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小説「眠れる森」

眠れない。
とにかく眠れない。

眠たいとか眠たくないとかそういった次元ではない。
純粋に眠ることが出来ない。
かれこれ十日ほど眠っていない。

遅すぎるぐらいだが流石にこれは危険に思い病院に行くことにした。
医者が言うには近年流行りつつある現代病らしく、急激に患者数が増加しているらしい。
重篤な人だと一年近く寝ていない人もいるそうだ。
眠れていないは眠れてはいないのだが、どうやら体自体は要所要所で急激なスピードで回復を行っているため、体へは直接的なダメージは少ないようだ。
ただ、急激なスピードでの回復により体への負荷が高く、その反動で回復後に疲労感・虚脱感が押し寄せるとのことだ。
また、体は回復することが出来るが脳が休まる時間がないため、脳の機能が著しく低下するらしい。
脳の機能低下は私自身も感じているとことではある。
お風呂に入ろうと思って、粒上の入浴剤を湯船に入れようとして準備していたら、何故か浴槽ではなくお風呂場の床にぶちまけたり、コーヒーを飲もうと電気ケトルでお湯が沸くのを椅子に座ってしばらくしてから、電気ケトルのスイッチを押していないことに気づいたり。
細かいことでのミスが非常に多くなっていた。

また、医者の話ではこの病気の大きな特徴が睡眠導入剤等で眠れるようにはならないことにあるらしい。
とにかく、眠ることに関しての訓練が必要になる。

そのため、今回医者に紹介された睡眠専用の施設「眠れる森」に来た訳だ。

この「眠れる森」は実際に森の奥深くに建てられており、人間が睡眠しやすい環境を作っている。
そこで睡眠の訓練を受けて“睡眠することに慣れて”そして普段の生活でも睡眠ができるように施術していくというコンセプトの施設なのだとか。

些か睡眠の訓練というもののイメージが一切わかないままこの場に来たが、とにかく建物が見当たらない。
もう森に入って三十分近く経っているが建物の“た”の字も見えてこない。
そもそも視界に人工物が何も映っていない。
このまま先に進んで本当に「眠れる森」とやらがあるのか疑わしくなってきた。
ただ私には進むしかなかった。
眠るために。

それから更に30分ぐらい歩いたところでようやく建物が見えた。
とても森の奥深くにはあるとは思えない近代的で大きな建物がそこにはそびえ建っていた。
長い時間森をさまよっていたため、建物を見つけることが出来て少し安堵した。
そして、安堵と共に得体の知れない不安も抱いていた。


続く

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