや9ローの可能性が高いため判断はレイズ寄りになりますし、
99732→T8732→87432
このようにTロー9ローをブロックしてしまうハンドはコール寄りになります。
OOP側が2nd drawで9を残す場合
一般に2nd drawでは9を残すべきではないとされていますが、もしOOP側が9を残す場合はどうなるでしょうか?
詳しい計算仮定は割愛しますが、2nd draw後のOOPのパットハンド(Tロー以下)に占める各ハンドの割合は以下のようになります。
当然ですが9ローの割合が大幅に高まり、9ロー以下のハンドが半分以上を占めるようになります。こういった相手に対しては単純に87432がレイズして損するハンドが減り、レイズして得するハンドが増えるので素直にレイズした方がいいでしょう。
もちろん2nd drawで9を残すのが普通であるシチュエーションは存在するのですが、対戦相手が明らかにパットのタイミングが早い傾向にあるなど9を残しすぎていると読んだ場合は、エクスプロイトとして通常call/patを選ぶハンドであっても積極的にレイズすべきであると言えます。
IP側のハンドがより強いorより弱い場合
IP側のハンドが87432と強さが異なる場合も考えてみます。全ての仮定レンジについて見ると冗長になるので、仮定1のEVのみを比較します。
弱い場合(No.14: 87632)
87432と異なり相手の3betや3rdダブルバレルにはフォールドが普通かと思いますので、レイズした場合の損失は最大-2BB、コールした場合は最大-1BBとしています。また相手が1枚チェンジした際のアウツも87432より増えますので、その場合のEVも修正しています。
両者のEVを比較すると、レイズEVとコールEVの間に0.4BBもの乖離が生じました。Tローが全部打ってくるとしても、8ロー下位のハンドはレイズすべきではないようです。
強い場合(No.6: 86432)
レイズEVがほぼ完全にコールEVを上回りました。このぐらい強いと明らかにレイズした方が得と言えます。
バブルファクターの考慮
バブルファクターの影響がある場合は得られるチップの価値<失うチップの価値ですので、chipEVが同じ選択であっても$EVで考えると分散の小さい選択が有益となります。
ここで冒頭の画像を再掲します。
コールを選んだ場合、これ以降の最大損失は2BBですので3BB残すことができます。しかも他のショート2人よりBBが回ってくる順番は後です。
しかしレイズした場合、相手のレイズとベットを全てコールした場合の最大損失は4BBとなり残りは1BBとなってしまいます。1ハンドで飛ぶかもしれない3.5BB以下のショートが2人いるにもかかわらずそのような状況に陥るのはかなりの損ですので、このスタック分布とFTということを踏まえるとレイズするには相当高い勝率が必要となるでしょう。
ちなみにIP側のMUSTAFABETというプレイヤーはMatthew AshtonというWSOP$50,000PPCブレスレット持ちのMIXゲーム最強格の一人なのですが、バブルファクターを意識したと思われる一見セオリーに反したパッシブなプレー(1st drawで1枚-2枚の1枚側からCBを打たないなど)を多く見せていました。
リミットゲームのプレイヤーはバブルファクターやICMをあまり考慮しない印象がありますが、バブルや横並びのFTなどそれらの影響が非常に大きい局面ではしっかり意識した方がよいように思われます。まあ優勝するかしないかしか考えていないのであれば無視でよいですが、、
まとめ
ここまで検討した内容をざっくりまとめます。
・2nd drawで1枚チェンジ同士のときにOOPからベットされた場合、87432(No.10)はコールしてパットを選ぶ方が得である可能性が高い
・相手がTローまで広くベットしている、相手が2nd drawで9を残しすぎている、ここまでのドローでTや9をブロックせず2をブロックしているなどの要素が積み重なればレイズの方が得である
・相手がプリドローで弱い3枚を降りていたり、バブルファクターの影響を大きく受ける場合はよりコールの方が得である
・86432ぐらい強いとレイズしないのは損、87632ぐらい弱いとレイズは明確に損
ドローゲームの3rdドローより前の期待値を計算するのは手間がかかることが分かりましたが、今回で慣れたので今後他の色々なシチュエーションについても考えてみたいと思います。
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