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ディズニーランドが勝つ理由、負ける理由─西武園とハワイアンズを旅して気がついたこと

「西武園ゆうえんちが2021年にリニューアルオープンしてから一年以上が経過した」……という記事を書き始めてから、一年以上経過した。
東京ディズニーリゾートファンである私は、反感を抱くこともなく、むしろ西武園ゆうえんちに行きたい気持ちを募らせていた。しかし、訪れようという気力もまた持ち合わせていなかったのである(記事を書き上げる気力がなかったこともその証左であろう……)。

一年前の私は何故、突如として西武園ゆうえんちへ赴いたのか? 客観的な理由と私個人にかかわる理由の二つがあった。

外部的要因、すなわち西武園ゆうえんちそのものが持つ客観的な魅力について言えば、西武園ゆうえんちが「日本版ディズニーランド」としての側面を少なからず持っている可能性があったからである(そして、実際にそうだった!)
また……お恥ずかしながら、私はこれまで、東京ディズニーリゾート以外の「テーマパーク」を碌に訪れてこなかった。これが、私の内から出る理由である。東京ディズニーリゾート外のテーマパークを体験して初めて、東京ディズニーリゾートを客観的かつ相対的な視座から見ることができるだろう……と、ファンとしての私は考えていた。しかし、最初の挑戦者に見合うテーマパークは、帯に短し襷に長しで見当たらなかった。関東圏に住んでいる私にとって、TDRの好敵手となりうるUSJは遠く、また、その他のテーマパークが果たして「テーマパーク」の体を成して運営されているかということに関して私は疑問を持っていた。西武園ゆうえんちは、そんな私の希望に正にフィットするテーマパークだったのだ。

では、何故一年間も放り出していた記事の続きを今更書いているのか?
そのことを説明するには、別のテーマパークを俎上に上げねばならない。西武園ゆうえんち訪問からおよそ一年後の今……私は21歳の誕生日を迎え、スパリゾートハワイアンズに来ていた。
2000年代前半に生まれ、テレビを観て育った世代から見ると、スパリゾートハワイアンズは明らかに「人生のゴール」だった。15秒のテレビCMを観て、そのCMに登場する子供が「ハワイアンズに連れてって!!」と熱狂(発狂?)しているのを見て、自分も同じようにした記憶がある。ハワイアンズに行くことを思いついた瞬間から、私の頭の中には当時見た楽園のイメージが浮かんでいた。

そして、実際にハワイアンズで遊んでみた結果、私はここでの経験と西武園ゆうえんちの思い出を重ね(そしてこの記事の存在を思い出し)た。
そして考え至ったのは、それでもなお、私がTDRに行きたいと思ってしまう理由である(書き留めておくと、ハワイアンズ行きの時点で、既に別のTDR旅行計画が組み立てられていたからでもある)。

前置きが長くなったが、この記事は、「一介のディズニーパークオタクが、何故ディズニーパークに固執するのか」を自ら解説するものである。
あくまで一個人の意見としてお楽しみいただければ幸いである。


テーマパークとは何か

テーマパークとは、特定のテーマにより「テーマ化」された遊園地である。この「テーマ化」はアラン・ブライマンが『ディズニー化する社会─文化・消費・労働とグローバリゼーション』で提唱した言葉だ。
彼によれば、「テーマ化」とは、「ナラティブ(物語)を組織や場所に適用することで成り立っている」ものである。「テーマ化によって対象の物体に意味を吹き込むことで、実際よりも魅力的で興味深いものに変えると考えられる」のである。

例えば東京ディズニーランドであれば、未来をテーマにした明日の国「トゥモローランド」や、御伽噺をテーマにした幻想の国「ファンタジーランド」などが存在し、それらの束が「東京ディズニーランド」である。
例えば、東京ディズニーランドではひとつのアトラクション体験が特定の「ナラティブ(物語)」により演出されている。「ビッグサンダー・マウンテン」は西部劇や金鉱山の採掘をテーマとしたジェットコースターであるが、言い換えれば、「ジェットコースター」でありながら「西部の金鉱山」という「意味」を与えられているのである。

ビッグサンダー・マウンテン(東京ディズニーランド)

また、これは他のレストランやショップにも同様である。
東京ディズニーシーのレストラン「ザンビーニ・ブラザーズ・リストランテ」を挙げるのが最もわかりやすいだろう。このレストランは「メディテレーニアンハーバー」というエリアに位置し、その名の通り地中海世界がテーマとなっている。ある港町を整備するのに一役買った大地主・ザンビーニ家のワイナリーを改装したものとして演出されているのである。ゲストはここで、オリーブの圧搾施設や葡萄畑を眺めながら、採れたてオリーブのオイルを使ったパスタを食べたり、ワインの原産地で“地ワイン”を楽しんだりというような観光経験ができるのだ。
このエリアに登場するレストランはいずれもイタリア・スペイン・ポルトガル・あるいは大航海時代を中心とした物語を持っており、この「テーマ」の中に包摂されている。

ザンビーニ・ブラザーズ・リストランテ(東京ディズニーシー)

西武園ゆうえんち

2021年、西武園ゆうえんちは大幅な施設改修を行い、「夕日の丘商店街」をベースとした大規模なナラティブを導入した。テーマは「昭和の日本」であり、特に「昭和の熱気」や「コミュニティー愛」である。USJを立ち直らせ、西武園ゆうえんちのリニューアルを企画した森岡毅氏は、「個人主義の西洋文化から生まれたディズニーにおいては、コミュニティー愛はそれほど強く前面に出てこない」「コミュニティーの良さっていうのは、日本人の琴線に触れるユニークな要素なんです」と発言している(実際にそうなのか、という点については後述する)。

戦後が終わって、高度成長真っ只中のあの時代。本当にあのときにそういう理想的なコミュニティーがあったかどうかは実は多くの人がわからない。でも、少なくとも今の人たちは、その時代にそれがあったと信じてるんですよ。

なぜ西武園ゆうえんちに「昭和の街」が生まれたのか? | 苦しかったときの話をしようか | ダイヤモンド・オンライン

彼はまた、「すでにある観覧車とかメリーゴーラウンドとかを潰すよりも活用するほうがだいぶコスト的に都合がよかった」ことなどを語り、1950年の開業から永く親しまれてきた西武園ゆうえんちが持つ「リアル」を逆手に取った戦略であったことを明かしている。

「夕日の丘商店街」は、昭和の日本の商店街をイメージしたエリアであり、東京ディズニーランドの「ワールドバザール」さながらである。
東京ディズニーランドの「ワールドバザール」は、ウォルト・ディズニーをはじめとしたアメリカ人にとっての「懐かしい商店街」なのだ。フロンティアが消失し、二度の世界大戦を未だ経験していない安寧の時代……、20世紀初頭の蒸気機関車駅前には、人々の和気藹々としたコミュニティが築かれていた。
そういった意味で、森岡氏が言うようにディズニー世界には「コミュニティー愛」が「それほど強く前面に出てこない」かといえば、そういうわけではない。しかし、日本人にとって「昭和の日本」は、同じような立ち位置を占めているのだというのが、彼の指摘の本旨である。たしかに、戦後の復興に向けて皆が一致団結し、コミュニティとして成長し続けた「古き良き時代」というイメージがある。

「夕日の丘商店街」の建物は二階建てで──おそらく、一階が店舗で二階に住居があるのだろう──そこにはさまざまな店舗が入っている。これは「ワールドバザール」とも共通する要素だし、商店街をおおうようにガラスの屋根がかけられているところも同じ。ワールドバザールの「ホームストア」がキッチングッズを、「タウンセンターファッション」が衣服やさまざまななりきりグッズを扱うのと同様に、「青果 八百八」は漬けきゅうりの“レストラン”であり、「おみやげ萬屋雑貨店」は商店街内でほとんど唯一のお土産店である。
西武園ゆうえんちにはかつて複数の入園口があり、どこからでも入園できるしくみだったようである。現在の入り口はひとつに統一されているから、これもウォルト・ディズニーがディズニーランドの入り口をひとつに統一しようとこだわったことに符合する。これは、各施設が物語を持つ都合上、すべての来園者の物語の開始地点を統一する目的があったようである。西武園ゆうえんちは入り口を統一することで、遊園地からテーマパークへと完全に変貌したと言える。

映画を途中から見たのでは、ストーリーの流れがわからないというのが、彼の考え方であった。どの客にも同じところから入場させ、ディズニーランドでの一日をひとつのまとまったストーリーとして演出したいと願った映画製作者ディズニーにとり、入園者の動きと方向感覚は、設計上の最大のポイントであった。

能登路雅子『ディズニーランドという聖地』35ページ
ワールドバザール(東京ディズニーランド)
夕日の丘商店街(西武園ゆうえんち)

もちろん、異なる点もいくつかある。
西武園ゆうえんち最大の特徴は、リニューアルに際しオープンした「夕日の丘商店街」で行われる「エンターテインメントショー」であろう。いわゆる東京ディズニーランド・シーの「アトモスフィアショー」が(執筆現在)12個行われており、しかも各公演は1日3回から4回ほどある。「荒物屋 健次」のドラムショー、「八百屋 ヤオハチ」の叩き売り、そして商店街の全員が集って行われる「夕日丘住人大集合 商店街名物 ブギウギ祭」。どのショーも、「商店街の住人との立ち話」や「商店街の恒例イベント」テイで行われていて、すべての住人が園内のどこかしらの施設と結びついている(例えば、ヤオハチは「青果 八百八」におり、この店の前でショーを行う)。

また、徹底したテーマ化も特徴だ。来園した客はまずはじめに、日本円を“西武園”に換金しなければならない。園内のすべての取引がこの“西武園”通貨で行われるからだ。これは、昭和の当時の物価を再現するだけでなく、東京ディズニーリゾートが「パスポート1枚でアトラクションには乗り放題」であるのと同様、遊びの空間から金銭を追放する効果もある。
また、園内地圖(ガイドマップ)は新聞の形式を取っており、一面には期間限定の催しや新規オープンした施設、目玉アトラクションなどが宣伝されている。しかも、西武園通貨は「夕日丘郵便局」で、園内地圖は「亀山新聞舗」という新聞屋で手に入れるということになっている。もちろん、他の入手ルートもあるが、それぞれ一工夫が加えられてるのが特徴だ。東京ディズニーシーのレストラン「カスバ・フードコート」にはかつて、近しい制度があった。レストランは“複数の建物が並ぶ市場”として設計されており、それぞれのカウンターには“店名”が表示されていて、正に「フードコート」として機能していたのである。"Noodle Charmer"(現在の1・2番レジ)ではかた焼きそば、"Flying Carpet Curry"(現在の3〜6番レジ)ではカリー、“ROYAL TANDOR"(現在の7・8番レジ)ではタンドリーチキン、という具合である。複数の食事を希望するゲストは、一度商品を受け取った後で、別のカウンターに並び直さなければいけなかった。同様の演出は、先に紹介した「ザンビーニ・ブラザーズ・リストランテ」にも見られた。三つあるカウンターで、三兄弟が各々の得意料理を振る舞い競い合っているという設定だったからだ。

こうした点は、東京ディズニーリゾートが試みてあまり浸透しなかった取り組みであると言えよう。東京ディズニーリゾートが発行するギフト券は園内のみで使用でき、ミッキーマウスやドナルドダックの肖像画をデザインしたものだが、今日使用している人はその日パークにいる人の1%にも満たないだろう。だいたいみんなSuicaやQUICPayやiDといったキャッシュレス決済だ(これまた一周まわって金銭から解放されているが!)。カリフォルニア州のディズニーランドやフロリダ州のディズニーリゾートでは"Disney Dollars「ディズニー・ドル」を使用できるが、2016年以降は新規発行を停止している。
また、東京ディズニーリゾートのマップは(探索して道中も楽しんでほしいということで)意図的にわかりにくく描かれているという噂もあったが、今は皆、東京ディズニーリゾート・アプリを使用していそうだ。位置情報がマップ上に表示されるから、園内を“迷うことなく”楽しめる。
そして、現在の「カスバ・フードコート」や「ザンビーニ・ブラザーズ・リストランテ」では、どのカウンターに並んでも同様の商品が購入できる。

西武園通貨(西武園ゆうえんち)
園内地圖(西武園ゆうえんち)
カスバ・フードコート(東京ディズニーシー)

スパリゾートハワイアンズ

1983年に開園した東京ディズニーランドの成功を受け、株式会社オリエンタルランドとディズニー社は、舞浜全域をリゾートとして開発する計画を実行に移す。そして2000年には商業施設「イクスピアリ」を、翌年にはテーマパーク「東京ディズニーシー」を開園させ、それに伴って「ディズニーアンバサダーホテル」や「東京ディズニーシーホテルミラコスタ」をオープンさせた。肥大化したエリア内の各施設を繋ぐのがモノレール「ディズニーリゾートライン」である。こうして生まれたビジネスネットワークを「東京ディズニーリゾート」と呼び、当時のオリエンタルランド社はこれを「テーマリゾート」と標榜した……。

だが、そうしたテーマリゾートは、東京ディズニーリゾートの遥か前に存在していた──スパリゾートハワイアンズである。
スパリゾートハワイアンズの前身である「常磐ハワイアンセンター」は、「ハワイをテーマに温泉を活用し、勤労青少年に健全娯楽を提供する」ことをコンセプトに1966年にオープンした。東京ディズニーリゾートの35年前、東京ディズニーランドの17年前である。
ここではかつて石炭採掘が行われていたが、毎分110トンにもおよぶ温泉が噴出し、これが当時の人々を悩ませていた。ここにオープンしたのが「常磐ハワイアンセンター」であり、その後は数年おきに新たな施設を導入して多くの人を魅了した。平成2年すなわち1990年には、「ウォーターパーク」と並んで今も残る大規模施設「スプリングパーク」をオープンさせ、さらに名称を「スパリゾートハワイアンズ」と改めた。この軌跡からして、スパリゾートハワイアンズは言わば、日本における東京ディズニーランドの大先輩なのである。こうした歴史はリゾート内の連絡通路にある展示から自然と理解することができた。東京ディズニーリゾートのディズニーアンバサダーホテルが、ウォルト・ディズニーのビジネスの歴史を展示と共に紹介しているのと同様である。

リゾートは、プールや温泉を楽しめる複数のテーマパークとまた複数のホテルで構成されている。高低差と滑走距離では日本一のボディスライダー「ビッグアロハ」、複数のウォータースライダーやプールから成る「ウォーターパーク」、さまざまな温泉施設を楽しめる「スプリングパーク」、加えて「スパガーデン パレオ」と「ウィルポート」、そして江戸の温泉旅館をテーマとする「江戸情話 与一」。
チケット一枚ですべてのパークを利用でき、各パークは連絡通路で繋がれている。また、ホテルもほとんど直通している。

江戸情話 与一(スパリゾートハワイアンズ)

そもそもスパリゾートハワイアンズは鉄道でのアクセスを前提としない福島県いわき市に存在し、高速道路から自家用車なり無料シャトルバスなりで訪れることになる。日帰りの想定されていない環境で、都会の喧騒を忘れてゆっくりと寛ぐことができるというわけだ。

(ちなみに、ハワイアンズといえばフラダンスのショーだが、今回は鑑賞していないためスルーする。悪しからず)。

割高ですよ、ディズニーランドさん

突然だが、近年、東京ディズニーランドおよびシーの評判は下がり調子である。それは、ファンから見て価格と提供される価値が反比例の関係にあるからだ。具体的には、フードメニューの値上げとサイズ縮小、グッズの値上げと平均化(どこでも買える化)、チケット価格の値上げとエンターテイメント公演数減少……が次々と行われている。
とりわけ2020年以降、ディズニーパークファンのコミュニティでは大規模な脱ディズニーパーク現象が発生している。具体的にはUSJ以外にもサンリオピューロランドや西武園ゆうえんちの名前が挙がる。

2001年に関西の大型テーマパークとして登場したUSJならばまだしも、サンリオピューロランドや西武園ゆうえんちといった、関東圏の小規模テーマパークの名前が見られるのは何故だろうか?
無理やりに言語化すればそれは、彼らが“十年前のディズニーパーク”と同じクオリティでエンターテイメントを行っているからだ。

西武園ゆうえんちのエンターテインメントショーが東京ディズニーランドおよびディズニーシーのアトモスフィアショーに似ているという話を先に述べた。アトモスフィアショーの魅力は、演者がステージに上がらないこと──すなわち、ゲストと同じ目線で接してくれることである(「アトモスフィア」=「空気」だからね)。
2001年にオープンした東京ディズニーシーのワンデーパスポートは5,500円だったが、当時のパークではどうやら合計26のアトモスフィアショーがあったようである。それが、2019年時点では、チケット価格7,500円に対して6組しか登場していないのだ。2016年、東京ディズニーランドは新たに9のアトモスフィアショーを追加しているが、2018年にはその半分の5つが終了している。現在、当時追加されたアトモスフィアショーはひとつも残っていない。
これらのアトモスフィアショーは単なる大道芸であったわけではなく、もちろんディズニーパークのショーとして各エリアにふさわしいものが公演されていた。美しい大理石の彫像……が突如動き出す「リビングスタチュー」は、東京ディズニーシーの地中海をイメージしたエリア「メディテレーニアンハーバー」に存在した。「ワイルドウエストチャンス」のショーは、西部劇をテーマとする「ウエスタンランド」で行われ、保安官と共に詐欺師を捕まえるストーリーであった。こうしたショーが同時多発的に行われ、テーマパークの「テーマ」を引き立てていた。日常ではあり得ない距離でのライブを提供しながら、テーマパークの物語をたんなる作り物にせず、生きものにしていたのだ。
こうした視点から、西武園ゆうえんちのコストパフォーマンスを見てみよう。西武園ゆうえんちの大人用1日チケットは4,900円であり、12組によるエンターテインメントショーが常にどこかで行われている。そして彼らは園内のさまざまな施設の“住人”であるから、演出された架空の商店街を“ホンモノ”のように見せかける機能を果たす。
以上の点から西武園ゆうえんちは、かつての東京ディズニーシーには追いつけなくとも、現在のディズニーシーを大きく上回る魅力を放っていると言えるだろう。こうした背景があるからこそ、東京ディズニーのアトモスフィアショーを愛していたゲストが、ディズニーパークのアトモスフィアショー削減を背景に「民族移動」してきたと言えるのである。そして、こうしたことがディズニーパークのありとあらゆる分野で発生していないか、と分析できる。

コストパフォーマンスという点では、スパリゾートハワイアンズも負けてはいない。
東京ディズニーリゾートのディズニーホテルを見ると、東京ディズニーランドホテルは東京ディズニーランドへ、東京ディズニーシー・ホテルミラコスタは東京ディズニーシーへ、そしてディズニーアンバサダーホテルは商業施設のイクスピアリへとそれぞれ直結している。いわゆる「夢の続き」を売りにするこれらのホテルは、安価なスーペリアルームで約5万円から、最高値では50万円という部屋もある。これに加えて、ホテル宿泊者はパークチケット(入場券)の購入確約がついている。市場でチケットが完売していても確実に購入できる……のだが、言い換えれば別途料金がかかるということだ。
他方、スパリゾートハワイアンズのホテルは一室約2万円から3万5千円程度である……こう聞くと安いようだが、これは大人1人分の料金だから、実際は高価なようだ……と思いきや、実はここには上述6パークの入園チケットが含まれており、東京ディズニーリゾートと違ってチケットを購入する必要がないのである。やはり安いのだ。リゾートまでのシャトルバスが無料で運行されている点も、魅力的である。
また、しょ〜〜〜もない比較をすると、東京ディズニーリゾートやJR舞浜駅のコインロッカーは200円から大きなものでは800円のものなどがあるが、コインは返却されない。
一方、スパリゾートハワイアンズ内のコインロッカーのうち400円以上の大きなものでは、「終了ボタンを押すまで何度でも出し入れでき、100円が返ってくる」というものもある。また、舞浜リゾートの自動販売機はキリのいい200円で500mlペットボトルを販売しているが、スパリゾートでは180円と市場価格だった(それでも高価だが……)。
スパリゾートハワイアンズの方が、何かと小銭が浮くのである。

それでもディズニーを選ぶ“単純な理由”

こうした点から、ディズニーパークはかつての輝きを失った……と、考える人のことも理解できる。無理のない、むしろ正しい主張である。

しかし、私はそれでもやはり、ディズニーパークに行きたいと思う。そして、東京ディズニーリゾートを訪れたいと思う。

これ、私にとってはとても不思議なことであった。何故ならば、私はこれまで、「私自身はディズニーパークに『テーマパークとしての完成度の高さ』を求めている」と考えていたからだ。細部まで作り込まれた建造物、タイムスリップしたかのような統一感、映画で見た空間やシーンの再現、綿密で驚きに溢れたストーリーテリング……こうしたものである。

だがしかし、建造物のストーリーやストーリーテリングといったハードが好きであるというのはある意味で、「その施設が建てられた時代のディズニーパーク」が好きであるということだ。私は「センター・オブ・ジ・アース」の生まれた2001年の東京ディズニーシーが好きであり、「ビッグサンダー・マウンテン」の生まれた1987年の東京ディズニーランドが好きなのだ。

そうした意味で、現在のディズニーパークは、過去以来の貯金を切り崩しているに過ぎないのかもしれない。
しかし私は、ディズニーパークと同等の完成度が西武園ゆうえんちやスパリゾートハワイアンズにも溢れているということを知った上で、それでもやはり(老いぼれた)ディズニーリゾートを選んでしまうのである。

それは何故だろうか、答えは単純だ。
「施設がめちゃくちゃ綺麗だから」である。

先に述べた西武園ゆうえんちの戦略を思い返してみると、それは「昭和の遊園地であることを逆手に、昭和の熱気をテーマとしたテーマパークに改造してしまう」ことであった。もちろん、その試みは成功している──「夕日の丘商店街」においては。
西武園ゆうえんちは、エントランスを通り抜けて正面に広がる「夕日の丘商店街」を日本人にとってのメインストリートU.S.A.に仕立て上げているが、それ以外の園内はあまり手をつけられていない。実際は、古くから存在したアトラクションに商店街の住人が実況をつける「漫談ライド」という試みが行われているのだが、なにせゆうえんち自体が広大であるため、うまく統一的なテーマ展開が行き届いていない(ように見える)のである。
これに倣うように、整備されていない(自然のまま、というよりは単に歩き易さを損ねる)木々や、新エリア以外の箇所にある食堂や化粧室の古さにも目が向いてしまう。

また、スパリゾートハワイアンズに関しても同様である。リゾートはプールや温泉を主商品としているが、水を扱った施設は維持が非常に困難である。また、長年使用されており色ハゲなども多い。
このリゾートは、日本人の中で理想化された観光地であるハワイが舞台である。ところが、プールサイドで食事をしようとしたとき、例えば塗装が剥がれていたり、どこかに錆があったり、床にヒビがあったりすると、老朽化が際立って残念に感じられてしまうのである。

これらに共通するのは、テーマパークが「理想」をウリにしているということだ。西武園ゆうえんちならば「昭和の時代に存在したであろう熱気あふれるコミュニティ」、スパリゾートハワイアンズであればハワイという「常夏の楽園」を人工的に創り出している。森岡氏の言葉を借りればこれらは、「本当に(略)あったかどうかは実は多くの人がわからない」が、「少なくとも今の人たちは、(略)それがあったと信じてる」ものである。
だから、西武園ゆうえんちが提供する「夕日の丘商店街」に客(というか私)は一度は感動するけれども、他の遊具を見て「こういうことじゃないなあ」と思うのである。それは、「リアル」を求めておらず、「今の人たちが信じる昭和のコミュニティ」を求めているからである。同様、ハワイアンズを訪れる客(というか私)が求めているのは、CMの中に見た「人生のゴール」なのである。実際に行ってみれば、そこにあるのは「ウォーターパークの管理の難しさ」と「温泉成分による錆との戦い」である。

他方、東京ディズニーリゾートはこうしたことがないようにと、あまりにも異常な執着をしている。
過去に作ったものを壊して新たに作り直しているのは想像に難くない。また、各施設が適度に休止期間を設け、施設の改修や塗り直しを行なっている。
以下に示すのは、東京ディズニーシーのアトラクション「ニモ&フレンズ・シーライダー」のドームである。2022年7月から12月の間に塗り直されており、色褪せがなくなって綺麗になったことがよくわかるだろう。

7月のニモ&フレンズ・シーライダー(東京ディズニーシー)
12月のニモ&フレンズ・シーライダー(東京ディズニーシー)

また、新たなサービスや設備の登場により作り加えるものを、敢えて過去のデザインに寄せていたりする。10年ぶりに再開したドラマやアニメのシーズン2で、役者が過去の役を呼び覚ますようにである。
東京ディズニーランドのトゥモローランドに2022年に新たに設置された自動販売機は、1989年に建設された一連の施設と同じ様式を使用している。具体的には、「スター・ツアーズ」と同時にオープンした「アストロゾーン」というミニエリアに属していて、液晶画面でなく電光掲示板を使用した、元素記号をモチーフとしたデザインである。

パン・ギャラクティック・ピザ・ポート(1989、東京ディズニーランド)
自動販売機側面(2022、東京ディズニーランド)

西武園ゆうえんちが昭和のライドと令和のテーマパークをうまく統合できなかったのと対照的に、東京ディズニーリゾートは昭和の時代に作ったものと令和に作ったものをうまく共存させている。

こうした点に対するディズニーの気の配り──つまり、その施設の古さを感じさせない若作り、同じエリアへ新入りを馴染ませる配慮は凄まじいものである。
このことから、東京ディズニーリゾートは40年の歴史を持ちながら、同時に園内で遊ぶゲストにそのことを感じさせない場所として成立するのである。

SCISEのS

では、どうしてディズニーはそこまで執着するのだろう?
その理由は、ディズニーリゾートで採用されている判断原則の一つ、SCISEというものに収束するだろうと私は思う。
つまり、Safety「安全性」は一番であり、Courtesy「礼儀」、Inclusion「インクルージョン」、Show「ショー」、Efficiency「効率性」を差し置いているのである。

ディズニーパークのカストーディアルキャストは、言うなれば単なる「清掃員」であるにも関わらず、その語はcustody「保管、管理、保護」からきている。ある意味で、園内の清潔さや潔癖さは「安全の保護」に繋がっているのである。
例えば、錆びついているトイレを出た後で、そこに備え付けられた手洗い場を利用できるだろうか。レストランの壁面や床のタイルが剥がれ落ちていたら、食事を楽しめるだろうか。「利用できる」「楽しめる」という人もいるだろうが、一切躊躇しないという人はどれくらいいるだろうか。少なくとも私自身はそう感じてしまう(流石に手は洗いますけどね)。

ディズニーファンの間ではよく、近年のディズニーパークが効率主義的である(つまりSCISEのEが先頭に来てESCISになっている)と指摘する。それは例えば、異国情緒のあった陶器の食器をレストランの雰囲気にそぐわない紙の食器に変えたり、施設のオペレーションを簡略化したりと、ShowよりもEfficiencyが優越しているという主張になりがちである。また、アトラクション運営時のキャストの態度は高圧的であることが多く、CourtesyよりもEfficiencyが優越していると映る場面もある。
それらは必ずしも無理のない主張ではないが、私個人は、これをディズニーパークのSafetyに対する姿勢が生んだ対応の変化とも解釈できると思っている。陶器の皿を積んだトレーの運搬はキャストに大きな肉体的負担を強いるし、ゲストに運ばせることは食器破損のリスクを伴う。キャストの態度が高圧的なのは、安全バーの不備などによってアトラクション体験者が怪我をする恐れがあるからで、また少しでもリスクがあればシステム調整が発生して多くのゲストをがっかりさせる可能性もあるからである。

積み上げた信頼、切り崩すもの

以上の内容は一行でまとめれば、「ディズニーランドは綺麗だから好き」という、まあそういう程度の話なのだが、わざわざ一つの記事にしたのにはわけがある。

それは、「東京ディズニーリゾートを選び続ける理由」とはもはや最後の砦のようなものであって、このことに個人的に危機感を持っているからである。
西武園ゆうえんちやスパリゾートハワイアンズのような古くからある施設がテーマパークとしてアップデートされ、クオリティや体験価値では東京ディズニーリゾートに並ぶほどになっている。しかし、それでも東京ディズニーリゾートが圧倒的なシェアを獲得しており、数多くのリピーター層を獲得しているのは、たぶん、東京ディズニーリゾートが特異なまでに“潔癖”だからではないかと思うのだ。先にも書いた通り、2023年に開園40周年を迎えた東京ディズニーランドが、また、2021年に20周年を迎えた東京ディズニーシーが未だにこうした状態を保っているのは、あまりにも異常なことなのである。
そして、どうしてこうした(異常な)状態になっているかといえば、東京ディズニーリゾートのテーマの中に“Safety”が組み込まれているからではないかと思うのだ。

しかし、それは同時に、東京ディズニーリゾートの帝国が信頼の上に成り立っていることもまた意味している。「ディズニーに行けば(それなりに)楽しいはずだ」「ディズニーであれば嫌な思いをしないはずだ」という信頼が、ディズニーパークを王者たらしめているのではなかろうか。
そして、上述の分析が正しければ──この理由(すなわちディズニーランドの“潔癖症”)すら解消されてしまえば、積極的に東京ディズニーリゾートに行く理由は存在しないことになる。

近年、ディズニーパークについて聞く話題は賛否混じったものである。アトラクション「ベイマックスのハッピーライド」がダンスミュージック風のBGMを使用したことを受け、SNSではアトラクション周囲でダンスすることが流行している。彼らを歓迎する人もいれば、邪魔だと感じている人もいる(事実、通行の妨げになっていることもしばしばである)。また、向上しつつあるキャストの待遇だが未だブラックなイメージを持つゲストも多いだろう。親切でゲストと視線を合わせるキャストが輝いている一方で、笑顔がなくどこか疲れたようなキャストに出会うことも多い。
そもそも、冒頭で指摘した「テーマ化」の技術においてディズニーは一級の腕を持っているが、この腕が鈍っていると指摘する声もある。記事内で紹介したアトモスフィアショーの減少、レストランの食器類をはじめとして独自のデザインを採用していたソフトのデザイン統一などはその氷山の一角である。
2016年、東京ディズニーシーのアトラクション「ストームライダー」がクローズしたことで、ポートディスカバリーというエリアのコンセプトが全面的に書き換えになった。この事実がオタク層に限らない多くのゲストに悲しまれていることが、YouTube上にある「ストームライダー」関連動画のコメント欄からも読める。
「タワー・オブ・テラー」と「ソアリン:ファンタスティック・フライト」の内容に共通点が見られることは過去の記事でも書いたが、2006年に開業した前者と2019年の後者では、アトラクションの舞台である「ホテル・ハイタワー」および「ファンタスティック・フライト・ミュージアム」に与えられた奥行きが段違いである。東京ディズニーシーらしさあふれる「ソアリン」ですら、こうした消化不良に悩まされているのである。

「ホテル・ハイタワー」のダイレクトリ
「ファンタスティック・フライト・ミュージアム」の見取り図

「ホテル・ハイタワー」にある「オリンピック・レストラン」は、ゲストが訪れることのできない施設で、メニュー表などからあれこれ料理を想像することしかできない。また、ホテルの2階以上を徒歩で訪れることもないため、「アレクサンドリア図書室」や「アステカ・ゲーミング・ルーム」や「日光浴室」、さらには「探検家クラブ集会室」「ハイタワー博物館」といった施設には一切立ち入らない。名前すら視認できなくとも、少なくともホテルに謎の施設がたくさんあることがわかるだけで、わくわくするものである。
他方、「ファンタスティック・フライト・ミュージアム」には「鳥類展示室」への入り口があるが、それ以外の部屋はすべてゲストが通る部屋である。これでは、施設の未知の部屋を想像する余裕がなくなってしまうし、また、博物館としてあまりにも規模が小さいであろうことが意識されてしまう。
こんなしょ〜〜〜〜〜〜もないことを気にしているのは、ごく一部のファンだけである。しかし、いずれその程度が無視できない規模になれば、大多数のゲストも目を疑うだろう。そうなったとき、東京ディズニーリゾートの信頼は残っているだろうか?

この記事は、2022年8月4日から約1年かけて書き上げた。あ〜書けてよかった。
私はこれからも、東京ディズニーリゾートに通おうと思う。かつてかけられた魔法が、守られる限り。

参照

『東京ディズニーランド® 9つの新規アトモスフィア・エンターテイメント6月16日一斉スタート』2016年6月15日(最終アクセス:2023年8月27日)

『【公式】アトモスフィア | 東京ディズニーランド』(最終アクセス:2023年8月27日)

『【公式】祝!本日、東京ディズニーシー17周年!|東京ディズニーリゾート』2018年9月4日(最終アクセス:2023年8月27日)


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