選択肢から超音波検査を外すと 【113B30改】
113B30
60歳の男性。妻に黄疸を指摘され来院した。45歳時に糖尿病と診断され経口糖尿病薬を服用している。意識は清明。体温36.8℃。脈拍72/分、整。血圧128/76mmHg。呼吸数14/分。眼瞼結膜は軽度貧血様で、眼球結膜に黄染を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦で、肝・脾を触知しない。右季肋部に軽度の圧痛を認める。下腿に浮腫を認めない。血液所見:赤血球356万、Hb 10.8g/dL、Ht 35%、白血球7,500、血小板38万。血液生化学所見:総蛋白7.2g/dL、アルブミン4.2g/dL、総ビリルビン5.8mg/dL、直接ビリルビン3.7mg/dL、AST 48U/L、ALT 65U/L、ALP 689U/L(基準115~359)、γ-GTP 243U/L(基準8~50)、尿素窒素45mg/dL、クレアチニン3.5mg/dL、血糖153mg/dL、HbA1c 7.4%(基準4.6~6.2)。CRP 1.1mg/dL。
まず行うべき検査はどれか。
a 腹部造影CT
b 腹腔鏡下肝生検
c 腹部超音波検査
d 磁気共鳴胆管膵管撮像 <MRCP>
e 内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査 <ERCP>
【正解】c
【解説】
高齢男性の黄疸です。
黄疸の鑑別は多岐にわたりますが、
診断に有用な鑑別点は直接Bil優位か間接Bil優位か
という点に尽きます。
病歴・身体所見からは
「貧血」「右季肋部の圧痛」という有意な情報が得られました。
貧血はこの時点での評価は難しいのでしょうが、
右季肋部の圧痛は、黄疸と組み合わせて
閉塞性黄疸らしさを疑わせる所見になります。
上記を踏まえ、直接Bil優位のBil上昇を期待しながら
検査結果を眺めてみると、
総Bil 5.8mg/dL、直接Bil 3.7mg/dL
というように閉塞性黄疸をより強く疑わせる結果です。
したがって、
次の一手としては
胆道の閉塞を画像検査で探しに行く
という発想が自然となります。
侵襲性や時間的コストを考えたときに
「まず」という設問文の要求に対しては
腹部エコーが適切解となります。
後述しますが、実は本症例では腎機能障害をきたしています。
選択肢が平易なために、印象に残りにくくはなっていますが、
他の選択肢を吟味する際には
奥が深い問題設計になっていることに気付くことかと思います。
<選択肢考察>
a 多くの受験生が迷わず正解の選択肢(c 腹部超音波検査)を選択しているために、さほど話題には挙がらなかったのかもしれませんが、腎機能障害があり腹部造影CTは禁忌肢になり得ます。
b 肝生検は侵襲性の高い手技なので「まず」という問われ方との相性が悪いです。また、肝生検で得られる情報が必ずしも本症例の黄疸の原因をカバーできるかどうか、まだ情報が足りないので、肝臓にターゲットを絞るには時期尚早の段階だと考えます。
c 上述の通り、得られる情報の質・量、侵襲性、簡便性、時間的コスト、あらゆる点で、超音波検査は優れています。この時点での要件を満たすために適切解となります。
d MRCPは侵襲性の点では、比較的低侵襲ではありますが、施設によっては夜間・休日の稼働が難しかったり、MRIが無い施設では出来なかったりという点で超音波検査には手軽さで劣ります。また時間的コストという観点からも、腹部超音波検査より多くの時間を要するので、まずは超音波というのが本問の題意を満たすのでしょう。
e ERCPは上部消化管内視鏡の手技に引き続き行われる手技なので侵襲的です。やはり腹部超音波より優先はされません。
さて、医師国家試験の選択肢に登場した場合、
都市伝説的に正解の選択肢になってしまいがちな「超音波検査」ですが、
選択肢から外すと正答率はどこまで下がるかという試みが
以下に示す【113B30・改】です。
【113B30・改】
60歳男性
主訴:黄疸
バイタル安定、右季肋部に軽度圧痛あり。
<L/D> ※単位省略
WBC 7500、CRP 1.1
T-bil 5.8 D-bil 3.7 AST 48 ALT 65 ALP 689 γGT 243
BUN 45 Cre 3.5
腹部エコーで胆管拡張を認めた。
次に行うべき検査はどれか。
○ 腹部造影CT
○ MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮像)
○ ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査)
【正解】
MRCP
※腹部造影CTは禁忌肢になる可能性がある。
【解説】
オリジナルの問題から敢えて超音波の選択肢を外したのが出題の意図です。
案の定、造影CT(35%)、MRCP(44%)、ERCP(22%)と回答が分散しました。
問題文中に登場する採血結果はオリジナルのものを採用しています。
113B30では回答の98.9%が正解の「腹部超音波」に集まっていますが、
腎機能障害があったことや「腹部造影CT」が禁忌肢だった
ということに気付きにくかったのかもしれません。
出題の意図としては、
「腹部超音波に依存しない」
「禁忌肢に留意する」という少し嫌らしい狙いがあったのですが、
回答者の35%が禁忌肢の「腹部造影CT」を選んだというのが
とても興味深い結果なのだと思います。
別に意地悪をして「腹部造影CT」を禁忌肢にしたわけではなく、
本番でも起こり得る現象であることを示したかったのが本意です。
本番では禁忌肢を踏まないように、
与えられた情報を十分に把握できるような演習を心がけてください。
そのキッカケとして、今回の改題が生きたら幸いです。
最後に、MRCPとERCPのどちらが正解かについては、
条件が不足しているので、決め切れないということを補足しておきます。
今回の改題で示した情報だけではMRCPとERCPのどちらかを決め切れませんが、
出題者としては、侵襲性・時間的コスト・即時性を根拠に
MRCPに一票を入れたいです。
twitterでは文字数の制約があるので、
両者を区別させるような情報を付記できませんでした。
急性膵炎が無いことを確認してERCP、
MRIの禁忌が無いことを確認してMRCPを選択します。
これまでにERCPとMRCPのどちらかを選ばせる問題は存在せず、
出題されたとしても、どちらかを選べるような記述が付加されるはずです。
国試の問題として成立するとしたら、
MRCP・ERCPを分かつ根拠が本文に登場するはずです。