西加奈子とさっちゃん
わたしと作家、西加奈子との出会いは、12、3年ちょっと前になる。
職場仲間の’さっちゃん’が、なぜか急に西加奈子を勧めてきたのだ。
さっちゃんはいつも個性的な格好をしていた。頭からつま先まで真緑で統一したファッションや、番長風のスカートやエスニックなワンピースを奇抜に着こなしたりする。
「友達と二人でメキシコに旅行した時な、あたしたちの格好が面白いのか、メキシコ人たちにめっちゃ写真撮られたねん」と言うほど、カラフルな街並みでも目立ってしまうほどの個性を放つさっちゃんは、いたってまっすぐな性格で健やかだ。
その日さっちゃんは、ふいに一枚の雑誌の切り抜きを見せてくれた。
「この人な、同じ大学の先輩やねんけどな、めちゃくちゃ本おもしろいの。この記事を見て読んでみようと思ったのがはじまりやねん。この本の中に「さっちゃん」って子が出てきて」
出身大学が同じ、本の中に自分と同じ名前がでてくるという共通点で、さっちゃんは西加奈子に興味を持ち、今では新刊が出るたびに購入しているという。
わたしが本好きでもないし、本の話題をしていたわけでもない。なんならさっちゃんとの共通点はほとんどない。同じ職場というだけ。
なのにさっちゃんは西加奈子をえらく推してくる。
「へえ、、読んでみたい」とつぶやくと、さっちゃんは満面の笑みでこう言った。
「じゃあ、来週持ってくるね!!」
さっちゃんから西加奈子の本を借り、返す際に簡単な感想を伝える。さっちゃんはまっすぐな目でそれを聞いて、受け取る。そして次の本を当たり前のように貸してくれるのだ。「はい、これ!」満面の笑みで。
さっちゃんとの交換日記的な本の貸し借りがはじまった。だんだんと西加奈子の世界にはまっていき、さっちゃんから本を借りること、そして感想をお互いに言い合うことも楽しかった。小学生の時のような、健やかさだった。
しばらくしてさっちゃんが退職してからは、自分で西加奈子の新刊を買い続けた。さっちゃんから借りなくても、ゆうにわたしは西加奈子のファンになっていたのだ。
2015年、西加奈子が直木賞を受賞した時は、真っ先にさっちゃんにメールを送った。「おめでとう!!!!!」
受賞した本人に伝えるべき言葉だが、西加奈子という人を紹介してくれたさっちゃんにこの想いを伝えたかったのだ。
さっちゃんからすぐに返事が来た。「ありがとう!もう、いろんな人からおめでとうメールが届くねん。あたし、西加奈子ちゃうねんけどな」
もはやみんなの中では、さっちゃんイコール西加奈子だった。そのくらい、西加奈子という作家の魅力を広めてくれたわたしの中では偉大な人物なのだ。
あの日、さっちゃんが一枚の切り抜きを見せてくれなかったら、と思うと同時に、なぜわたしにせっせと本を貸してくれたのか、不思議に思う。
西加奈子の本にはだいたい社会では生きにくそうな人物が登場する。さっちゃんがまさか「こいつ生きにくそうやから共感するやろ」と思って貸してくれたのか、それは深読みなのか、しかし両手の中からこぼれ落ちたものの中に見出す光りに、わたしはめっぽう弱いのだ。
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