写真を撮らせてもらっていいですか
20歳前後の頃、わたしは知らない人に声をかけられるタイプの人間だった。
リュックのファスナーが開けっ放しで、「お姉ちゃん、カバンの中身丸見えや!」と声かけられたことは数知れず。
赤信号なのに渡りかけて、「お姉ちゃん!赤や!!」と引き止められたことも数知れず。
ぼうっとした、だらしのない人間であることは、お分りであろう。
ある時電車に乗っていたら、隣に座っている20代半ばくらいの男性がこちらを見ていることに気がついた。
しかし気のせいと思い途中で下車すると、彼も一緒に降りてきて、控えめにこう声をかけてきた。
「あの、すみません。写真、撮らせてもらえませんか?」
手には一眼カメラを持ち、少し緊張している面持ちだ。
勇気を振り絞って声をかけてきたのだろう。
わたしは考える間も無く、
「嫌です」と、はっきり答えた。
彼は一瞬あわてふためき、
「、、、そうですよね(苦笑)、すみません、、」
と、落胆した背中を見せて去っていった。
わたしは20歳前後、眉間にしわをよせて、いつも何かに怒っているような人間だったので、声をかけた人間が悪かったとしか言えない。
しばらくして、自分も写真を街中で撮るようになった時、いつも撮りたい被写体はおっちゃんやおばちゃんであった。
世間話をしながら、ぱっと撮ってしまうので、お互いに緊張感はまるでない。
昔のわたしのような、ツンツンした女子を撮りたいとも思わないし、声をかけるにも相当勇気がいる。
そう思うと、声をかけてきた彼は、相当な緊張感だったんじゃないだろうか。一か八かである。
そして20の小娘に、睨みつけられながら、「嫌です」なんて言われてしまう始末。
立ち飲み屋でビールをあおるしかないだろう。
そして時を経て、子を産んでからは、「そのターバンすてきね、よく似合ってるわ〜。で、あんたなに人?」とおばちゃんに声をかけられるか、道を聞かれるかの、どちらかである。
2018.4.5『もそっと笑う女』より
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