こじつけの美学をこの街で【ディズニーシーレポ③】
「言い訳も屁理屈も、ここじゃ立派なアトラクションですよ!」
たみふるDがディズニーシーに行ったレポをする話、第三回でやっとパークに入っていきます。「ニヒルな旅をしようじゃないか」をテーマに、東京ディズニーシーでの旅にどう物語が加わっていくかの過程を紹介します。前回のnote『ロールプレイをしようじゃないか【ディズニーシーレポ②】』で書いた予定通りに物語は完結を迎えたのでしょうか。
この記事は行った当日に情熱だけで書き上げていますので、多少加筆修正はしておりますが誤字脱字は悪しからず。早速見ていきましょう。
keyword: 旅情をあおる
今回の旅では、ノートを持っていきました。noteじゃなくてノート。そのため、時間とそのときの気持ちが克明に記されています。今回はそれを引用しながら補足しながら写真も見ながら、みんなでディズニーシーの一日を追体験しようというわけなんですが、自分が捻り出した中で一番今回の旅を表していたのは「旅情をあおる」という表現。
「旅情」というのは、旅で感じるしみじみとした気持ちのことを言うらしいです。まあ、今回は特に「ああ、今、俺、旅してるよ」という気持ちのことを指します。「エモい」くらいに置き換えてくれても構いませんが、こういう気持ちを追い求めてパークの一日をプランしたと言うことになります。
前回申し上げた通り、今回のテーマは「イギリスの科学者」です。何それ、はあ、って感じがするかもしれませんが、ウィンザーノットにあそびの色を極力入れない形、そしてトレンチコートが推しポイントってこと。何より、服装はどうであれ気持ちがそうならそうなんですよ。そして、この「イギリスの科学者」という設定は後に大きな影響を及ぼします(それを見越して決めた設定でもあるのです……)。
0 入園前
入園前から勝負は始まっています。最寄りのコンビニで午後の紅茶を買いました。
ところで、自分に架空のナショナリティを設定するのにはこういう理由もあります。例えば今回だったら、爽健美茶でも良かったし綾鷹でも良かったわけです。でも、午後の紅茶を選んでいるのはイギリスという架空の国籍を決めたからなわけですね。それ以前に、KIRINは東京ディズニーリゾートの公式スポンサーなんですがね。
舞浜駅前のBECK'S COFFEEでエスプレッソを飲みます。何故かここだけイタリア風なんですが、これは普段私が朝はコーヒーで夜はパスタという志向で暮らしているからです。
ディズニーリゾートラインは右側の窓を見るつもりで乗るのがおすすめです。というのも、水平線が見えるからです。曇ってるからわかりづらいかもしれませんが、これから海岸に行くという気持ちが高まります。
エントランスではだいたい読書をしています。以前の記事で登場したマキアヴェリの『君主論』も、半分以上はこのエントランスで読みました。今回は『料理の四面体』です。
早々にこういう話をして申し訳ないんですが、やっぱりぼくはサウスゲートは嫌いですね。何もないんですもん。
これがサウスゲート。下の写真がノースゲートです。
ノースエントランス(別日撮影)
東京ディズニーシーのエントランスは、北側と南側の二種類あり、南側が海に面している。そういうわけで、北側にはホテルミラコスタの美しい建物がありますが、南側には何もないんですよね。やはり好きになれません。好きな人いたら今度どこが良いか教えてください。
08:28:AM NorthとSouthの説明、大変そうだ
当時私もこのように書いていました。
ディズニーパークのおもしろいところは、多くの人間の物語が集結して結束バンドのようになっていることです。例えば、『タイタニック』と『イースター・パレード』はどちらも1912年を舞台にした映画なので、『イースター・パレード』のキャラクターたちはタイタニック号沈没のニュースを聞いたかもしれませんね。あるいは、『ドクター・ストレンジ』の主役であるドクター・ストレンジは、『マイティー・ソー/バトルロイヤル』では脇役です。
ディズニーパークも同様なんですよね。私にとっても一大お楽しみデーだけれど、あるお父さんは家族サービスのために仕事を休んでいるし、あるカップルは二人で初めてディズニーに来る。
それで、後ろの家族が開園の直前まで身内がこないと騒いでいたりとか、列のひとつ前にいた女性が1時間くらい帰ってこない間に雨が降ってきたから私が傘を持ってそこに居座ってたりとか、そういうのがなんだか心に残るわけです。
09:25:AM 15分アーリーにつき09:45オープン
ここでアナウンスが入りました。
開園直前、キャストさんが「20年間様々な冒険を共にしてきました」「航海日誌に新たな1ページが加わります」などとアナウンスをしてくれて、既にうるうるきていましたね。
1 メディテレーニアンハーバー
開園後、「ソアリン:ファンタスティック・フライト」のスタンバイパスを取得しようとしたところ、09:45開園のパークで09:50からが取れてしまいました。後ろ倒しでもよかったかなとは思いましたが、取れる時に取っておかないと困るかなと思ったので、予定を変更。
ひとまず、朝は「タワー・オブ・テラー」に向かってみます。最近待ち時間の伸びが著しく、取り敢えず朝に入れておけば間違いがなさそうです。その後「ニューヨーク・デリ」を入れておきます。アメリカンウォーターフロントの喧騒の中、やや庶民的で遅い朝を過ごすイメージ。
→朝イチで「ソアリン」、その後「タワー・オブ・テラー」に乗り、「ニューヨーク・デリ」を挟んで「マゼランズ」へ
10:17:AM カメリアはマゼランの後継か Meet the world
「ソアリン」乗車。「空を飛びたいと強く願えばそうした科学技術が生まれていつか可能になる」と力説するカメリア・ファルコにうるうるときてしまいました。以前の記事でも書いた通り、カメリアは空を飛ぶという体験を皆と分かち合おうとしました。その点で、大航海時代のスペインとポルトガルのレースとは意味合いが異なります。
「ミート・ザ・ワールド」は東京ディズニーランドにかつてあったアトラクション。戦後日本に誕生し、松下幸之助のパナソニックがスポンサーとなっていました。「手と手合わせ 出会うのさ世界の人々と 愛を胸に」という歌詞は、「ソアリン」で実現しているようにも思います。
そして、実際にライドしてはもう目に涙を浮かべていました。それぞれの地域を呆然として見つめ、ただただそこに人がいるという事実に感動できる。力強く生きる人間の姿をよく表している。そして、最後のシーンで「ミート・ザ・ワールド」が実現するんですね。こんな素晴らしいことありますか。
「ソアリン」を朝一にしてよかった理由として、そのメッセージ性があげられます。「イマジネーションと夢見る力があれば、どこにでもいける」は東京ディズニーシーの根本を支えています。つまり、「フィクションをリアルだと信じる力で、どんな世界でも自分の体験にできる」ということです。
2 ミステリアスアイランド
この時点で「タワー・オブ・テラー」の待ち時間が既に70分くらいになっていました。そのため、ちょっと諦めざるを得ないかなあと思いました。
しかし一方で救いもあります。「ソアリン」のスタンバイパス取得が早かったおかげで、「トイ・ストーリー・マニア!」が12:45となりました。今回のワイルドカードは早々に消化です。これにより、「タワー・オブ・テラー」の待ち時間に関わらず、お昼には必ず「ニューヨーク・デリ」に行くことができます。クローズ時間の14時を気にせず、13時前には必ずアメリカンウォーターフロントにいるわけですからね。そういうわけで、「タワー・オブ・テラー」も「ニューヨーク・デリ」も今すぐに行く必要がなくなったわけです。
そこで、「センター・オブ・ジ・アース」を目指します。
あるいは、「センター・オブ・ジ・アース」の原作小説『地底旅行』もといモデルとされた映画『地底探検』では、クライマックスでイタリアの火口から押し出されるため、メディテレーニアンハーバーからシームレスにつながります。
ここでは、ふつうに楽しみました。私はこのアトラクションが本当に大好きで、課題として「アトラクション内の空気ダクト(という設定のもの)がどういう配線になっているか」のマップを作っていまして、それ以外にもいくつか発見がありました。場を改めて紹介します。
その後、「海底2万マイル」に行きました。「センター・オブ・ジ・アース」ですっかりミステリアスアイランドな気分になっていた私は、うっかり並んでしまったというわけです。
3 メディテレーニアンハーバー(2)
さて、ややこしい名前の章です。「マゼランズ」に行きます。
その前に、フォートレス・エクスプロレーション内のエクスプローラーズ・ホールに入ります。
まあ、簡単に言えばお参りですね。儀式というか、通過儀礼というか。別にしなくてもいいですけど、マゼランとその仲間たちに会いに行かなければいけません。それで、気を取り直してレストランに入ります。
11:18:AM マゼランズにて 「海底2万マイル」はわりあいに右側が良い気がするが、視線のフェードにおいては左側の方が乙であろう 海に沈んだものどもの生きる場所が、フォートレスである
「海底2万マイル」は反時計回りのライドなので、左側の席だとルートの先が見えてしまいます。それは言い換えれば、暗闇にぼんやりと行先が浮かんでくるフェードイン・フェードアウトが魅力的に映るのは明らかに左側ということになるんですね。特に、真っ暗な深海に潜って最初に海の青い光が差し込んでくるところや、浮上しても顔色変えないネモ船長の秘密基地の明かりが見えてくるところで、心をぐっと掴まれます。マラソンで外側のコースの方が距離が長いように物語の量が圧倒的に多いのは右側ですが、それでも左側もまた旅情をあおるなあというかんじ。
ライド中に思いついたのですが、不慮の事故により乗ってしまった「海底2万マイル」から「マゼランズ」へストーリーをこのように繋げます。
続いて、11時10分から「マゼランズ」の予約が入っています。いちおう「タワー・オブ・テラー」のハリソン・ハイタワー三世はS.E.A.会員ということになっていますから、その点の繋がりがありますね。
→「海底2万マイル」で見る船は、古代ギリシアやエジプトの船もあれば、19世紀の船もある。そして、17世紀から19世紀のものが特に豊富である。我々は、彼らの生きた時代の残り香にあずかりに「マゼランズ」にやってきた
「カリブの海賊」と同じだということがわかりますね。このアトラクションでははじめに夢の潰えた海賊の髑髏を見て周り、デイヴィ・ジョーンズの導きで海賊の全盛期の時代にタイムスリップします。言わば起承転結ならぬ結起承転のアトラクションということです。「海底2万マイル」と「マゼランズ」はまさにその関係にあるのです。
11:34:AM 食に関してはズブだが“前菜のイモ”がうまい 海鮮のエビやホタテによく合うようだ。壁面の八彗星(注:八芒星の誤字)を見ると、アジアとのつながりもよくわかる プロメテウス火山がモデル 好き勝手しすぎてめいわくをかけている
11:52:AM 地球が丸いなら“北が上”という前提はやっぱりヨーロッパ? 柱のデザインひとつとっても、「人間が一からつくりあげた」という感じを受ける。「彼らのような冒険家はもういない」というすがすがしさとむなしさでいっぱい パイの食べ方がむずい
0:15:PM 「ハイ、ポーーズ」のポーズはpose? pause? メインが尋常じゃなく美味である 嫌な顔せず対応して頂き申し訳なくも有り難い
これは、私がメシを食べながらとやかく言っているパートでです。基本的に、食事のマナーは他人に厳しく自分にも厳しい男である私は、カトラリーの音を立てたり変な持ち方をしたりすると、すぐに萎えてしまうわけです。また、興奮して色々な写真を撮ろうとするのですが、そうすると動き回っているキャストさんがいちいち止まってくださって、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。良い客でありたいものです。
また、これは完全に余談なのですが、私は未成年なのでお酒プレイができません。だから、肉料理のコースに合わせて「山ぶどうブレンド」を飲んでるわけです。早く酒を飲みたいですね。
4 アメリカンウォーターフロント
ここで、当初の予定ではこの後にくるはずだった「ソアリン」が「トイ・ストーリー・マニア!」に繰り上がっています。
「マゼランズ」から「トイ・ストーリー・マニア!」までの移動はどうなるか。これは、アメリカンウォーターフロントのケープコッド方面からS.S.コロンビア号へ向かうのではなく、コロンバス・サークルを通ることで対応します。
続いて、11時10分から「マゼランズ」の予約が入っています。(中略)。「ソアリン:ファンタスティック・フライト」のスタンバイパスは、それを見越して12時30頃のものが取れたらいいなと思っており、このあたりにメディテレーニアンハーバーでの体験を繋げておきます。
→フォートレス・エクスプロレーションの英雄であるクリストファー・コロンブスが生まれたイタリアから、アメリカ大陸を発見した流れを辿る。
また、その後には「インディ・ジョーンズ®︎・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮」「センター・オブ・ジ・アース」と複数のレストランからなるフリータイムがあるため、ポートディスカバリーまで「ディズニーシー・エレクトリックレールウェイ」で移動する予定でいましょう。
0:52:PM トイ・ストーリー・マニアがアメリカンウォーターフロントにやってきたのはひとえにPixarランディニューマンのジャズ体質の賜(注:賜物のこと)だろう
ここで、ブロードウェイと「トイ・ストーリー・マニア!」、そして「ニューヨーク・デリ」をジャズの雰囲気で繋ぎます。
「トイ・ストーリー・マニア!」があるのが「トイビル・トロリーパーク」という遊園地です。隣の建物が「トイビル・トロリーカンパニー」で、この遊園地を経営している会社なわけですが、「トロリー」とついているだけあってほんとうは路面電車の会社です。そして、路面電車の終着点に遊園地を作って休日にも利用してもらおうというのは当時の会社がよく考えていたことでした。ここから「ニューヨーク・デリ」と「ディズニーシー・エレクトリックレールウェイ」に乗るわけで、当時の日常の領域に踏み込んでいきます。
そういえば得点は16万点くらいでしたが、反対側の女の子がもっと高得点を出していてすごかったですね。
01:46:PM はじめてのデリ。大量生産時代の始まりだ。TDSもといディズニーをよく表しているだろう。そこには街の熱気も必ずや伴うのだから
これは少し気取ってますね。
ディズニーランドというのは社会学においてしばしば、マクドナルドの延長線上にあるとされることがあります。フォーディズムでフォードの工場が取り上げられており、これはオートメーション化のことを指していますよね。次いでマクドナルド化が起こり、このオートメーション化はサービスの領域に入り込んでいきます。そして、ディズニーランド化とはそこにストーリーやキャラクターでコーティングすることを指します(厳密には色々と定義があります)。
つまり、ディズニーランドというのは「一店舗しかないチェーン店」なんですね。この話は後に出てくることになります。
ただ、一方で私は「大量生産品にもそれぞれの思いが籠るものだ」と考えている(正確にはその場では思った)わけです。冒頭に述べた通り、全てのゲストには全てのゲストの人生があって、それが東京ディズニーシーでクロスする。ディズニーパークからすれば捌かなきゃいけない「お客」かもしれませんし、側から見れば皆そう見えている。でも、それぞれにはそれぞれの物語があるはずなんですよね。そういうことを考えながら、コーヒーをすすりました。
あんまりこういう言い方はよくないのでしょうが、ここで飲むコーヒーはまずかったです。けっこうパークのコーヒーはまずい。それは、「コーヒー豆をローストして抽出したドリンク」ではなく「コーヒー」を出して来られるからです。つまり、コーヒーの味になるように作られたコーヒーじゃないものなんじゃないか、という疑念がよぎるんですね。
そうはいっても、ニューヨークのデリカテッセンで大量生産品の安いコーヒーを飲んで、喉に詰まりそうなチーズケーキを無理やり流し込むような体験というのは、それはそれで楽しいものです。
東京ディズニーランドの「パン・ギャラクティック・ピザ・ポート」では、ピザとドリンクのセットで960円。セントラルキッチンで調理されて平積みされたまあまあ冷めてるピザと、どこでも飲めるようなドリンクを合わせて960円。先に申し上げた通り、舞浜駅前のサイゼリヤならば半額で出してくれるでしょう。ですが、「パン・ギャラクティック・ピザ・ポート」は、未来をテーマにした「トゥモローランド」というエリアに属しており、豊富な「フィクション」領域を持っています。
つまり、「宇宙展開のピザチェーンに行く」という「物語」そのものが体験価値であって、決して腹を満たしに行くわけではないんですね。このピザチェーンの物語、設定、ディテール、そして「ピザを食べる」という形のストーリーテリングに金を払えるかどうか、という問題なわけです。
(『はじめての痛快ディズニーランド入門─四つの誤解とその答え』)
そういうわけで、ここでは「まずいコーヒー」が正解ということになります。後から考えれば、イギリス人然としたロールプレイを楽しみたいのならばコーヒーなんてものは泥水だと言って一蹴してしまってもいいわけですが。
5 ポートディスカバリー
「ディズニーシー・エレクトリックレールウェイ」でポートディスカバリーに行きます。もともとポートディスカバリーは「100年前の人が想像した100年後」というサブテーマがあって、つまり「アメリカンウォーターフロントの人々が想像した現代」がポートディスカバリーと言えるわけです。それで、電車でつながっているんですね。また、「トイ・ストーリー・マニア!」で見た路面電車はもうニューヨークを走っていません。地上を走っていたものが高架に「棚上げ」されたのだというわけです。
で、「ディズニーシー・エレクトリックレールウェイ」に乗るとこれが案外おもしろいもので、メディテレーニアンハーバーやロストリバーデルタ、そしてパーク外のオフィシャルホテル群もガンガンに見えてしまいます。時空を超えるというのはそういうノイズも含むようですね。
02:21:PM 旅情をあおられPDへ エレクトリックレールウェイは確かに時空を超えたが、アクアトピア20分は悪手か? 晴れ間はきれいである 文字書きに夢中で列を止めてしまった。もうjkは叱れない… デリのコーヒーのおかげで比較的暖かい てか暑い
20分待ちだったけれど、途中で新規入場してくるゲストが途切れました。待ち時間が減る瞬間を垣間見たわけです。
さて、結果から言えば、このアクアトピアは比較的良い手だったと思います。というのも、天気が本当に良かったからです。ポートディスカバリーといえば「ニモ&フレンズ・シーライダー」ですが、もともとは「ストームライダー」がありました。私もあれが大好きだったので、ポートディスカバリーが晴れていると嬉しくなります。
加えて、雨上がりということで水面に景色が反射していたのも綺麗です。さらに、ちょっと不恰好だけれど、向かって左側の列は比較的ポートディスカバリーの中でも屈指のロケーションだったんだなあと思いました。
待ってる間、けっこう暑かったですね。トレンチコートはお腹のところでベルトを巻いてしまってるので、これをいちいちほどいてボタンを外しては割り合いに面倒くさい。だから着たままなんですけどこれはかなり暑いです。でも、それは「ニューヨーク・デリ」で飲んだ(まずい)コーヒーのせいなわけなので、時空を超えても身はそのままの私が連続した存在として生きていることを噛み締めました。
6 ロストリバーデルタ
ここで問題が発生です。「アクアトピア」を降りたのが14:36だったため、「ユカタン・ベースキャンプ・グリル」と「カスバ・フードコート」のどちらかを選ぶ必要が出てきました。
「カスバ・フードコート」のあるアラビアは雲ひとつなく晴れていて欲しいという気持ちがあり、ここは「もうすぐ雨が降りそう」というストーリーのあるロストリバーデルタへ。
ポートディスカバリーとロストリバーデルタを繋ぐのはスカイウォッチャー・スーベニアです。それこそ、「ストームライダー」時代の名残と言えるでしょう。気象観測に使われていた施設が今ではワゴンとして使われている。ロストリバーデルタの舞台は1930年代ですが、今=30年代から半世紀ほど前に、このあたりを吹き荒れていた竜巻が突如として消滅したことにより、失われた川=ロストリバーが現れたというストーリーがあります。ポートディスカバリーからロストリバーデルタへ向かうのは、未知の世界に学問で立ち向かうという点でかなり共通していて、そのうちのキーワードの一つがストームだったわけです。
「ユカタン・ベースキャンプ・グリル」の魅力の一つは、なんといってもラジオ。これがよくできていて、ニュースと音楽を交互に流しているわけです。
02:46:PM CotE20(注:「センター・オブ・ジ・アース」20分待ち)、IJA35(注:「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー」35分待ち)と認識 ロストリバーに来ている 待ち時間は喉元を過ぎただろう
ラジオで「インディ・ジョーンズ博士が若さの泉を発見!」とあおられたのでついにと思った矢先、「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー」はなんと40分待ちに伸びてしまいました。
そこで、マーメイドラグーンからミステリアスアイランドに入る当初のルートを考えます。その過程で、「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー」の待ち時間が減ったら、きっと16:30くらいまでには乗れるだろうという予想。しかし、物語としてのつながりの弱さは相変わらず悪手になるでしょうから、「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー」に乗るタイミングはよく考えなければいけません。
7 マーメイドラグーン
ここで、アラビアンコーストに一日中入らないことが決定してしまいました。というのも、アラビアンコーストはダウ船を利用するイスラーム商人のお膝元で、そういう意味で大航海時代の前史としてもなかなか重要なんですが、そういう文脈で読むとメディテレーニアンハーバーとはつながっていないということが問題になります。だから、とりあえず今回は見送りました。
一方、ロストリバーデルタとマーメイドラグーンは関係があります。ロストリバーデルタは中央アメリカ、特にユカタン半島のあたりを指します。そして、マーメイドラグーンは人魚アリエルの暮らす海底王国で、宮廷音楽家のセバスチャンはカリプソ=カリブ海音楽をよく作っているわけです。で、カリブ海は南北アメリカの間、大西洋側にあるんですね。だから、ここはつながっていて当然と言えるわけです。
03:35:PM フランダーの強制労働施設、アールヌーヴォーも美しいが雨水が助けている
マーメイドラグーンは海底王国のくせに地上にあります。それはなんでかというと、海底から人間のために地上に上がってきたからというわけです。人間のエリックと人魚のアリエルが結婚したため、記念でそうしたらしいですね(幸せならOKです)。それで、雨上がりのマーメイドラグーンは浜のひとでや貝のいた跡に水が溜まって綺麗です。まるで本当に海から上がってきたような感じがします。潮干狩りと同じ仕組みですね。
そして、「フランダーのフライングフィッシュコースター」、これが意外とマーメイドラグーンの広範囲の景色が見られて楽しいです。一日通して一番笑顔だったのは意外とここなんじゃないですかね。
その後、アンダー・ザ・シーもいきました。それで、「海底2万マイル」に乗る運びだったのですが、ふと虫の知らせで待ち時間を見ると「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー」が35分待ち。乗りたいなあという気分がしてきました。こういうときは、とりあえず心の赴くままに動いてみると、いいことがあります。
8 ロストリバーデルタ(2)
03:35:PM IJA35分。失敗かと思ったが好条件。①暑い、②曇り、③TSL(注:トランジットスチーマーライン)を使う口実に。RS(注:「レイジング・スピリッツ」)とIJAの思想は根本的に違う?
35分待ちで並びました。これを「待ち時間が長い」と見てもいいんですが、「減少傾向」と見ることもできますね。
なんだかかんだか最初は後悔していましたが、並んじゃったのはしょうがないんだからいいことをしようと考えました。すると、一瞬マーメイドラグーンに行ったのはあれはベースキャンプで見た夢だったんじゃないかという説が浮かびました。なるほど、一理ある。そう思ってみると、「インディアナ・ジョーンズ博士」「若さの泉」「ジャングル」「セニョール・セニョリータ」といったワードが次々と頭の中を駆け巡り、探検をする気分になったものです。高まる気分の中で、今日一日の旅のコンセプトが生まれました。
03:42:PM ソアリンでイマジネーションに目醒め、アメリカンウォーターフロントからPDへ行く、そこからロストリバー、マーメイドラグーンを経てメディテレーニアンハーバーへ還る。科学とファンタジーの戦いをミステリアスアイランドでくりひろげ、PDからウォーターフロントへかえる。科学の粋を集結した客船に乗り、そのライバルたるタワーオブテラーへ…
それは「ファンタジーとリアルの戦い」です。これは、東京ディズニーシーの非常に平易な問題でもあります。
ここからS.S.コロンビア号でのディナーを挟んで、ついに「タワー・オブ・テラー」で最終決戦というわけです。これも以前の記事で書いていますが、「ソアリン」と「タワー・オブ・テラー」は見事に対比したアトラクションです。ここで、「ソアリン」のスタンバイパスが朝イチになったことが響いてきましたね。あれは悪くない選択だったというわけです。
そうした流れを汲むと、ついに「イギリスの科学者」という設定が動き出します。先ほど紹介したロストリバーデルタのラジオは、「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー」の待機列でも短縮されて流れています。そして私は聞いてしまったのです。
……イギリスの考古学の専門家たちはこれを全面的に否定しました。グラハム卿は、「クリスタル・スカルは、人間が作ったものに過ぎず、超自然的な力など全くもっていない」との見解を発表。さらに、「ジョーンズ博士はハリウッド映画の見過ぎだ」とまで発言しています。それに対してジョーンズ博士は、「クリスタル・スカルを甘くみると大変なことになる。クリスタル・スカルの怒りを買うような真似だけは絶対にするな」という内容の電報を専門家たちに送ったということです。
そうそう、私がわざわざイギリスという国にひっかかる設定で動いていたのはずっとこのためだったんですよね。
4:00:PM かんむりょう!!
私もご満悦です。
アトラクション待機中にめぐる待機列のいくつかは、人間が無理矢理こじ開けたような穴を通ります。つまり、我々は神殿に招かれざる客として入っていくことになるわけです。
そうして、ジョーンズ博士に「クリスタル・スカルを怒らせたのは君たちか!」と叱られ、大立ち回りをすることになります。
そして、ここで朝に乗った「ソアリン」のことを思い出しました。「イマジネーションと夢見る力があれば、どこにでもいける」。実は、この「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー」の壁画や煉瓦はほとんど書き割りです。
実際に剥がれ落ちたわけではなく、実際は「剥がれ落ちたように」描かれた一枚の板(別日撮影)
このアトラクションの壁のレリーフなどはだいたいがはったりというわけです。私たちがあの世界にびびっている間というのは、あの世界のことをイマジネーションによって信じている状態。そんな隙だらけの作り物なのに、扱っているテーマは「クリスタル・スカルは実在する!」なんですね。「ジョーンズ博士はハリウッド映画の見過ぎだ」という台詞が好きなのは、あまりにも自己言及というか自虐が過ぎるからです。
私は考えました。まず、「ディズニーシー・トランジットスチーマーライン」を使用するとアラビアンコーストとマーメイドラグーンを経由することになり、要素の重なりが多くなります。そうすると、「クリスタル・スカルは、人間が作ったものに過ぎず、超自然的な力など全くもっていない」「ジョーンズ博士はハリウッド映画の見過ぎだ」という語調の強さからくる自責の念はぼやけてしまうでしょう。ユカタン半島の文明をここまでに追いやった人物がいたはずです。陽気な音楽も、最早耳に入りません。現地の文化として応援歌にも聞こえるし、敵の狼煙のようにも見えます。そういう複雑な気持ちを、どこにぶつければいいんでしょうか。鉄は熱いうちに打てといいますが、熱いうちに打つ鉄が必要です。熱い……?
9 ミステリアスアイランド(2)
熱いと言えば火山でしょう。
朝に訪れたミステリアスアイランドは、実はミステリアスアイランドじゃなかったんじゃないか? 思えば、「センター・オブ・ジ・アース」も「海底2万マイル」も、イタリア世界の延長としてしか捉えていませんでした。私はもういちど、ミステリアスアイランドと真摯に向き合う時がきたわけです。
私は、PDを経由してミステリアスアイランドへ向かいました。ネモ船長は、イギリスでも学んでいたはずですが、同時にイギリスをはじめとする国々をひどく恨んでいます。それは、小説でも映画でも、彼は列強の国に科学技術を出汁に迫害されてきた人間であるからです。
しかし、選ばれし科学者たる私には、地底世界のことを惜しみなく分け与えてくれます。そう考えると、今の私がこの怒りを向ける先は、ネモ船長と最早共にあるのです。
映画『海底2万マイル』で、潜水艦ノーチラス号に監禁されるアロナクス教授は、「ネモ船長の海の支配を羨ましく思った」とも発言していますが、ネモ船長の真意はそうではないはずです。海は全てを与えてくれ、自由を与えてくれるのです。
10 アメリカンウォーターフロント(2)
ここまでくると、最早、「いや〜〜大量生産ね〜〜」とか言っている場合ではありません。アメリカンウォーターフロントこそ、電化によって発展真っ最中の科学の都市であり、同時にクリストファー・コロンブスの銅像が堂々と掲げられる都市であります。ロストリバーやミステリアスアイランドの存在を見た後では、S.S.コロンビア号の雄大さも空虚なものに思えてしまうかもしれません。
04:57:PM 科学の粋を結集したこの船も、結局はホテル・ハイタワーと変わらないのではないか。成功と没落を分つのは衆聞(注:「大衆の噂」を意図した存在しない語)である。思えばシリキ・ウトゥンドゥの呪いというものもそういう類なのではないか それにしても、文化人然としているが、実際に学者が一人でコースを食うシーンはあんまり記憶にない。前菜は朝に読んだ「刺身はサラダ」が思い出される
一連の流れがあって緊張して入ったレストランだが、案外楽しめた。映画などで、人前だから銃を取り出せないけれどもお互いに牽制しているシーンなどがありますが、ああいう心持ちです。
シリキ・ウトゥンドゥの呪いの正体については、以前の記事で触れた通り。つまり、ホテルに集まる悪い噂やハリソン・ハイタワーの人柄こそが、あらぬ噂を流しており、我々にとってはそれが本当に見えてしまうということですね(ここで朝の「ソアリン」につながる)。
また、「刺身はサラダ」というのは『料理の四面体』から引用しています。ソースをつけたナマモノなんだからサラダと工程は変わらないという話だが、詳しくは同書を読まれたし。
加えて、ここで先程の「一店舗しかないチェーン店」のことを思い出しました。つまり、ピクサー映画『レミーのおいしいレストラン』なんかを見ても、本格的なコース料理を出すレストランはだいたい席数が少ないです。これだけ大きなサイズのダイニングでコース料理をまわすのはかなりマネージメントも大変でしょう。しかも、「そもそもここはコース料理レストランではなく遊園地」だということは忘れてはいけません。あるところではロボット技術を作り、別の部署ではタオルを製造し、あるときはアクターを雇ってショーをしている会社が、コース料理までてがけているわけです。そして、同時に「マゼランズ」と「S.S.コロンビア・ダイニングルーム」という複数のコース料理レストランを抱えているわけです。これが「一店舗しかないチェーン店」と考える所以で、ディズニーシーとしてみれば多分野に手を出しているが、パーク内には複数のレストランがマニュアルに則って動いている。
このことを強く感じたのは、レストランの席の配置によります。船の中のレストランであるここは、左右の廊下が高くなっていて真ん中がくぼんでいるわけですね。
ところで、私はディズニーシーでレストランに行ったとき、ついつい予定していないメニューを頼むときがあります。だいたい、キャストさんの対応に感激してしまったときです。いや、割といつも感激してはいるんですが、例えば「マゼランズ」で二種類のコースがあったら、安い方の予定で行っても席を案内されるまでの対応で恋に落ちたみたいになってしまって高い方にしたりします。
今回はそれほど目立つものではないですが、ジンジャーエールを追加してしまいました。どうやら、イギリスのジンジャービールなるものがオリジナルのようで。イギリス生まれ、アメリカ育ちをよろしくお願いします。
05:36:PM タワーオブテラーに間に合うか?と思いつつ、ふとほっとした、何で? 科学、学問何にしてもシンシでシャクゼンとしていれば、必ず振り向いてくれる人がいる。ディズニーシーとはそういう場所である。それはマジメであれというよりもむしろ楽しんで笑ってというのが本分なのであるが、まあ、入り口としてはよい
ここまで一日の中で、東京ディズニーシーで様々なことを想像してきた。しかし、それは例えば「カリブ海とユカタン半島はまあまあ近い」とか、「刺身はサラダ」とか、「マゼランは世界を一周した人物」とか、そういうことを知っていないと想像できないんですよね。東京ディズニーシーを通して学ぶというのはまさにそういうことで、物事の解像度を上げることでそれを滑走路にして更なる創造へと羽ばたくことができるわけです。そして、それをコース料理の店で考えるということは、個人的に繋がりがあって良いです。というのも、私は「高くて食材がちびちび載ったボッタクリ飯」に次のような役割を認めているからですね。特にディズニーパークによって、これはかなり大事な要素なのです。
そして、ここで恐れていたことが生じます。
「タワー・オブ・テラーのラインカット」です。70分待ちから減ることがなかったために、閉園1時間前には締め切りました。そのため、「マクダックス・デパートメント・ストア」でお土産を買って、当初の予定通り夜は「センター・オブ・ジ・アース」に乗ろうと思います。
11 ミステリアスアイランド(3)
06:16:PM タワーオブテラーのラインカットに安心すら覚えJttCotE(注:Journey to the Center of the Earth、「センター・オブ・ジ・アース」のこと)へ フォートレスとミステリアスアイランドの違いは何か? それはある種の姿勢、あるいは後世の持つひいき目か。
もし「タワー・オブ・テラー」に並んでいたら。そうしたら、シリキ・ウトゥンドゥの呪いに太刀打ちできない自身と人類を自覚してバッドエンドを迎えていたでしょう。
それならば、むしろ「センター・オブ・ジ・アース」でよかったのかもしれない。火山島に引きこもっているネモ船長が、よりによって科学を「分け与える」ということを教えてくれるのがおもしろいところです。そして、それはちょうどフォートレスがやっていることと同じであることにも気付きます。
結局、マゼランもコロンブスも一生懸命だっただけなのではないか。後世から見れば、確かに残虐だろう。絶対にあってはならないこともしてきたでしょう。それは事実。しかし、「科学の最前線を押上げ、国の利益のために未知の世界に漕ぎ出でていったのは」果たして悪なのでしょうかね。当時の世界観と今の世界観は大きく違うわけで、結局、私たちは21世紀の人間で21世紀の価値観で後出し裁判をしているに過ぎないわけです。そのことをよく思い知らされると同時に、大事なのはそこから我々が同じ轍を踏まないことなんだなあということを思い知ります。
そして同時に考えることとして、「センター・オブ・ジ・アース」の偉大さが挙げられます。今日は朝と昼と夜で3回(回数にして4回)は乗っているわけですが、毎度導入も違えば感想も違いました。朝にはイタリアの火山世界を覗き見るアトラクションとして。夕方には弱小民族の庇護者たるネモ船長の秘密基地として。
そして最後は、東京ディズニーシーで心と背中に負った傷を癒すセラピーとして。東京ディズニーシーにおいて、例えば「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー」では「ここは観光客の来るところじゃないぞ!」と叱られますし、今日は訪れるのが叶わなかった「タワー・オブ・テラー」も「二度と戻ってくるな」と忠告されます。そんな中で、唯一我々を受け入れてくれる場所は最早ミステリアスアイランドしかないのです。
「科学者諸君。ミステリアスアイランドへようこそ。私がネモである。優秀な科学者である諸君の業績は、勿論私も良く知っている。これから始まる地底世界への旅の中で、諸君は、私の人生をかけた研究の成果を見ていただく。そこはこれまで人類が決して知ることのなかった、比類なき美しさと調和の世界。然し諸君がこれから目にする驚異の世界の事は今はまだ秘密にしておいてくれたまえ」
「科学者諸君、私はネモである。諸君を選び、ここに招待したのはこの私だ。今から諸君には、地底に広がる実に不思議な自然の世界を見ていただく。それはこれまで人類の目には決して触れることのなかった驚異の世界。諸君はこれより、その恵まれた地底の未知なる生態系を目撃することになる。 しかしこれから諸君が知る事になる素晴らしい世界についてはけっして口外しないと約束してくれたまえ」
彼曰く、地上の文明との交流を拒む彼自身が我々をこの地底世界に招待してくれており、しかも「優秀」とまで言ってくれている。彼に限って、そんなことがあってよいものか……。
地球の中心と名前にあっては、流石に偉大だなあとしみじみ思い、やっぱり私が一番好きなアトラクションだなあと思いました。
12 閉園
ここまでで、物語はひとまず穏やかに終了します。おしまいです。でも、その後で私は大事なことに気づきました。というのも、私はディズニーシーのエントランスから退園した瞬間、とてつもない虚無感に襲われたのです。
なんでかというと、みんな幸せだからです。今日一日、色々なことがありました。少しスルーしたけれど、「アクアトピア」のところでこんなふうに書きました。
文字書きに夢中で列を止めてしまった。もうjkは叱れない…
現在のパーク運営では、黄色いラインの上につま先を置いて、間隔を空けて並ぶ必要があります。でも、若い子(??)ってえのはそんなの気にしないわけです。前の人にガンガン詰めてくるし、私の後ろにもガンガン詰めてくる。逆に、写真を好き勝手撮りながら進むので列がすすんでも移動しない。結構、そういうストレスがどっときたみたいです。
でも、結局、その子たちの写真は後でInstagramに上がるわけでしょう。たくさんの思い出の写真と一緒に日常生活に帰っていって、それで「また行こうね」と言って友達として深まっていく。カップルもそうです。夜のメディテレーニアンハーバーとかだと、めっちゃ良い感じの雰囲気になっています。キャリーケースを引いていく者、手を繋いでいく者、いちゃいちゃする者……。彼らはだいたい黄色いラインを守ってないんですが、でも、幸せなんですよ。
メディテレーニアンハーバーのホテルミラコスタから、ライトを振っている宿泊者たち。あれはけっこうまぶしいし、突然自我を見せられるので、個人的には好きではないです。でも、彼らの物語の中では欠かせない瞬間なんだろうと思うと、結局私は他人の人生の脇役に過ぎず、自分の人生を歩んではいないんだなあと思い知ります。そういう意味で、今日一日私が悩んできた物語ってのは壮大なようで思春期の夜に寸分違わない、青臭いものだったんじゃないかという気がしてきます。
東京ディズニーシーは当初、ティーンエイジャーと若年男性に向けたアドベンチャー色の強いパークだったと言われています。そこに、当時は株式会社オリエンタルランドの社長で現在は会長を務めている加賀見氏が「モア・ロマンティック」と指針を示したエピソードが有名です。私は、モア・ロマンティックを求めてディズニーシーに行き、みんながモア・ロマンティックであることを確認して、また独り身になって帰る。そういうことを繰り返しているわけですね。
東京ディズニーシーで「ニヒルな旅をしてみないか」。あの場所での物語はあの場所限りで、その後は虚無に襲われる。そういうのに皆さんはお気をつけくださいね。
こじつけの美学をこの街で
さて、今回の東京ディズニーシーでは、パーク内の施設と施設を組み合わせて物語を作り、そこに自分を当てはめて楽しむある種のロールプレイをしてきました。
しかし、その多くは「見立て」であったり、「ハッタリ」であったりします。つまり「こじつけ」です。「エビのしっぽとゴキブリは同じ成分」みたいな話で、「なら石原さとみと私も同じ成分じゃねえか!」みたいなものです。全然違うよ。
でも、それはそれでおもしろいと思うんですよね。
イタリアの思想家ウンベルト・エーコは現代のアメリカ大衆文化におけるリアリズムの過剰表現に鋭いメスを入れている者のひとりであるが、彼によれば、ロウ人形館とディズニーランドの違いは、前者が現実を忠実に再現しようとしているのに対し、後者は幻想を忠実に再現しようとしているところにある。
(『ディズニーランドという聖地』能登路雅子)
東京ディズニーシーにきて我々は、オリジナルの再現をする必要はないわけです。現実世界に生きる我々が、ある特定の特異点から「もしも」と想像していった世界こそ、東京ディズニーシーと言えるんじゃないでしょうか。「こじつける」「言い訳する」など、「そこに理由を見出す」というのはしばしば悪いことのように感じられます。でもそれだけではないはずです。例えば、仮に無作為に選ばれた二人が出会ったとして、全く共通点がないと言えるでしょうか? あるいは、全く綺麗に対照的な点がないと確信できるでしょうか? そこに意味を見出して想像を膨らませていけば、それが運命になり、物語になる。東京ディズニーシーとはそういうものなのではないでしょうか。もちろん、それはまったくの虚構かもしれませんが、そこで得た旅情というのは間違い無く本物でしょう。それをイデアとして遠くに見ながら、うんうんうなってまた日常に帰るわけです。あなたは、東京ディズニーシーでどんな「こじつけ」、あるいは「想像」をしますか?
全3回に渡るディズニーシーレポはこれでおしまいです。どうもお付き合いありがとうございました。
第一回▶︎『ニヒルな旅をしようじゃないか【ディズニーシーレポ①】』
第二回▶︎『ロールプレイをしようじゃないか【ディズニーシーレポ②】』
第三回▶︎『こじつけの美学をこの街で【ディズニーシーレポ③】』