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ファンタジースプリングスとは、理想的な「ランド化」である【FSレポ④】
日本で「レリゴー」旋風が吹き荒れた2014年。その翌年、株式会社オリエンタルランドは東京ディズニーシーにおける「北欧」テーマの第8テーマポート開発を発表。
あの2015年からかれこれ9年の歳月を経て……東京ディズニーシーの第8テーマポート「ファンタジースプリングス」がついにその門を開いた。
エリア内を歩き回ると、新たな景色が次々に飛び込んでくる……それだけでも最高の経験だっただけでなく、エリア内の各アトラクションはそれぞれの魅力にあふれ、ディズニーテーマパークや東京ディズニーリゾートの歴史に名を残すものであったと思う。またそれだけでなく、このエリアが東京ディズニーシーに新たな価値を吹き込むであろうことは間違いない。
この記事では東京ディズニーシーの新エリア「ファンタジースプリングス」について書いていこうと思う。
今回の記事では「フェアリー・ティンカーベルのビジーバギー」について触れ、このエリアを総合的に考察して「ファンタジースプリングスとは理想的な『東京ディズニーシーのランド化』である」という結論を提示する。
模範的社会人のティンカー・ベルさん
勤怠管理もお任せよ!
個人的に最も感激したのは、「フェアリー・ティンカーベルのビジーバギー」だった。
理由はとても単純で、映画を通して好きになれなかったティンカー・ベルというキャラクターを、まさかこのアトラクションを通して好きになると思わなかったからだ。
そもそも映画『ピーター・パン』を見ていると、いくら空を飛ぶための妖精の粉を管理しているとはいえ、ディズニーのイメージキャラクターとして多用できるような素直なキャラクターじゃないだろうと感じる。また、映画『ティンカー・ベル』をみると、へその曲げ方に拍車がかかってより共感しづらいキャラクターになっていた。
ただ、「ビジーバギー」のティンカーベルは違う。なんと、事務所を持っているのだ。
しかもアトラクションは映画『ティンカー・ベル』に登場する運び屋のチーズがお休みだから代わりにデリバリーを手伝おうという内容で、勤怠管理までしっかりしているのである。
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「ああ、今日はチーズがお休みなのか!」「じゃあ、誰かにヘルプを頼まなきゃ!」。天下のティンカー・ベル様がそういうマインドでせっせと仕事をしているだけで、めちゃくちゃ好感度が高くなる。なんだろうねこの感じ。
これ、収録済みのYouTubeラジオ「RADIO ON D'AIR」でも全く同じことを話していて申し訳ないのだが、ティンカー・ベルがここまで真摯に仕事をするタイプだと思っていなかったのだ。しかし、映画で見たキャラクターの延長線上に、確かに受け入れられてしまう……。
このアトラクション最大の魅力は、「勤怠管理もそつなくできて現場経験も豊富な、優秀な現場責任者に仕事を任せてもらえる」というところにある(そうか?)
あの三兄弟もびっくり
また、個人的に感激したのは、アトラクションの作りである。
これは「ピーターパンのネバーランドアドベンチャー」にも共通するのだが、アトラクション内で用いられるツールが規格化されていないのだ。
弊noteでは現在「ディズニーランドのフォーマット」というマガジンを連載中。これは、アトラクションやレストランの規格化された部分を見て、施設ごとの共通点や違いを楽しむというオタク趣味全開の趣旨である。
例えば「ザンビーニ・ブラザーズ・リストランテ」のレジ前の空間を見てみると、工場生産されていないであろう電飾が規則正しく並んでいて、奇妙な雰囲気を醸し出している(予め断っておくが、私はこの空気感も好きである。だからマガジン化している)。
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ところが、「フェアリー・ティンカーベルのビジーバギー」はそのようになっていない。
ポールには安全ピン(むきもバラツキがある)や髪櫛、クレヨン、端材などを使用している。
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看板はボタンや貝殻を使用していたり、照明は花や鈴やキノコを活用したものになっている。
これだけ自由なバリエーションでアトラクションを運営している施設が他にあっただろうか。少なくとも東京ディズニーリゾートにおいては稀有な、他に類を見ないものであると思う。
ファンタジースプリングスは、理想的な「ランド化」である
ここで、一つの結論を導き出そう。
ファンタジースプリングスとは、「理想的な〈シーのランド化〉の帰結」だったのだ。
以前の記事で触れた「シーのランド化」。
東京ディズニーシーは開園から数年経っても入園者数がまばらであったため、大人向けのパークから転じてディズニーキャラクターを活用し、東京ディズニーランドに来るような層にもアピールできるよう方針転換を始めた。そしてその帰結として「カネを生まないないところにカネをかけ」ることができなくなっていったのだと思う。
ファンタジースプリングスは明らかに「カネを生まないないところにカネをかけ」ている。
ロックワークを用いた壮大な世界観が正にそれである。ロックワークがあったところで、ゲストからお金を取ることはできない。おそらく、「ロックワークを見るためにファンタジースプリングスに行こう!」という人よりも、「アナ雪のアトラクションができたんだって!」の方が余程キャッチーだし人口として多いはずである。
そのロックワークや噴水(泉)の演出まわりには、'Journey into Fantasy Springs'というポートソングをアレンジした壮大なBGMが流れている。このBGMの音量が、明らかに他のエリアの比ではない。噂によれば、それぞれのロックワークからはキャラクターにちなんだ音楽がエリアBGMと同期して流れるのだそうだ。つまりこのロックワークは、音楽を聴かせるためだけの装置として機能しているのだ。全くカネにならない、だからこそ素晴らしいのである。
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アトラクションもそうである。「アナとエルサのフローズンジャーニー」のタイミング調整や、「フェアリー・ティンカーベルのビジーバギー」の脱規格化は、あまりカネにならないが創作のクオリティに大きく関わるところだと思われる。
そもそも、この記事に抜けているファンタジースプリングスの最大の魅力とは、キャラクターの生き生きとした生き様である。ネバーランドにはロストキッズのものと思しき落書きがいたるところにあるし、フローズンキングダムに飾られたアナ、エルサ、オラフやクリストフの肖像画はとても楽しそうで、幸せそうだ。塔から顔を出して歌うラプンツェルは、当のキャラクターのファンでなくともじっと見入ってしまう。
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ロストキッズの落書き
BEWARE OF CROC「ワニに注意」
左には彼の口の中?
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クリストフ謹製の氷運搬用マップ
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オリエンタルランドの豊富な資金力とディズニーのイマジネーションにより、こうした豊かなテーマエリアを作ることができたという点は、明らかに東京ディズニーシー的である。
しかし一方で、東京ディズニーシーの従来のイメージを覆す箇所もある。
「ピーターパンのネバーランドアドベンチャー」は、身長102cmという制限があるが、東京ディズニーシーで一番人気のアトラクションにきっと上り詰めるだろう。3D映像とモーションシミュレータを用いたスリルライドで、恐怖感ではなく温かさをアピールし、子供から大人まで楽しめるようなコンテンツにする……これはつまり、「ニモ&フレンズ・シーライダー」のリベンジであり、供養でもあるのだ。
「アナとエルサのフローズンジャーニー」が東京ディズニーシーにできたことで、パークを訪れる小学生女児の服装に大きな変化が現れた。みんなアナやエルサの服を身に纏っているのである。東京ディズニーランド内にちびっ子シンデレラやちびっ子ベルがたくさんいるように、東京ディズニーシーにも多くのちびっ子プリンセスが訪れるようになるかもしれない。
「カネを生まないないところにカネをかけ」つつ、大人向けというテーマ設定を維持しながら、老若男女が楽しめるようにする。これこそ、「シーのランド化」の理想的な姿ではないかと思うのだ。
高校生の頃、1日でも早く大人になりたかった私は、スーツを着て東京ディズニーリゾートに行く謎の界隈があることを知った。
初めて東京ディズニーシーにスーツを着て行ったのは、2020年の1月。忘れもしない雨の日である。
それからというもの、大学入学後はスーツ姿で何度も東京ディズニーシーに足を運んだ。
当時、「学生には学生時代にしかできないことがあるだろ」と言われた私は、こう返していた。「大人になりたいと背伸びをするのも、学生時代にしかできないことだ」と。
だが、就職活動を続けながらだらだらnoteを書いている今の私から、当時の私に言ってやりたいことがある。「大人になるとは、子供時代に戻りたいと願うことだ」と。
note査読担当者で今回の旅の同行者だったもちさんも、正に同じようなことを書いていた。
東京ディズニーシーを訪れて、大人のディズニーを楽しむ。その大人ディズニーの中にひとつ、「子供時代に戻りたい」という楽しみ方があっても良いのではないか。
昔々、はるか遠いところに、精霊が住む魔法の泉がありました。
精霊は、水の流れに乗って旅をした先で
出会った数々の物語をその泉に刻み込みました。
いまでも、泉から流れ出る小川をたどっていけば、
さまざまな物語の世界を訪れることができるでしょう。
ファンタジースプリングスに来ると、子供だとか大人だとか、そういうどうでもいいことは気にならなくなってしまう。
精霊たちが旅した長いながい時間の前に、そうした些細な違いは消えて無くなってしまう。
それが、ファンタジースプリングス旅の結末でした。
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True love turns every house into a home
P.S.
あれっ、「ラプンツェルのランタンフェスティバル」は?
「屋外がメインのボートライドって斬新〜」以上の感想が出てこなかったんです。
ひょっとしたら、本国のディズニーランドにありがちな屋外と屋内を行き来する演出の巧みなライドが今後も増えていくかもしれませんね。
すみません、それ以上聞かないでください。パスカルはかわいかったです。