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ひさしぶりのマシュマロ返し

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医学部1年生のうちにやっておいた方がいいことは何ですか?
前期を過ごしてみて、自分の無能さを突きつけられてばかりで、しかし怠惰で努力することもできず、自分は6年間やっていけないかもしれないと思ってしまいました。医師にはなりたいけど頑張れない…
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2021/08/10


質問ありがとうございます。医学部1年次なのですね。(医学科かな?) 大学受験における学力的にはハイレベルな学生が集まるので、入学後に周りをみて圧倒される場面もあるのでしょうね。全員ではないにしろ、質問してくださった方と同じような思いをした医学生も少なくはないはずです。

○はじめに

まずは大前提として、医学部の過ごし方、医師国家試験等の合格方法に王道は無い(相当な範囲での個性が許容される)ということがあることを押さえておくことが大事かと思います。あなたに当てはまることが彼には当てはまらない、あるいは彼女に当てはまることがあなたに当てはまらないということも、よく見受けられます。

その前提を踏まえた上で、医学部医学科の6年間の(勉学面での)過ごし方のコツは、「生き延びる」ことが原則となります。これは大学受験と違って必ずしも上を目指すことが要求されないということを意味します。進級に関わる試験や4年次のCBT・OSCE、6年次の実習後OSCE、卒業試験、医師国家試験という関門を乗り越えることが最低限求められるということ以外は自由というか縛りは特にありません。(2021年現在の話ですが) 

このような生存に必要な最低限の条件をクリアしてしまえば、例えばもっと医学を深めてみたいという方は勉学に励んでも良いですし、留学したいという気持ちが強ければその準備に時間を費やしても良いですし、コミュニケーションを磨くために部活動やアルバイトをするのも咎められませんし、メリハリをつけながら余暇を楽しむことも自由です。そのくらい個人間の学生生活の振れ幅があるので、「これ」と言った決定的なアドバイスが出来ないというのが現実的な回答となります。

ただ、それだと質問に込められた期待には応えられないとは思うので、何点か意見を述べたいと思います。

○原則は「生存」

繰り返しになりますが、原則としては「生き延びること」となります。それ以外は人によって様々です。ここは揺るぎないと思います。進級しなければ、卒業しなければ、国試に受からなければ医師免許を入手できません。したがって、その大学で課されたカリキュラムをクリアして生存することが最低限のミッションとなります。

このように表現すると、自由度が非常に大きいのでは?と思われるかもしれませんが、ドロップアウトせずに集団についていくことだけでも、それ相応の体力・気力・努力が必要になるということについては、質問してくださった方も前期を過ごして何となく感じたのではないでしょうか。ただ、裏を返せば、そこの原則さえ担保してしまえば、自己裁量で出来ることが多いとも換言できます。これは医学部医学科に限ったことではないですが、クリアすべき課題を見極めて自分の時間を作るというのは大学生以降では必須のスキルになると思います。

私も学生時代には、この原則をあまり意識せずに好き勝手にしていたら痛い目に遭うことも多々あったので、優先順位をしばしば見誤ったと反省しています。

○過去問演習が最速・最短

先ほど「王道は無し」と言い切りましたが、上記の生存にとって最重要事項は「過去問」になります。理由はテスト対策で最も多くの同級生が取り組む教材だからです。確かに、せっかく医学部に入ったからには、医学をしっかり勉強したいという気持ちもあるでしょうが、6年間を全力投球で、しかも勉学だけに費やすことは現実的には極めて難しいのです。したがって、試験勉強を始めると、やっぱり面白くなって教科書の細かい記述や興味・好奇心が増していろいろと手を伸ばしたくなる衝動に駆られることもあるかもしれません。ただ、それは趣味の範疇なので、試験合格に必要な条件と合致しているとは限らないのです。試験勉強は試験勉強、趣味の学問は別枠として扱うことが重要です。「生存」の条件を満たした上で、趣味に走りましょう。試験勉強と興味・関心を同一ベクトルでハンドリングすることは結構大変です。

こう書いてしまうと、一般の方からは試験勉強だけではなく実りある勉学に励んで欲しいという意見が来るかもしれません。それはごもっともだと思います。社会のニーズ・大学の作成したカリキュラム・医学生の能力(興味や関心も含む)が上手く噛み合っていないことも多く、全国的にも医学教育に関わる教員たちが過去の蓄積をベースとして、少しずつ改善を進めているところなので、今すぐに完全・完璧な体制を敷くことはできないとだけ言っておきます。

私も医学教育に関わる身としては、医学部医学科の6年間と初期研修医の2年間が良い医療従事者の育成に繋がるような環境を整えることに努力を割いている最中としか言いようがありません。決して「過去問演習だけやっていればよい」という受験テクニックの話をしているわけではないという注意書きを添えたいと思います。

○怠惰で努力することもできず…というコメントに対して

これまでもマシュマロで悩みを相談してくれた医学生がおりましたが、相談した方々は傾向としては皆、真面目だなぁというのが率直な意見です。それだけ真剣に日々の医学生としての生活と向き合っているということなので、それだけでも十分に評価に値すると思います。何を以て「怠惰で努力することもできず」という自己評価になっているかはマシュマロの質問文だけでは汲み取れませんが、たとえ現状を的確に捉えられていたとしても、あるいは過小評価だったとしても、「今より良くなりたい」という気持ちの裏返しなのかなと思いました。

どうしてもペーパーテストがメインで大学受験の延長線上のような環境だと、将来構想や自分の強み、クリアすべき条件等を冷静に見つめ直すことが難しくなるのかもしれません。医師になって現場になると今度は「正解の無い世界」に放り出されて、判断が迫られるというこれまた大変な環境変化が起こります。それはそれでシビアな世界です。これまで6年間、難なく生存できた医学生の中に一定数、急に苦戦することになる人が含まれます。

何が言いたいのかというと、ペーパーテストの評価軸だけだと1軸の数直線のみの評価になってしまうので、答えの無い複雑系の実臨床では矛盾を突きつけられてしまうのです。医学部6年間の評価が、そのまま良い臨床家・研究者・教育者の指標には繋がらないということです。だから、今、劣等感ないし焦燥感のような陰性感情に悩んでいると思うのですが、今の評価が医師になってからも続くことはないということだけは断言できるので、何が自分にとって価値があることなのかを少しずつでよいので見極めていってほしいと思います。

○まとめ

上記のことを踏まえて「医学部1年生のうちにやっておいた方がいいことは何ですか?」という質問に答えると次のようになります。

・6年間の過ごし方は人それぞれだということを自覚する
・6年間のクリアの条件を確認する
・設置された数々の関門を確実にクリアする
・過去問演習が上記条件クリアの最短最速の武器となる
・過去問だけやっていればいい、という意味ではない
・生存条件をクリアした上で余剰の時間をつくる
・その余剰の時間を資源として、本当に価値のあることに時間を費やす
・医師になるために価値あることは何か?を常日頃追求する
・辛く耐えきれないときは休む、信頼できる人に頼る
・生存することが原則

長くなってしまいましたが、小さなことでもいいので出来ることから細かく刻んで少しずつ積み重ねていくことが大事だと思います。そういった意味では1年次は色々なことに挑戦して、経験を得て、ときには良い思いをしたり、ときには痛い目に遭ったりしながら、試行錯誤する勇気が大事です。じっとしているだけだと生存するのは難しいので、行動を起こして周りの反応を見ながら自分をうまく適応させていくことのヒントを得ることが、1年次・2年次にとって重要なのかなぁと文章を書きながら思いました。

ここまで長々と書いて、結論が「失敗や結果を恐れず、試行錯誤したり挑戦したりが大事!」という、ありきたりなものになってしまいました。マシュマロの質問文からは質問者の真面目さと同時に「縮こまっている感」がしたので、なんとか外に出して陽の光を浴びさせて、元気に走って来い!という気持ちに最終的になりました。笑 

陰ながら応援しています。質問者の方も、そして同じような悩みを抱えている医学生・医療系学生も同様です。良い学生生活を過ごせたら良いですね。


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民谷 健太郎
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